◎「北陸がんプロ」始動 地元に定着してこそ「赤ひげ」
北陸三県の五大学、がん診療連携拠点病院などが参加して動き出した「北陸がんプロフ
ェッショナル養成プログラム」で、大学関係者に求めたいのは、がん医療の高度な知識、医療技術とともに、地域医療に献身する「赤ひげ」先生のような高い志を育ててほしいということである。
「北陸がんプロ」は大学院教育の横の連携でがん専門医の養成を目指すものだが、厳密
に言えば、人材を育てるだけではプログラムが機能したことにはならない。「オール北陸」で大きな枠組みをつくり、教官が時間と労力を費やして、がん専門医を育てても、北陸から出ていってしまっては元も子もないからである。育てた人材が地元に定着してこそプログラムが成功したと言えるだろう。そのためにもカリキュラムの工夫や地元病院での臨床実習などを通して、地域医療への理解や関心を促していく必要がある。
金沢経済同友会の「企業市民」運動の理念にならえば、「赤ひげ」先生のような人材育
成は「医療市民」を育てるということである。昨今の医師不足の最大の理由は医師の絶対数が不足したためだが、医師が待遇のよい施設、キャリアアップや名声を求めて都会へ流れ、結果として地域偏在を招いている現実もある。経済合理性を追求するだけでなく、地域に貢献するのが「企業市民」なら、「医療市民」は医師の合理性を追求するだけでなく、地域の人々の命を守り、地域の役に立つということであろう。
医師不足が深刻化する今、「赤ひげ」という言葉はますます重い意味を持っているが、
医師だけに献身や自己犠牲を一方的に押し付けては人材定着は望みにくい。医師が働きやすい環境も整えながら、平成の「赤ひげ」像を描いていくことが求められよう。
「赤ひげ」先生のような人材を地域に根付かせるには行政の支援も欠かせない。「北陸
がんプロ」発足にあたって石川県の行政トップである知事がその意義に賛意を示す一方で、現場レベルからは「医師養成は大学の仕事」と人ごとのように受け止める声も聞かれる。だが、行政が人材養成段階から関心の目を向け、積極的に後押しするのは、医師を確保して地域医療の充実を図るうえで極めて大事なことではなかろうか。
◎株価の暴落 実体経済の悪化懸念
日本株の下落が止まらなくなってきた。サブプライムローン問題に端を発した海外株安
や円高、原油高などにより、これまで景気拡大をけん引してきた輸出関連の製造業の景況感が急速にしぼんできている。建築基準法改正に伴う住宅着工件数の激減など、いわゆるコンプライアンス不況の影響も大きい。
気になるのは、政府・与党や日銀の危機感の薄さである。度重なる消費税引き上げや追
加利上げなどについての不用意な発言が、企業家や投資家の心理を一層冷え込ませている。景気の足取りが怪しくなってきているという共通認識を持ち、実体経済の悪化を食い止める強い決意を示してほしい。
七日の日経平均株価は年末年始をはさんで四営業日続落し、昨年来安値を更新した。昨
年末の大納会は二五六円、四日の大発会は六一六円、七日は一九〇円のそれぞれ大幅な下げとなり、特に年明け早々にニューヨーク市場の原油先物価格が史上初めて一バレル一〇〇ドルを突破した影響をもろに受けた格好である。
日本株の下落は、あくまで原油高と米国景気の後退懸念といった外部要因による下げで
あって、日本経済そのものは堅調といわれる。主要国との比較で日本株は割安水準にあるから、株価はいずれ適正水準に戻るという声もあるが、これは楽観的過ぎる見方だろう。
巨大ファンドや産油国などの大口投資家は、株式から原油や金などの商品に資金を移し
ている。外国人持ち株比率の高い日本株の換金売りが続けば、株価のもう一段の下げがあっても不思議はない。そうなれば景気の先行き不安は一層強まり、実体経済にも大きな影響が出ることを覚悟せねばならない。
日銀金沢支店は、十二月の北陸の景気の基調判断を五カ月ぶりに下方修正した。原材料
高と住宅着工件数の減少などで、企業収益の悪化が懸念されている。特に原材料高を価格転嫁できない中小零細企業の経営が圧迫されており、倒産件数も全国的に増えている。地方経済の「変調」は、やがて日本全体に広がるだろう。政府、日銀は地方経済の苦境に目を向け、今のうちから備えをしておくべきではないか。