法の裁きに両親の思いは通じなかった−−。福岡市東区で06年8月に起きた3児死亡事故。8日の福岡地裁判決は、愛する3人の子供を奪われた両親が最後まで念じた危険運転致死傷罪の成立を、認めなかった。大上哲央(あきお)さん(34)、かおりさん(31)夫婦は3児の遺影を胸にそろって法廷に足を運び、「お互いがお互いを思いやり、日本から飲酒運転がなくなる日を」と願いを込めながら、静かに判決に聴き入った。【石川淳一、松本光央】
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夫婦はともに黒のスーツ姿で入廷。午前10時過ぎ、元市職員、今林大(ふとし)被告(23)に判決が言い渡されると、傍聴席の中ほどに座った哲央さんは、3人の遺影が収まった額を手に静かにうつむいた。隣のかおりさんは、脇にいた弁護士の説明に小さくうなずいた。かおりさんが法廷を訪れたのは初めて。今林被告と対面し、落ち着かないようにまばたきを繰り返しながら、被告の言動を目で追った。
一方の今林被告。いつものように黒のスーツ姿で入廷。傍聴席に2度、深々と数秒間頭を下げ、被告人席に着席した。判決にも表情を崩さず、終始うつむいて聴き入った。
川口宰護(しょうご)裁判長も判決で「最大限の愛情を注がれた3児は、夢や希望に満ちあふれた人生を迎えようとした矢先、短い一生を終えた。夫妻の喪失感は筆舌に尽くしがたい」とした上で「家族の幸せを一瞬で葬り去った今回のような事故が繰り返されないよう願う」と述べた。また、言い渡し後には今林被告に向かい「一生かけて、罪を償っていきなさい」と付言した。閉廷後も、夫婦と被告の目が合うことはなかった。
1年5カ月前、残暑の熱帯夜。車の中で、紘彬(ひろあき)ちゃん(当時4歳)、倫彬(ともあき)ちゃん(同3歳)、紗彬(さあや)ちゃん(同1歳)の3人は眠りに落ちていた。車内には、捕ったばかりのカブトムシ1匹が入った虫かご。幸せな家庭は、翌朝からも続くはずだった。突如、ミラーに映ったライトが、それを奪い去った。
激しい衝撃とともに一家5人の乗った車は橋の柵を突き破り、漆黒の博多湾へ。夫妻は脱出したが、3人は車内に取り残されたままだ。「生きるけんね! 助けるけんね!」。視界のない中、かおりさんは4度、海中に潜り、沈みゆく車内からの救出を続けた。希望はつながらなかった。「みんな死んじゃった……」。搬送先の病室で、かおりさんのうつろな声だけが漏れた。
翌年、新たな命を授かった。亡くなった3人にかけた愛情を思い、両親は「愛子」と名付けた。3人と同じように、かおりさんは母乳で育て続ける。
よく笑う子に育った。が、たまに不安そうな泣き方をすることがある。「事故後の不安定な時におなかにいたからだろうか……。母親らしくできなかった」。かおりさんは自らを責めることもあるが、たくさん抱きしめて、安心させることを心がけている。
紘彬ちゃんの学生服、倫彬ちゃんの成長、紗彬ちゃんの花嫁衣装−−願った姿はもう、見ることはできない。それでも3人は、両親の心の中にいる。
自宅玄関には今も、亡くなった3人の靴が並び、毎日両親が声を掛ける。2週間前のクリスマス、両親は、絵本を4人に贈った。毎年の決まり事だ。そして「サンタさんからも、みんなが大好きな動物のぬいぐるみが、届いたみたいです」(かおりさん)。
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