My Fairy King

   

 

 

 僕は起きるとすぐ、兄と一緒に木苺を摘みに森へ行った。体は一晩眠っていたから元気だった。僕は歩きながら、兄に決心した事を話す事にした。

「ねえ、お兄ちゃん」

 今は見えないけれど確かにそこにある、妖精王の誓いの指輪に向かって、勇気を下さいとお願いしながら───

───だって兄は、僕が妖精達と関わるのを良く思っていないから──────できるだけ落ち着いて、普通に、静かに言おうとした。

「僕ね、………妖精国の守り人になったんだ」

 声はかすれていた。僕がちらりと兄を見ると、真っ直ぐ前を見て歩く兄の顔には、何の表情も浮かんではいなかった。

理解しようとしているらしかった。兄はゆっくり眉間にしわを寄せ、呟いた。

「………守り人?」

「そう。………人間達が忘れてしまえば、妖精国は滅びてしまうんだ」

 僕は全て話した。不死の身を持つ妖精達には、忘却こそが死なのだと。だから僕は妖精国とこの世界を繋ぐ者となり、滅亡からあの美しい世界を救いたいのだと。

妖精の貴族達の事、妖精の丘の誓いと命の炎の儀式の事。僕の左手に今もある、誓いの指輪の事。

 兄は突然立ち止まった。僕は振り返った。兄の目には悲しげな、怒っている様な色が浮かんでいた。

「………行っちゃ駄目だ」

 兄は微かな声でそう言った。

「行っちゃ駄目だ! 悪魔に騙されてるんだ! いや、………幻を見てるんだよ!」

「………お兄ちゃん」

 兄は僕の肩を両手で掴んで、僕の目を覗きこんだ。僕は首を横に振って、微笑もうとした。

「心配しないで。………大丈夫、危ない事なんて何にも無いんだもの」

「駄目だ! ……だって、……妖精なんかいないんだ! 妖精なんかいる筈が無いんだ!!」

 僕は呆気にとられて兄を見た。それから悲しくなって、急に涙で兄が見えなくなった。

「……どうして」

 声は小さかった。

「どうして信じてくれないの?! どうして……どうして悪魔だなんて言うの?! どうして妖精なんていないって言うの?!」

 かすれてひびわれた、自分でも驚くような大声だった。

「お兄ちゃんだって……お兄ちゃんも一緒に妖精国へ行ったのに! 一緒に僕の妖精王に会ったのに!」

「夢だよ! きっと夢だったんだ!!」

 兄の目はもう、僕の目を真っ直ぐ見てはいなかった。何時からだっただろう? 兄が僕の目を見なくなったのは。

「お兄ちゃんなんかもう知らない!!」

 僕はそう怒鳴ると、くるりと兄に背を向け、森の奥へと走り出した。

 兄は僕を呼び止めなかった。僕は振り返りもせずに走った。森の向こうへ、丘へ、妖精達の丘へ。

 

 

  huit purte dix

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