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社説(2008年1月8日朝刊)

[信頼の揺らぎ]

公共のルール再建しよう

 昨年、さまざまな分野で、信頼を損ねるような現象が多発し、そのたびに信頼回復という言葉が飛び交った。

 赤の他人同士が集まって公共のルールの下で活動する場合であれ、企業と消費者が市場で商品やサービスを売り買いする場合であれ、社会の相互依存関係を成り立たせている大本は、信頼である。

 だが、多くの人たちが今、信頼の揺らぎを感じているのではないだろうか。やっかいなのは、信頼の揺らぎという現象は、組織や集団の不祥事だけが原因ではないことだ。

 ちょっとした引き金で大都市の機能がマヒすることがあるように、社会が高度化し複雑になればなるほど、もろさや危うさを抱え込むことになる。リスク社会の到来と呼ばれる現象だ。

 さらに、何が善か、何が公正か、という社会の価値基準の揺らぎが信頼の揺らぎを招いている側面もある。

 共同体が強固に存在した時代は、していいことと、してはならないことが、共同体の規範あるいはルールとして幅広い世代に共有され、受け継がれていた。

 だが、価値観が急速に多様化し、人と人のつながりが希薄化した結果、社会の調整力が弱くなり、不寛容が目立つようになった。

 東京都葛飾区で、ビラを配るためにマンションに立ち入った男性が住居侵入罪に問われ、東京高裁で有罪判決を受けた。

 マンションの廊下を歩きながら各戸のドアポストに政党の都議会報告を入れていたのだという。

 果たしてこれが、身柄を拘束し刑事罰を科すほどの事案なのかどうか。その場で注意し、問題を処理することができなかったのか、と思う。

 学校現場では、無理難題をふっかけたり、理屈に合わない苦情を言ったりする「モンスター・ペアレンツ」と呼ばれる親が増えているといわれる。

 まっとうさを取り戻すために今、何が必要か。

 否定的な話ばかりを書き連ねてきたが、阪神・淡路大震災の時のボランティア活動に見られるように、助け合いの精神はまだ枯れ尽くしてはいない。

 何が公正か、どうすれば公正さが確保できるか、を当事者たちが公共の場で話し合い、多様な価値観を取り込んだ新しいルールづくりを進めていく必要がある。

 信頼とは、社会の成員の間に暗黙の了解が成り立っている状態のことだ。そのような成熟した対話社会を生み出すことがこれからの大きな課題になると思う。



社説(2008年1月8日朝刊)

[北京五輪]

華麗な技と友好に期待

 北京五輪が七カ月後の八月八日に開幕する。一九六四年の東京、八八年のソウルに続くアジアで三回目の夏季五輪。日本とは時差一時間の隣国で世界の注目を集める初めての国際的な大イベントが繰り広げられる。

 昨年は日中国交正常化三十五周年、来年は中国建国六十年だ。そんな節目の年に世界のトップアスリートが隣国の首都北京に集うのも歴史のめぐり合わせ。友好平和の発露にしたい。

 中国は前回アテネ五輪で金メダル三十二個を獲得。金メダル数ではロシアを上回り、首位米国の三十五個に肉薄した。四年後の地元開催に向けて、外国人コーチの招請や強化資金を増額したことなどが実を結んだのだ。

 金メダルの獲得数とともに関係者を驚かせたのが、中国選手のドーピング(薬物使用)違反者ゼロだった。

 ドーピング違反が相次いだアテネ五輪にあって、中国の反ドーピング対策は際立った。薬物スキャンダルにまみれてスポーツ界が壊滅的な打撃を受けた九四年の広島アジア大会から十年で立ち直ったのだ。社会主義国家の強みなのかもしれない。

 国威発揚につなげたい中国共産党は北京五輪の開催を「中華民族の復興と近代化達成の象徴」と位置づける。今、選手強化策の一環で約三十人の外国人コーチが指導に当たっている。比較的マイナーな競技でのメダル獲得以外にも陸上や水泳、バレー、バスケットボール、サッカーのいわゆる「三大球技」など、国民に人気の高い競技でのメダル獲得を目指しているのだ。

 日本は前回五輪で金十六個を含む史上最多の三十七個のメダルを獲得し、ランキング五位に躍進した。とは言え、中国には差をつけられた。今回は歴史的に関係の深い中国での開催。応援にも自然に力がこもる。

 五輪にナショナリズムはつきもの。だがメダル獲得競争のあまり、五輪が本来持つ友好の精神を忘れてはなるまい。一衣帯水の隣国だからこそ、過剰なナショナリズムに走ることがないようにしたい。


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