飲酒運転による福岡市の三幼児死亡事故で、八日の福岡地裁判決は、危険運転致死傷罪の適用を見送り、脇見による業務上過失致死傷罪と認定、懲役七年六月を言い渡した。道交法違反との併合罪で懲役二十五年の求刑に対し、結論は三分の一以下の量刑。業過致死傷の併合罪としては最高刑だったが、裁判所の判断に賛否は割れている。
「法適用の原則に従った内容で、認定事実を前提にすればやむを得ない結論」と話すのは井戸田侃・立命館大名誉教授(刑事法)。「最近は結果の重大性を重要視する傾向が強いが、行為者の責任を問うのが刑法の大原則だ」と説明する。
危険運転罪の法定刑の上限は懲役二十年だが、業過致死傷罪は同五年。適用される罪名によってその開きはあまりに大きい。井戸田名誉教授は「法定刑の差が大きい罪ほど適用は厳格でなければならない。危険運転罪は条文があいまいな上に適用例もまだ少なく、判例を積み重ねていく必要がある」とした。
飲酒運転事故の遺族からは厳しい声が上がった。飲酒運転の車にはねられ大学に入学したばかりの一人息子=当時(19)=を二〇〇〇年に亡くした神奈川県座間市の鈴木共子さん(58)は「危険運転罪は適用しにくい法律だったのだとあらためて突きつけられた。悔しい」と憤る。
犯罪・事故犠牲者の靴などを展示し生命の重みを訴える「生命のメッセージ展」を各地で開き、代表も務める鈴木さん。「命に対して軽すぎる判決。世論も無視されている。司法に対して不信感を持った」と批判した。
飲酒の影響による事故ではないが、昨年十二月には名古屋高裁で危険運転罪を認める逆転判決が出たばかり。しかし今回の福岡地裁判決は、再び適用を見送り、同罪をめぐる司法のスタンスが定まっていない現状も浮かび上がった。
ジャーナリストの大谷昭宏さんは「裁判官によって正常な運転についての解釈が異なり、法の安定性に問題がある。危険運転罪の法律としての未成熟さを露呈している」と分析する。二〇〇九年五月までに裁判員制度が導入され、危険運転罪も裁判員裁判の対象となる。大谷さんは「裁判員が数日間で危険運転罪の適用を判断するのは無理だ」と危惧する。
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