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2008年01月08日(火曜日)付

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給油新法―打開の道を捨てるな

 政治に駆け引きはつきものだが、それだけに終始されては国民はたまらない。私たちの生活も国の将来も、政治のありようにかかっているからである。

 正月休みを終えて、臨時国会はきょうから最後の論戦が始まる。

 だが、与党側はすでに腹を固めている。インド洋での海上自衛隊の給油活動再開のための法案を、参院で賛成を得られなくとも、衆院で3分の2の多数で再可決し、成立させる。ここでためらっては、福田政権の求心力がしぼむ。そう思い定めているようだ。

 一方、民主党は何があっても反対を貫く。年末になって、アフガン復興支援を盛り込んだテロ根絶法案を国会に提出したものの、主眼は「対案がない」との批判をかわすところにありそうだ。

 両党ともに再可決は既定路線。野党はこの激突を皮切りにして、今月中旬からの通常国会で解散・総選挙に追い込めるかどうか。与党はそれをいかにかわすか。政界の関心はそんな胸算用に移ってしまったかに見える。

 だが、これでよいのだろうか。

 私たちは、日本も国際社会の一員として「テロとの戦い」に役割を果たすべきだと考える。

 問題は、どんな役割が日本に適し、ふさわしいのかということだ。日米協力の重要性を軽視すべきではないが、米国が求めているからといって突き進むのでは国民の理解は得られまい。

 給油が最も効果的な協力なのか。イラク戦争への転用は今後防げるのか、防ぐつもりはないのか。アフガン情勢は混迷し、隣国パキスタンの政情不安にもつながっている。そんな現状で給油がどのような意味を持つのか。議論が尽くされたとはとてもいえない。

 民主党案には不明確な点が少なくない。自衛隊をアフガンの人道復興支援に出せるとしながらも、その条件とする「抗争停止合意が成立している地域」とはどんなところなのか。具体的な可能性を知りたい。

 給油を「憲法違反」とする小沢代表の意見には党内に異論もある。党としての意思はどちらなのか。政府案との妥協の余地はないのか。もっと説明すべきだ。

 民生支援に重点を置いているのは、日本らしい貢献策として評価できる。自衛隊派遣に国会の事前承認を求めたのも、文民統制の歯止めをきちんとかける意味で賛成だ。武器使用の基準緩和や恒久法の必要性についても言及している。

 ここは目先の駆け引きだけにとらわれずに、議論を深めるべきだ。

 まだまだ聞きたい質疑がある。たとえば、給油をやめたことが日米関係にどう影響しているのか。また、給油なしで日米同盟の信頼をどう維持するのか。

 あすには今国会初の党首討論がある。一時は大連立で一致した2人だ。給油問題で本当に妥協はありえないのか、正直なところを語り合ってもらいたい。

中東和平―紛争の60年に終止符を

 ブッシュ米大統領がイスラエルとパレスチナ自治区を初めて訪問する。大統領としての残り任期はあと1年。年末までに、パレスチナ国家樹立に向けての合意づくりを目指すという。

 今年は、1948年のイスラエル建国から60年の節目にあたる。英国の委任統治領だった旧パレスチナを分割し、ユダヤ人国家とアラブ人国家をつくる。そんな国連決議に基づくものだった。

 だが、反発するアラブ諸国との戦乱のなかで約束は守られず、パレスチナ人の受難が始まる。その60周年でもある。第1次中東戦争で70万人のパレスチナ人が難民となった。その後の戦争と人口増で、難民はいまや450万人を数える。

 米国の歴代大統領は、この解決に心を砕いてきた。クリントン前大統領も任期最後の1年間、交渉の仲介に乗り出したが、うまくいかなかった。

 今のブッシュ大統領は中東和平にはあまり熱心ではなかった。9・11同時多発テロ以来、アフガニスタン戦争やイラク戦争での「対テロ戦争」に明け暮れ、中東外交もその1点から組み立てられてきた印象が強い。

 その結果、中東などのイスラム世界で強い反米感情が広まることになった。米国はイスラエルに一方的に肩入れしていると、アラブ民衆の怒りを買っていた。それに加えての二つの戦争である。

 ブッシュ流のテロとの戦いが泥沼化している理由の一つがそこにある。ブッシュ氏がようやくパレスチナ問題に目を向け、仲介に動き出したのは納得できる。中東での信頼を回復し、対テロ戦争を立て直す第一歩になるからだ。

 1年でどれだけの成果を上げられるか、悲観的な見方も少なくない。だが、この問題で打開への道を探ってこそ、国際テロ組織アルカイダなどからアラブ民衆の気持ちを引き離すことができる。

 二つの大きな問題がある。パレスチナ国家の独立と難民問題の解決だ。

 イスラエルは国家の安全保障と引き換えに、パレスチナの占領地から撤退し、入植地を解体する。パレスチナ側は武装闘争を放棄する。慎重な交渉は必要だろうが、「土地と和平の交換」の原則でパレスチナの独立を受け入れることだ。

 さらに、難民問題を避けて合意は難しい。イスラエル国民の間には、難民の帰還を認めれば国が破綻(は・たん)するという警戒感が強い。しかし、「土地を追われた」と恨みを募らせる数百万人の難民を放置しては、イスラエルの安全もあり得ない。

 パレスチナの指導者の中にもまだ少数ながら、「イスラエルが全面撤退すれば、難民はパレスチナ国家で受け入れるべきだ」という現実的な声がある。

 妥協点をみつけるしかない。こうした交渉の仲介役を演じられるのは、双方に影響力がある米国だけである。

 日本も、米国の和平仲介を支援すべきだ。60年の紛争と苦難の歴史になんとか出口を見つけ出す年にしたい。

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