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清月庵　鯨墓

山口県北浦沿岸では古くから捕鯨が行われていたことが知られているが、ここ通浦では延宝元年(1673)から網取法による捕鯨が始められ、明治末期まで長州・北浦捕鯨の基地として繁栄した。この捕鯨操業時の延宝7年(1679)通浦の向岸寺5世讃誉随上人は、隠居所であった。ここ清月庵に観音堂を建立して、捕獲した鯨の回向(浄土宗における法要のこと) を始めた。この後元禄5年(1692)に鯨組の網頭たちによって、鯨墓が建立されている。 この鯨墓は花崗岩でつくられており、高さ240cm、幅46cmではかの正面には大きく「南無阿弥陀仏」、その下に「業尽有情難放不、故宿人天同証仏果」と陰刻されている。 この意味は、「我々の目的は本来おまえたち胎児を捕るつもりではなく、むしろ海中に逃がしてやりたいのだ、しかしおまえ独りを海へ放ってやっても、とても生き得ないだろう。どうか哀れな子達よ念仏回向の功徳を受け、所業無常の悟りを開いてくれるように」というものである。墓の側面には「元禄5年壬甲5月、願主設楽孫兵衛、池永藤右衛門、早川源右衛門」と3人の網頭の名が刻まれている。またその背後には元禄5年から明治時代にかけての鯨胎児70数体が埋蔵されている。 向岸5世讃誉随上人はここに隠栖中、毎日のように生け捕られる鯨に哀れみを抱き、胎児を祈ってきた。 本寺には位牌、過去帖も備えられ村人と共に、くじら回向をつとめ、念仏供養を続けてきた。 人情の奥床しさが偲ばれる。 長門市教育委員会