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  My Fairy King

   

 

 

 僕はまた、あの宇宙にいた。翼も指輪も剣も、───────そして王を、僕は失った。
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よく耐えなすった>
 聞き覚えのある声に振り向くと、あの白い長衣の老人がいた。
「いいえ」
 僕は老人を真っ直ぐに見ることが出来なかった。妖精達はみんな、僕が国を救うことを期待していただろうに!
「僕は………」
 老人はふわりと僕に近付くと、大きな骨ばった暖かな手で僕の顔を上へ向かせた。老人の深い色の瞳が、ふさふさした眉毛の下から僕を見ていた。
<
妖精国は消滅してはおらんよ>
 僕はこの目で、苦しみに満ち命を失いゆく妖精国を見たのだ。
<
目を閉じて、妖精国を想うのじゃ。………さぁ>
 僕は言われるがままに目を閉じた。
 妖精国。美しい、平和な世界。針を持たない蜜蜂。美しい花々。澄んだ小川。妖精貴族たちの美しい蝶やかげろうの羽。
 僕の愛する国。
<
………目を開けてごらん、幼き守り人よ>
 瞼を開けた瞬間、鮮やかな色彩に目がくらんだ。足に柔らかな草の感触を、頬に優しい風を感じた。
 ──────この国は何一つ、変わっていなかったのだ!
<
妖精国は幾度でもよみがえるのじゃ。この国や我々妖精の命は、人間たちの心がくれる想いだからな>
「じゃあ、王は?!
 老人は悲しげな目で、僕を見下ろした。
<
ついて来なさい>
 小川の岸辺で、妖精の娘が髪を梳いている。美しい銀の髪に小さな金の櫛がきらきら映えて、水面に輝く太陽の色をした娘のドレスの裾に、小川の水が戯れている。その傍らに、抜けるような青空の長衣を纏い、かげろうの羽を持った妖精貴族が、膝の竪琴をかきならし、優しく歌いながらはだしの爪先を水に浸して娘へ微笑みかけていた。
 僕は老人のあとについて、いつかは王と歩いた道を歩いていた。若葉が風に揺れ、ちらちらと太陽の光を地面へ投げかけていた。
 僕の足は止まってしまった。老人が振り向く。
<
どうなされた>
 僕は気付いてしまった。
 首を横に振る。
 悲しく寂しく微笑んで、老人は静かにこう言った。
<
………せめて、明るい丘の上へ、彼を埋めてやろう。………この国が、彼がいた事だけは覚えていられるように>
 そして僕の手を取り、また歩き始めた。柔らかな木漏れ日の下、若草がそこだけ、誰かが昼寝をした跡のように倒れていた。
 そこは確かに、王の亡骸が横たわった場所だった。灰色の悲しみが草の上にわだかまって、ぼんやりと人型を形作っていた。
 僕は王の顔を思いだそうとしたけど、何一つ、思い出せなかった。金の髪、アメジストの瞳、白鳥の翼。それらは言葉であって、記憶として脳裏に蘇りはしなかった。その代わりに僕の胸を、灰色の悲しみが一杯に満たした。
<
妖精の死とはこういうものなのじゃ>
 老人が静かに言った。
<
あとには悲しみしか残らぬ……>
 いつの間にか、僕達の回りを妖精貴族達がとり囲んでいた。
<
王は死をもって、我らを守られたのです……>
 僕の傍にいた、青空色の長衣を纏った妖精貴族が呟いた。僕は彼を知っていた。あの戦いの日、妖精軍を率いて風になって現れた妖精だ。
<
……あなた様を、お守りになったのです……>
「僕、を」
 彼は頷いた。
<
あなた様は契約により、この世界と命を共にする筈でした。……しかしあなたの>
<
そこまでじゃ。それ以上話してはならぬ>
 老人が静かに制止した。
「どうして……!!僕は、知りたい!!
 老人は灰色の悲しみ、王の亡骸を指差した。
<
ならば悲しみを覗くがいい。全てを教えてくれよう。……人づたいの不確かな言葉ではなく、記憶をじゃ>
 僕の傍らの妖精貴族は目を伏せ、胸に手を当てて老人に礼をした。
 僕は王の亡骸に近付き、その顔の辺りを、あのアメジストの瞳の辺りを覗きこんだ。夏の日だった。

 あの日があんなに暑くなければ、

 前の晩が夏至の夜でなければ、

 僕が弟をあそこへ連れていかなければ、

 あるいは僕は、弟を失わずに済んだだろうか。

 いいや。

 弟はいずれにしろ、<>に会っていただろう。

 <>は弟を探し求めていたし、弟は<>が迎えに来るのを知っていて、待っていたに違い無いのだから。

 

 

  purte deux

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