薬害肝炎訴訟をめぐり、患者全員を一律救済するための「薬害肝炎被害者救済特別措置法案」が衆院で全会一致で可決。参院でも審議が始まり週内に成立する見通しとなった。
原告・弁護団はこれを受け政府と基本合意書を十五日にも締結し、全国で約二百人が係争中の訴訟について一斉に和解手続きに入る方針だ。今回の議員立法を契機に、患者救済に向けて一気に動き始めたことを評価したい。
訴訟は二〇〇二年十月に起こされ昨年十一月、大阪高裁が和解を勧告した。だが、和解案は血液製剤の投与時期で患者を区分したため歩み寄ることができなかった。総額約百七十億円を被害者全員に分配する修正案を政府が公表しても拒否され、和解交渉は行き詰まってしまった。
一転したのは昨年末、福田康夫首相が患者全員の一律救済に向けて議員立法による解決を表明してからだ。当時、内閣支持率が急落し歯止めをかけるための窮余の一策だった面は否めず、政権浮揚につながるかどうか不透明だが、和解交渉のこう着状態を打破したことは間違いない。
救済法案は、国と製薬企業が血液製剤フィブリノゲンと第九因子製剤の投与によるC型肝炎ウイルス感染者に対して、投与時期に関係なく症状に応じて四千万円から千二百万円の給付金を支払うとの内容だ。国の責任については、前文で「甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、心からおわびすべきである」と明記した。
全国原告団の山口美智子代表は七日の会見で「わたしたちの意見が全面的に取り入れられており安堵(あんど)した」と述べており、一律救済の見通しが立ったことを歓迎したい。だが、これで肝炎問題が全面解決するわけではない。
一律救済されるのは推定一万二千人といわれる薬害肝炎被害者の一握りにすぎない。血液製剤投与の事実や感染との因果関係は裁判所が判断するため、患者は自分で証拠資料を集めて提訴し、被害認定されなければ給付金を受け取れない。カルテなどの記録が残っていないケースが多く、実際に証明できるのは千人程度とみられている。このままでは多くの未認定患者が出る。本人や家族の証言も幅広く証拠として認めるなどの措置が欠かせまい。
三百万人以上といわれる肝炎ウイルス感染者が適切な治療を受けられるように対策を講じることも重要だ。既に与党は基本法案、民主党は緊急措置法案として提出している。協議を重ね、手厚い救済策に仕上げてほしい。
参院外交防衛委員会は、前防衛次官汚職事件に絡み東京地検特捜部の家宅捜索を受けた社団法人「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀専務理事に対する参考人質疑を行った。
秋山氏に関しては、米国メーカーの代理権維持工作をめぐって防衛商社「山田洋行」から金銭提供を受けたなどの疑惑が指摘されている。与野党の安保関係議員や米国の国防関係者に幅広い人脈を持つだけに、資金の流れの解明や政治家の関与の有無など防衛利権の闇へどこまで切り込めるかが焦点だった。
残念ながら核心に迫るには至らなかった。代理権維持工作や福岡・苅田港の旧日本軍毒ガス弾処理事業の下請け参入の口利きの見返りとして多額の資金が山田洋行から秋山氏側に渡ったとされる件について秋山氏は「そういう事実はない」と全面否定した。
しかし、秋山氏の関係企業が山田洋行からコンサルタント料を受け取ったかとの質問に「そういうふうに聞いている」と認めた。が、額などについては「当事者の会社同士に確認してほしい」などとして明言を避けた。
前次官の守屋武昌被告が、昨年十一月の参院証人喚問で久間章生元防衛相、山田洋行元専務の宮崎元伸被告、秋山氏と宴席を持ったとの証言には「記憶がない」と答えた。一方で、久間氏と宮崎被告あるいは他の防衛関係企業経営者、さらには額賀福志郎財務相(元防衛庁長官)と防衛関係企業経営者との宴席は認めたが、具体的な内容には触れなかった。
参考人質疑の限界もあろうが、各党の質問は攻め手を欠いた印象が否めない。疑惑の解明は果たせず、謎は深まった。今後は証人喚問も視野に真相に迫る必要があろう。
(2008年1月9日掲載)