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社説:3児死亡事故 飲酒運転自体に厳しい処断を

 幼児3人が死亡した福岡市の飲酒運転事故で、福岡地裁が懲役25年を求刑された元同市職員に懲役7年6月の判決を言い渡した。業務上過失致死傷罪と道交法違反の併合罪による法定刑の上限だが、危険運転致死傷罪の適用は見送られた。

 地裁が昨年12月、検察側に訴因追加を命じたため予想されていた結論だが、遺族や関係者には割り切れぬ思いを残したに違いない。元市職員ははしご酒の末に車を運転し、事故後は被害者を見捨てて逃走した。しかも友人を呼び出して身代わりを依頼したり、大量の水を飲んで飲酒の事実を隠そうとするなど、非情で卑劣と映る行動をとっていたのだからなおさらだ。

 危険運転罪に問われたケースでは、最近は20年を超す懲役刑に処せられることも珍しくなくなった。昨年12月には神戸地裁尼崎支部が、酒酔い運転で3人が死亡した事故で懲役23年を言い渡したばかりでもある。

 今回の判決は、事故原因をわき見運転とし、酒に酔っていたが「正常な運転が困難な状態」ではなかった、と認定した。現場まで正常に運転していたこと、事故後の警察による飲酒検知で酒気帯び状態とされたことなどが根拠とされた。

 危険運転罪の成立要件を厳密に解釈した判断と言えるが、法規定の弱点が露呈された結果でもある。厳罰化を求める世論に押されて性急に制定されたせいか、「故意に危険な運転をしたこと」の立証が難しい上に、適用の基準があいまいだからだ。

 確かに、飲酒運転による事故を大幅に減らすなど目覚ましい効果はあった。だが、たとえ結果が重大でも、事故自体は過失によるものなのに、最長で30年もの懲役刑を科すことには、法律の専門家から殺人などの故意犯との量刑のバランスを欠く、といった批判が相次いでいた。施行後約6年が経過し、見直すべき時期を迎えたのかもしれない。

 飲酒運転撲滅の機運が高まる折、酒量や酔いの程度にかかわらず、酒を飲んで車を運転すること自体を、社会的、法的にさらに厳しく処断すべきでもある。危険運転罪適用の可否をめぐって量刑の不均衡が生じるのは、事故を起こすまでの飲酒運転が結果的に容認されているせいでもある。飲酒運転即犯罪という共通認識が広がれば、違反者をれっきとした故意犯として処罰することへの抵抗感も薄れるのではないか。

 危険運転罪の新設など厳罰化の動きは被害者対策として進められたが、もともと被害者や遺族の救済は刑罰のみによって達成できるものではない。経済的支援や再発防止策、精神面でのケアなどを充実させ、被害感情を少しでも和らげるために社会全体で努力と工夫を重ねなければならない。判決を機に、被害者対策のあり方も問い直すべきだ。

毎日新聞 2008年1月9日 東京朝刊

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