My Fairy King
9
僕は起きるとすぐ、兄と一緒に木苺を摘みに森へ行った。体は一晩眠っていたから元気だった。僕は歩きながら、兄に決心した事を話す事にした。
「ねえ、お兄ちゃん」
今は見えないけれど確かにそこにある、妖精王の誓いの指輪に向かって、勇気を下さいとお願いしながら───
───だって兄は、僕が妖精達と関わるのを良く思っていないから──────できるだけ落ち着いて、普通に、静かに言おうとした。
「僕ね、………妖精国の守り人になったんだ」
声はかすれていた。僕がちらりと兄を見ると、真っ直ぐ前を見て歩く兄の顔には、何の表情も浮かんではいなかった。
理解しようとしているらしかった。兄はゆっくり眉間にしわを寄せ、呟いた。
「………守り人?」
「そう。………人間達が忘れてしまえば、妖精国は滅びてしまうんだ」
僕は全て話した。不死の身を持つ妖精達には、忘却こそが死なのだと。だから僕は妖精国とこの世界を繋ぐ者となり、滅亡からあの美しい世界を救いたいのだと。
妖精の貴族達の事、妖精の丘の誓いと命の炎の儀式の事。僕の左手に今もある、誓いの指輪の事。
兄は突然立ち止まった。僕は振り返った。兄の目には悲しげな、怒っている様な色が浮かんでいた。
「………行っちゃ駄目だ」
兄は微かな声でそう言った。
「行っちゃ駄目だ! 悪魔に騙されてるんだ! いや、………幻を見てるんだよ!」
「………お兄ちゃん」
兄は僕の肩を両手で掴んで、僕の目を覗きこんだ。僕は首を横に振って、微笑もうとした。
「心配しないで。………大丈夫、危ない事なんて何にも無いんだもの」
「駄目だ! ……だって、……妖精なんかいないんだ! 妖精なんかいる筈が無いんだ!!」
僕は呆気にとられて兄を見た。それから悲しくなって、急に涙で兄が見えなくなった。
「……どうして」
声は小さかった。
「どうして信じてくれないの?! どうして……どうして悪魔だなんて言うの?! どうして妖精なんていないって言うの?!」
かすれてひびわれた、自分でも驚くような大声だった。
「お兄ちゃんだって……お兄ちゃんも一緒に妖精国へ行ったのに! 一緒に僕の妖精王に会ったのに!」
「夢だよ! きっと夢だったんだ!!」
兄の目はもう、僕の目を真っ直ぐ見てはいなかった。何時からだっただろう? 兄が僕の目を見なくなったのは。
「お兄ちゃんなんかもう知らない!!」
僕はそう怒鳴ると、くるりと兄に背を向け、森の奥へと走り出した。
兄は僕を呼び止めなかった。僕は振り返りもせずに走った。森の向こうへ、丘へ、妖精達の丘へ。
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