アカデミー賞はどうなる?先が見えないWGAストの実情 : FROM HOLLYWOOD CAFE

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コラム
FROM HOLLYWOOD CAFE 小西未来
1月7日更新

第97回:アカデミー賞はどうなる?先が見えないWGAストの実情

年が明けても、米脚本家組合(WGA)のストライキが終わる兆しが一向に見えない。昨年の11月5日を境に、WGAに所属する脚本家たちは一斉にペンを置いているから、決定稿を仕上げることができなかった「天使と悪魔」のような新作映画は次々と製作延期となり、残された台本で細々と撮影を続けていたTVドラマも、昨年末までにすべて製作がストップしている。

長引くWGAのストライキで、かつてない事態に陥っているハリウッド
Photo:Splash/AFLO

いまもっとも大きな騒動となっているのが、アカデミー賞の授賞式中継だ。一般にはあまり知られていないことだが、アカデミー賞をはじめとするアメリカの映画賞・音楽賞にはすべて台本がある。司会者の挨拶からプレゼンターのジョークに至るまで事細かに記されていて、前もって定められていないのは、受賞者のスピーチくらいなのだ。台本を執筆するのは、たいていはコメディアン出身の構成作家で、名のある作家はすべてWGAに所属している。彼らがストに入っているいま、授賞式は賞を授与するだけの味気ないイベントになってしまう可能性がある。

さらに、ノミネートされた俳優たちが、授賞式をボイコットする可能性もある。WGAと足並みを揃える米俳優組合(SAG)は、1月13日までにWGAとAMPTP(スタジオ側の業界団体)との労使問題が解決しなければ、授賞式参加を見合わせることを明言している。こうなると、ゴールデン・グローブ賞に参加するスターが誰もいなくなることになり、同賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)は、授賞式の中止を検討しているという。ゴールデン・グローブ賞はどうなるのか? いったい、本番のアカデミー賞(2月24日)はどうなってしまうのか? 事態は混迷の度を深めている。

日本にいる人は、「脚本家たちは、さぞや反感を買っているに違いない」と想像するかもしれない。実際、彼らがストライキを始めたせいで、娯楽産業に関わる多くの人々が仕事を失っている。しかし、脚本家たちの行動は、意外なほど支持を集めている。WGAを批判するのはマイケル・アイズナーのような経営者サイドの人間のみで、業界紙のバラエティが購読者に行ったアンケートでも、WGAの主張のほうが正しいと答えた返答者が過半数を超えていた。ハリウッド俳優のほぼ全員が所属するSAGばかりか、バラック・オバマやヒラリー・クリントン、ジョン・エドワーズといった民主党の大統領候補者がこぞって支持を表明しているのが証拠である。部外者のぼくから見ても、映画やTV番組のデジタル配信を着実に進めているメディア企業側が、「まだ利益を生み出していない」とか「プロモーション目的にすぎない」といって、脚本家への利益配分を頑なに拒否する姿勢はどうかと思う。

スタジオにも簡単に妥協できない事情がある。今年の6月にSAGや米監督協会(DGA)との現行契約が満了するため、WGAとの交渉で下手な譲歩をしてしまうと、SAGやDGAにつけ込まれることになる。そもそも、スタジオには早急に問題を解決しなければならない理由がない。いまやスタジオの親会社はGEやタイムワーナーといったコングロマリットであり、個人事業者の脚本家が束になってストを行ったところで、痒みすら感じないほどだ。彼らにとってみれば、持久戦に持ち込み、仕事を失った脚本家たちが自滅するのを待てばいいだけの話なのだ。

WGAにとって唯一の勝機は、自分たちの正当性を広くアピールし、世論を勝ち取ることだ。企業イメージが悪化してはじめて、スタジオは妥協の必要性を感じることになる。その意味において、WGAがアカデミー賞などの授賞式をボイコットするのは、逆効果のリスクを孕みつつも、意外に賢い戦略かもしれない。

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ロサンゼルス在住のフィルムメイカーである小西未来氏が、ビビッドなハリウッドの姿を毎月届けてくれます。毎月1日更新
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