サロン・インタビュー

《独占インタビュー》ユーザー中心でなく、使用法中心設計−−デザインIT!2007で講演したラリー・コンスタンティンさん

写真

Design IT!プレスルームでインタビューに答えるコンスタンティン氏

ソフトウェアエンジニアリングの第1人者で、現在はユーザーの活動(activity)や使用法(usage)に注目するラリー・コンスタンティン氏(Constantine&Lockwood, Ltd.,共同設立者、主任研究員)。先月11日から2日間、東京で開かれ、のべ1千人が参加した「Design IT! Conference 2007」(ソシオメディア主催)の海外講演者の一人として初来日した。「使うためのデザイン−−実社会における人間活動のサポート」と「ユーザーの作業効率向上を目指して−−ソフトウェアの使用法中心設計」をテーマにした2つの講演では、「どんなに見た目が綺麗なデザインでも、商品が探せなければ意味がない」、「サイトデザインは、ユーザーニーズから出発すべき」など一貫してユーザーやカスタマーの視点から使いやすさ、見つけやすさの重要性を訴えた。二日目の講演終了後、昼食の時間を割いて、快くユニバーサロンのインタビューに応じてくれたのは自身、アクセシビリティに深いかかわりがあったから?

 

(聞き手 岩下恭士)


 

岩下 講演の中で、デザイナーはサイトの使いやすさに配慮していないというご指摘がありましたね。

ラリー 米国でも大手の商用サイトではユーザビリティに注意を払い始めていますが、ユニバーサロンが提案するコンセプトに相当するようなユニバーサルデザインをモデルにしたサイトはありませんね。似たようなことをドアの取っ手で感じました。アメリカではドアの取っ手は円い形ですが、日本はレバーなので、握ったり回したりするのが難しい人も肘で押すだけで簡単にドアが開けられます。とてもいいアイディアだと思いました。ウェブのアプローチでは、結局グラフィックな健常者用のページとスクリーンリーダーの読み上げやキーボード操作に適したページを別に設けるというソリューションが採用されることが多いですが、すべてのユーザーにとってアクセスしやすいページへの取り組みはもっと研究されなければならないと思います。

岩下 UCD(ユーザー・センタード・デザイン)にとって、UI(ユーザーインターフェース)はどのような意味を持つと考えますか?

ラリー 講演でも申し上げたように、私の立場はUCDではありません。というのも、UCDは過剰にすべての人間というところにこだわりすぎているからです。本当に必要なことは目的の達成、つまり求める情報が見つけやすいか、ショッピングサイトでオーダーがしやすいかといったことです。そこで、私たちは「Usage centered design」という概念を提唱したのですが、(午前中に講演した)ケビン・クラーク氏みたいにPRがうまくないのでなかなか浸透していません(笑)。ドナルド・ノーマンと私は最近、HCDやUCDの代わりに、アクティヴィティによって動機付けられるデザインという意味で「アクティヴィティ−センタード・デザイン」について話し合っています。

岩下 アクティヴィティ−センタード・デザインのアプローチでは、ユーザーテスティングで用いられるような人間行動の観察は行わないと?

ラリー もちろん、観察は重要です。しかし、同様に重要なのはユーザーとの対話や注意深い思考です。ケビンのように経済的に余裕があれば、ニューヨークの株式取引所に入って、株の売買で役立つノートPCのデザインを見出すことができるかもしれませんが、たとえその場にいなくても参加者へのインタビューや思考をめぐらすことで同様の結果を得ることは可能です。

岩下 PCスキルが充分あるユーザーとスキルの乏しい人では、求めるデザインが違ってくると思います。両者を満足させるようなユーザー体験を提供できるデザインというのは可能でしょうか?

ラリー とても重要なポイントですね。しかし、私の考え方はちょっと違います。初心者と上級者という固定した2種類のユーザーがいるわけではありません。それらの人たちは絶えずインタラクションを通して進歩しているのです。それを私は「プログレッシブユーセージ」と呼んでいます。従って初心者向けのデザインと上級者向けのデザインという二つの区別されたデザインがあればよいということにはなりません。動的な進化の流れを取り込むことが重要なのです。初めてサイトを訪れた人も2回目以降はそのサイトに対して違った印象を持つようになります。ユーザー体験は常に動いているわけです。

岩下 私のユーザー体験をお話したいと思いますが、ショッピングサイトのオーダーフォームについて前から納得できないことがあります。配送先住所の入力で郵便番号を入力したあとに、都道府県の選択を求められます。つまり、郵便番号が分かれば、市区町村レベルまで特定できるわけで、情報として必要なのはそれ以下の番地やビル名、部屋番号くらいだと思います。プロのデザイナーなら、郵便番号から住所を取得できるプログラムを作ることなんかたやすいことではないですか?というのも、特に音声ブラウザーを使っているものにとっては46個の都道府県選択メニューから一つを選ぶのは時間がかかり、ストレスの多い作業だからです。北海道とか沖縄のように最初や最後に読み上げられるものなら簡単ですけどね(笑)。

ラリー 商用サイト運営者にとって古典的なよい例ですね。たしかに郵便番号入力だけで充分であるべきです。郵便番号と都道府県情報の両方を求めるのはおそらく誤入力の防止のためだと思います。より使いやすいショッピングサイトでは、たとえばカードでの支払いでカード会社を選択することなく、カード番号だけを入力すると自動的にカード会社を識別して表示するプログラムもあります。もし違うカード会社が表示されれば、ユーザーは入力ミスに気づくでしょう。どれがベストかは一概に言えません。

岩下 しかし、カード番号だけ入力するようなデザインがユーザーにとって楽なことは誰にでも分かることです。にもかかわらずそのようなデザインを採用しないのはなぜ?

写真ときおり身ぶりを交えながら話をするコンスタンティン氏
ラリー よい質問です。理由は幾つか考えられます。最大の理由は、多くのサイトはデザインされているのではなく、ただプログラムされているだけだからです。あるいは、上司が流行の技術やデザインをどんどん取り入れるようWEBチームに過大な要求を課す場合、ときには限られた期間内に仕上げることを強いられることもありデザインの細部までかまっていられない。あるいはデザイナーにユーザビリティのセンスがないなどです。そこで今日、ユニバーサロンの、とりわけこれからWEBデザインの仕事にかかわろうとしている若い読者のみなさんにはインタラクション、情報アーキテクチャー、ユーザビリティをしっかり学ぶことを強く要望します。

岩下 サイト運営者にとって、ユーザーやカスタマーが問い合わせるためのメールアドレスを設置することは有効だと思いますか?

ラリー もちろんです。アマゾンのような巨大なショッピングサイトは、意図的かもしれませんが、しばしば問い合わせ方法を探しにくくしています。私は、電話番号を含めて、ユーザーからのフィードバック手段をはっきり分かるように掲載すべきだと思います。

岩下 Webアクセシビリティについて感じていることはありますか?

ラリー 最も気がかりなのは、デザイナーやサイト運営者らのユニバーサルデザインへの理解が不十分ということとスクリーンリーダーなどの支援技術の貧しさです。基本的なHTMLやCSSを正しく読み上げても、それ以上のレンダリングを的確に翻訳するのはまだまだ難しいですからね。道のりは遠い(苦笑)。

岩下 特に今後、動的なマルチメディアコンテンツが増えてくると、動画に字幕や代替テキスト、音声解説を付けることが求められると思います。

ラリー そうですね。実は私自身、法的な視覚障害者として人生の大半を過ごし、投薬によって奇跡的に視力が回復したという経験があり、アクセシビリティの問題はひとごとに思えません。私自身はユーザビリティが専門ですが、どうすれば万人に使いやすいデザインを実現できるのか私なりにかかわっていければと考えています。



(2008年1月8日 岩下恭士)

 

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