都心の名建築 保存か撤去か 景観保護 所有者頼み

   2007/06/28

 東京・日比谷にある昭和初期の名建築が姿を消そうとしている。解体が決まり、市民団体などが保存を求めているが、撤去は時間の問題となっている。一方、近くの丸の内地区では、赤れんがのJR東京駅駅舎の復元工事が始まるなど、伝統的な景観に配慮した再開発が進む。2005年に施行された景観法は、良好な景観を「国民の共通資産」とうたうが、実際に法が順守されるかどうかは、所有者の意向次第。二つの対照的な動きは、景観の大切さが指摘される中、再開発をめぐる問題点を浮き彫りにしている。(東京支社・足立 聡)

法的拘束力に限界も
JR東京駅 500億円かけ修復へ/三信ビル 解体も「面影残す」

解体工事が始まった「三信ビルディング」。今は完全に防護壁が覆っている=東京都千代田区

 解体が始まったのは日比谷公園に面する八階建ての「三信ビルディング」(一九三〇年完成)。曲線のある外観や吹き抜けなど、独特の趣で知られた。

 所有する三井不動産は「老朽化で安全性を確保できない」と、二〇〇五年一月に解体を発表し、今年五月から工事をスタート。新たにビルを建設する予定だが、「デザインの一部を取り込み、面影を残す方針」とする。

 これに対し、日本建築学会や日本建築家協会は要望書を同社に提出し、市民団体も署名活動をするなど反対運動が起こっている。

 一方、日比谷から一キロ足らずのJR東京駅では、五月末、「丸の内駅舎」を一九一四(大正三)年当時の姿に戻す工事がスタートした。明治の名建築家・辰野金吾の設計で、第二次大戦の空襲で屋根などが焼け落ちたが、戦後、三階を撤去し、二階建てに。丸いドーム屋根は八角形となった。

 JR東日本は、解体せず、五年かけて壁などを残しながら復元する。事業費五百億円は、上限まで使っていない駅舎の容積を、周辺のビルに移転・売却して賄う。

 工事に連動する形で、丸の内のオフィス街では景観を意識したビルの建て替えが進む。同地区の地権者やJR東日本、千代田区などは「風格ある街並みは貴重な資源になる」として、まちづくり懇談会を結成。二〇〇〇年、地区全体にガイドラインを策定した。これに沿って、ビルには、低層階に大正や昭和初期の内外装の一部を残すなどの工夫を凝らす。

 丸の内のように、地域ぐるみで景観を守る取り組みは全国的な広がりを見せる。神戸の旧居留地は先駆的存在で、地権者らでつくる連絡協議会が景観基準づくりに携わった。

 強制力のある規制に乗り出す自治体もある。東京都中央区は銀座のビルの高さを制限するルールを導入。京都市も屋外広告物の規制を強化した。

 しかし、日比谷にはこうした動きは生まれていない。景観法では、自治体が「景観地区」に指定すれば強い規制が働くが、指定には、地元の住民や所有者の同意が必要。同意がなければ「個々の所有者の意向に任せるしかない」(東京都都市整備局)のが実情だ。

 市民団体「三信ビルの保存を考える会」の松永健吾代表は「景観法はできたが、法的拘束力がないに等しい。所有者が保存したいと思える税制上の優遇策もない」と批判する。

 近代建築や都市景観に詳しい工学院大の初田亨教授は「三信ビルは、古い様式から現代的な様式に移りつつあった時代性を伝える貴重な存在。景観を保存するためには、所有者だけでなく、外部の市民や専門家らが知恵を出し合う場が必要だ」としている。


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