現在位置:asahi.com>社説 社説2008年01月09日(水曜日)付 秋山参考人―防衛利権の闇は深まった「そういう事実はございません」 「記憶にはございません」 参議院に参考人として出席した社団法人「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀・常勤理事は、こう否定を繰り返した。防衛省汚職の贈賄側とされる軍需専門商社「山田洋行」から資金提供を受けたなど、一連の疑惑に対する返答だ。 秋山氏は、日米の軍需産業と政界のパイプ役といわれる。同氏が事実上運営するこの協会には、久間章生・元防衛相や額賀福志郎・元防衛庁長官ら防衛族が理事になっていた。協会は日米の交流事業を表看板にしながら、実は政官界と軍需産業をつないでいたのではないか。 こうした疑惑の解明が期待されたが、議員側に決定的な材料が乏しく不十分に終わった。国会は時期をみて関係者を証人喚問し、引き続き解明すべきだ。 汚職事件に関連してこの協会を家宅捜索し、秋山氏周辺の資金の流れを捜査している東京地検特捜部は、徹底的に事実関係を解き明かさなければならない。 秋山氏の名は、収賄罪で起訴された守屋武昌・前防衛事務次官の国会証言で登場した。秋山氏から久間元防衛相との宴席に誘われて参加した、という内容だった。秋山氏はこの宴席については否定したが、別の宴席では久間氏ら政治家との同席を認めている。 秋山氏をめぐる資金疑惑は、今回の汚職事件捜査のなかで、容疑者の供述や入金記録などから浮上してきた。 一つは、国が発注した旧日本軍毒ガス弾の処理事業をめぐるものだ。下請けとなった山田洋行側は、秋山氏から地元対策費を出すように求められ、約1億円を払ったのではないか。 また山田洋行は、米国の防衛装備品メーカーの代理店権を他社に奪われそうになった。これを防ぐため、山田洋行は自民党の防衛族議員から元米政府高官に、米メーカー側への働きかけを要請してもらった。このときも、山田洋行側から秋山氏側に資金提供があったのではないか。そうした疑惑だ。 秋山氏はいずれも否定した。その一方で、関係する米国法人に対して日米の軍需メーカーや商社から年に計1億円近いコンサルタント料が送金されているのではないか、との指摘には、「守秘義務がある」として明確な返答をさけた。疑惑は深まったというしかない。 さらに、自民党の有力者側に自衛隊出身の参院選候補者を紹介し、結果的に比例区の名簿順位が上がって当選したとも述べた。人脈を使って政治にも関与していたということだろう。 山田洋行が秋山氏側に送ったとされる資金は、同社の裏金から支出されていたとされる。一部は前次官へのわいろに使われたようだ。政界へも流れてはいないのか。 前次官らは、ゴルフ接待に加えて現金のわいろ分についても追起訴された。防衛利権の闇は深くなるばかりだ。 3児死亡事故―危険運転でないとは約4時間の間に自宅や居酒屋、スナックで缶ビール1本と焼酎のロック8〜9杯のほか、ブランデーの水割り数杯を飲んだ。その足で車を運転し、時速100キロで暴走して車に追突した。追突された車は海に転落し、一家5人のうち幼児3人が亡くなった。 これが危険運転致死傷罪の危険運転にあたらないというのは、普通の人の常識に反していないだろうか。 福岡市で06年に起きた事故について、福岡地裁は危険運転致死傷罪を適用せず、業務上過失致死傷罪などで元福岡市職員に懲役7年6カ月を言い渡した。 検察は危険運転致死傷罪と道路交通法違反のひき逃げを合わせ、最高刑の懲役25年を求刑していた。危険運転とみなさなかった判決との落差は大きい。 なぜ量刑にこんなに差があるのか。 業務上過失致死傷罪が文字通り「過失犯」であるのに対し、01年に新設された危険運転致死傷罪は「故意犯」だからである。飲酒運転などによる悲惨な事故が後を絶たないため、飲酒や著しい速度違反などの危険運転を暴行や傷害と同じような犯罪に位置づけた。 問題は、今回の事故が危険運転、つまり「正常な運転が困難な状態」に当たるかどうかだった。 元市職員はスナックから追突現場まで約8分間、普通に右折、左折やカーブ走行を繰り返し、蛇行運転などはしていない。警察官による飲酒検知では、酒酔いではなく酒気帯びだった。事故の原因は脇見運転だ。それが危険運転ではないと判断した裁判所の論理だった。 刑事裁判は刑罰を科すものだから、法律にあてはまるかどうかを厳格に判断しなければならない。とりわけ危険運転致死傷罪のような重い刑を科す場合は、法律の適用に慎重であるべきだ。 そうしたことを考えてもなお、今回の裁判所の判断には疑問がある。 いくら個人差があるといっても、今回のように大量に酒を飲んで「正常な運転」ができるとは、とても思えない。蛇行運転をしていないからといって、正常な運転とはいえないだろう。現に追突して大事故を起こしているのだ。 警察官による検知が酒気帯びだったというのも、事故から1時間近くたってからのことだ。その間に元市職員は現場から逃げ、水を大量に飲んでいた。少しでも飲酒の影響を減らそうとしたのだろう。事故直後に検知していれば、どうだったのか。 なにが危険運転にあたるのか。どこまでが「正常な運転」なのか。新しい法律なので、裁判所によって判断にバラツキがあるのが現実だ。はっきりとした基準をつくるには、判例を一つずつ積み重ねていくしかあるまい。 その際、国民の常識からかけはなれたものであってはならない。危険運転致死罪が来年始まる裁判員裁判の対象になることを考えれば、なおさらである。 PR情報 |
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