2008年01月08日
◆ご苦労様とお疲れ様
職場では「ご苦労様」と「お疲れ様」の区別がしばしば話題になる。
次のように説明されることが多い。
・ 「ご苦労様」 …… 目上の人が目下の人に言う
・ 「お疲れ様」 …… 目下の人が目上の人に言う
では、この区別は、本当に正しいか?
──
まず、現実の実態としてどうなっているかというと、確かに、そういう習慣がある。
問題は、それが国語学的に正しいかだ。
──
歴史的に見ると、そんな用法は見出されなかった。この用法は、近年になって急に出現したものである。したがって、「どちらが正しい」というようなことは、国語学的には言えない。単に「社会習慣的にそういうことがある」というふうにしか言えない。
しかし、それだけでは、話は面白くない。国語学的には、どう見なすのが正解か?
──
国語学的に言おう。この二つはどちらも「ねぎらい」の言葉である。そして、ねぎらいというのは、そもそも、上位の者が下位の者に施すものだ。
ゆえに、課長が部下に対して、
「ご苦労様」
「お疲れ様」
と語るのは、どちらも問題ない。そこには確かに、ねぎらいの意がある。(「目上の者が目下の者に語ったから誤用だ」と主張するのは、勘違い。)
では、部下が語るときは?
「ご苦労様」
「お疲れ様」
は、どちらもねぎらいの言葉であるが、そもそも、部下が上司にねぎらいをかけるということが、本質的に、出過ぎたことである。分をわきまえないこと、と言える。
だから、正解は、「どちらも語らない」ということだ。部下にはねぎらう資格がないのだから、ねぎらいの言葉をかけるべきではないのだ。
比喩的に言おう。
あなたが家庭に帰る。すると、娘が努力して、テストで百点を取っていた。あるいは、何らかの表彰を受けた。そのときは、あなたは娘に、「よくやったね」「がんばったね」とねぎらうといい。
しかし、娘の方があなたに対して、「そんなに稼いだの。よくやったね。頑張ったね。褒めてあげるよ。よしよし。頭を撫でてあげる」などとねぎらうのは、分不相応である。差し出がましいと言うべきだ。
むしろ、娘としては父親に対して、「働いてくれて、ありがとう」と感謝するのが正しい態度だ。
( ※ 娘の態度が間違っていたら、正してやるといい。それが教育だ。)
──
結論。
「ご苦労様」も「お疲れ様」も、ともにねぎらいの言葉である。それらはともに、目上の者が目下の者にかける言葉である。
ゆえに、こう言える。
目上の者が語るときには、どちらの言葉を使ってもいい。
目下の者が語るときには、どちらの言葉も使ってはならない。ねぎらいよりは、むしろ、感謝(など)の言葉を語るべきだ。会社ならば、上司に黙礼するだけでもいい。いずれにせよ、ねぎらいをかけるというのは、分不相応の、出過ぎた生意気な真似である。
──
国語学的には、以上のようになる。
しかしながら、ビジネスの現場では、国語を理解しない阿呆が多いので、
・ 「ご苦労様」 …… 目上の人が目下の人に言う
・ 「お疲れ様」 …… 目下の人が目上の人に言う
という常識(?)が幅を利かせている。嘘も普及すれば真実になる。嘘から出たまこと。(?)悪貨が良貨を駆逐する。ゾンビが真人間を駆逐する。
というわけで、現状では、デタラメ(間違い)が標準的である。そういう世の中で生きるときには、真実を語ると、排除される。
だから、まわりの人がみんな間違いをしているときには、あなたもまた間違いをするのが、この世の処世術である。
大事なのは、真実を語ることではなくて、間違いばかりを語る阿呆に合わせることなのだ。「こいつらはバカだなあ」と思いながら、そういうバカに合わせて、あなたも間違い表現を使えばいいのだ。……そうすれば、世の中を楽に生きていける。
[ 付記 ]
私だったら、どうするか?
上司の立場で部下に語るときには、「お疲れ様」「ご苦労様」と語ることもあるかもしれない。(ただ、どうせ語るなら、「ありがとう」「よくやってくれたね」と語りたい。)
部下の立場で上司に語るときには、「お疲れ様」「ご苦労様」と語ることはない。言いたくもないし、言う気もない。(黙礼するだけ。)
基本的には、私としては、どちらも語りたくない。こういう馬鹿げた挨拶みたいなのは、したくないですね。必要な挨拶は、「おはようございます」だけだ。「お疲れ様」「ご苦労様」は、無意味な挨拶、という感じ。
こういう言葉を聞いて、嬉しく思ったことなど、一度もない。言われたことはさんざんあるが、いつも「バカにされた」という気がするだけだ。
いや、相手は本当に、馬鹿にしているのかもしれないが。。。。。
[ 余談 ]
なお、私が上司として部下を採点するときは、私に向かって「お疲れ様」でも「ご苦労様」でも、いちいち口に出すうるさいやつは、減点してやりたい。黙って仕事をする部下に、高評価を与える。男は黙って仕事をしろ。
(あなたの上司も、「男は黙って仕事をしろ」と思っているかもしれない。……いや、あなたの上司はただの阿呆かな? 「お疲れ様」と言われて、喜ぶ阿呆かも。)
posted by 管理人 at 18:13
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