医療・バイオ「話題の核心」

若い外科医が海外に逃げていく--もう1つの医療崩壊

2008年、どうなる日本の医療【第1回】

 実際、手術がしたい外科医にとって、米国の環境は恵まれている。能力があれば若いうちから執刀できるのはもちろんだが、それ以上に米国で働く外科医が強調するのは、雑用に煩わされず手術に集中できることだ。

 手術の準備や後片付け、書類書き、その他の雑務は、日本では研修医や下っ端の医師の仕事とされており、ただでさえ医師不足で労働が過密になっている昨今、外科が忌避される原因の1つになっている。対して米国では、医師の業務をサポートするPA(Physician Assistant)という専門職が確立されており、そうした業務を行ってくれる。

 報酬もはるかに高い。米ピッツバーグ大学の心臓外科の津久井宏行氏は、「個人的印象からすると、米国の心臓外科医の労働時間は日本の2分の1から3分の2、年収は2〜3倍といった感じ。単純に数字で評価すると、心臓外科医としての充実度は日本と比較して3〜6倍」としている(日経メディカル オンライン「米国で医者として働く」より)。

必要なのは待遇改善と正当な評価

 医師はそもそも学力優秀な人々である。その中で外科医を志す人はとりわけ活動的で、チャレンジ精神旺盛な人が多い。医局支配が事実上崩壊した今、自分がより活躍できる可能性がある場を海外に求める外科医が増えるのは、必然的な流れともいえる。

 イチローや松井が大リーグに行くのは野球ファンにとっては寂しいが、僕らはその雄姿を衛星放送を通じてリアルタイムで観ることはできる。しかし医療はそうはいかない。

 今、国が歪んだ医療制度を正し勤務医の待遇を改善し、学会が旧弊を改めて外科医の技術も正当に評価しなければ、「外科医療の空洞化」が、日本の医療の根幹を揺るがす大問題になりかねない。

(風間 浩=日経メディカル オンライン編集長)

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