My Fairy King

   15

 

 

 兄を見付けるのは難しくなかった。翼を広げ森の上へ飛び上がると、鉛色の空の真ん中に、暗闇の繭が浮かんでいたからだ。

 暗闇の風は強く渦巻いて、僕を遥か遠くへと吹き飛ばそうとした。

「兄さん!!」

 声は暗闇にかき消されてしまった。まとわりつく風はやがて僕を包んで、僕は暗闇の中にたった一人だった。

 いつかと同じだ。全てが消え失せてしまった。

「兄さん!!」

 叫んだ声すら無に帰して、僕の耳にさえ届かない。

 僕は、今度こそたった一人だった。手を差しのべてくれる王は、──────王は、もういないのだ。

 涙が流れたかもしれないし、流れなかったかもしれない。頬にも手足にも感覚はなかった。まるで、存在すらしないかのように。

<目を開けよ>

 懐かしい声を、聞いた気がした。

 どうして僕は、目を閉じていたんだろう?瞼を開けると、目の前の暗闇の中に兄がいた。兄は胎児のように体を丸めて、すすり泣いていた。

 一人だから、寂しいから、泣いていた。

「違う」    目を閉じないで、僕を見て。僕がいる。

「僕がいるよ」

 それは兄で、僕だった。僕達は二人で二人。僕の寂しい片割れ。妖精王を滅ぼしたのは、兄であって僕であったのだ。

 僕達を隔てる暗闇は、孤独そのものだった。僕は剣の柄を手の中に感じた。暗闇の中で埋め込まれた宝石が、きらりとアメジストに輝いた。

 剣を持ち上げ、大きく降り下ろす。

 暗闇が裂けて光がこぼれ、僕は兄に手を伸ばしてぎゅうっと抱きしめた。

 剣が僕の手の中で、形を失う。僕の翼は鮮やかな色をなくして透明になってやがて消え、僕は兄と一緒に光の中を墜ちていった。どこまでも、どこまでも。

 やがて優しい暗闇が僕達を受けとめて、深く深く沈んでいった。

 

 

  quatorze purte seize

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