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社会と政策

ノルウェーのミンク捕鯨

2004/07/27 :: 沿岸地域の生活と、天然資源の管理
捕鯨とアザラシ猟は、古くからノルウェー沿岸地域の人々の生活を支えてきました。1993年、ノルウェー政府は5年間におよぶ資源調査の為に中止していたミンク捕鯨の再開を決定しました。これは、IWC科学委員会の調査結果に基づく判断でした。2004年に、北東および中央大西洋で確認されたミンク鯨の数はそれぞれ10万7千頭、7万2千頭でした。これらは、持続可能な捕鯨を行なうのに十分な数です。

捕鯨は、一般の漁業がオフシーズンとなる夏期に行なわれます。捕鯨に用いられる船は、専用に装備された50~80フィートの小型船です。船主を含めて3~8人が乗船し、主に家族単位で操業しています。

ミンク鯨の肉は食用に用いられます。ノルウェーには古くから鯨肉を食べる習慣がありますが、鯨肉や脂を伝統的に必須栄養として用いてきた国は他にもあります。

ミンク鯨は、ヒゲクジラの中でも小型種の鯨で、その捕鯨方法は、鯨油を主目的とした大型鯨が対象であった以前の商業捕鯨と異なります。このような捕鯨は、今や歴史上のことでしかありません。

ノルウェーでは全国に人口が分散しており、沿岸地域には小さな町や村が点在しています。漁業、アザラシ猟、捕鯨は、ノルウェーの沿岸地域、なかでも北端の地に住む人々の生活を支えています。この地域の人々の未来は、昔からそうであったように、海の恵みが頼りです。この海洋資源は、過度な漁業活動や海洋汚染から守られなければなりません。

 

緑の産業
環境に影響を与えることなく、利用エネルギーを最小限に抑え、海洋汚染の心配がない餌を使うなど、漁の方法や使用する道具を注意深く選択することが、海の産業を健全に保つ手段となります。あらゆる種類の海洋生物も、種の絶滅の危機を招かぬよう注意を払いつつ、過剰な捕獲を避け限度枠内での捕獲に努めるべきです。この点で、ノルウェー海域のミンク鯨に絶滅の危険はありません。ノルウェー当局は、海洋資源の管理に長い経験があり、保護に重点をおいた厳しい資源政策をとっています。

 

研究
1980年代の半ば、北東大西洋におけるミンク鯨の数は明らかではなかったため、ノルウェーは資源量を探るための研究プログラムに着手し、3年間にわたる観測調査を行ないました。この調査は、1989年以降その範囲を広げ、鯨のみならず、アザラシも含めたプログラムに発展し、5年間続けられました。これらの調査は、海洋環境システムの中で異なる海洋資源が果す役割や、海洋資源そのものに関する情報を提供することを目的に行なわれました。

この調査の報告書は、1990年IWC科学委員会に提出されました。IWCからは、引き続き調査を行い実態を報告するよう要請があり、その結果を基に1991年と1992年に議論が行なわれました。更に1995年夏に行なわれた、詳細かつ広範囲に及ぶ新たな観測調査の結果、IWC科学委員会は北東大西洋のミンク鯨は11万2千頭と発表しました。中央大西洋については、北大西洋海産哺乳動物委員会(NAMMCO)が7万2千頭と見積りました。

 

IWCの中のノルウェー
1982年IWCは、1986年から全ての商業捕鯨の全面的モラトリアム(一時停止)の実施を決定しました。ノルウェーは、公式にはIWC決定のモラトリアムに保留の立場をとりましたが、信頼に足る情報を待って実際には1987年からミンク捕鯨を禁止しました。

モラトリアムの条文では「遅くとも1990年までに鯨資源の包括的評価を行ない、見直しをする」としています。1990年の期限内に現実的な鯨資源の再評価と、捕獲手順についての見直しがされるということでしたが、科学委員会はモラトリアムの再評価と捕獲割当枠の見直しを発表することなく、代わりに捕鯨ついて満たすべき新たな条件を提出しました。

これは単なる事態の先送りすぎないと解釈し、ノルウェー政府は独自の判断で1993年に捕鯨を再開しました。ノルウェーは科学委員会が採用した改定管理方式(RMP)に基づき年間の捕獲量を決めており、2004年度分の割当ては670頭としています。

IWCでモラトリアムが採択された際、正式に保留の立場をとっていることから、ノルウェーのミンク捕鯨再開の権利は法的に問題にはなりません。IWCの発足と活動の基盤となる国際捕鯨取締条約の第5条に準拠し、保留申し立てがなされています。

同条約は、「絶滅の危惧なく捕鯨ができるよう頭数増加を保つこと」を目的としています。さらに、条約では捕鯨の頭数は科学的根拠に基づくこととし、鯨資源の保護と開発、限られた条件下での最適利用を約束しています。つまり、条約は鯨の保護のみが目的ではなく、捕鯨を管理することにより我々人類の今と将来のためにあるのです。道徳的見地から捕鯨に反対するIWC加盟国の考えは、IWCの理念と矛盾することになるのです。

 

環境保護と天然資源の管理
ノルウェーは将来に向けた国際的な環境政策の策定において、積極的な役割を担っています。環境および天然資源の保全とその再利用の合理的管理に関する協力が環境政策の主な要点です。従来から行なわれてきたミンク捕鯨を再開するというノルウェー政府の判断は、世界環境の保護に積極的に貢献するという考えに相反するものではありません。


再生可能な資源の管理には、いくつかの原則が中心的役割を果しています。

  • 持続可能Sustainability。資源の枯渇を防ぎ、余剰分のみを収穫する。
  • 種の多様性 Biodiversity。世界規模で生物の種の多様性を保持するために、あらゆる種を絶滅から守らなければならない。
  • 統合Integration。生態系に属する全ての種は、複雑なシステムの相互作用網の中に統合され、ユニットのひとつとして管理されなければならない。
  • 天然資源の開発の権利Right to exploit natural resources。上記の原則の枠組内において、市民には自国の天然資源の利用の権利が保障される。

上記の原則に準拠するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 天然資源の管理が、確実な知識に支えられた科学的助言に基づき行なわれること。
  • いかなる決断も、予防的原則に基づき行なわれること。生物学的データが不明瞭な場合は、注意して捕獲を行ない、その資源利用には十分に安全性が考慮されること。
  • 捕獲後には必ず追跡調査が行なわれること。
  • 規定を遵守していることを確認するための効率的な管理システムを導入すること。

IWCの目的は持続可能な利用の原則に基づいた捕鯨の規制と管理であり、ノルウェーのIWC加盟はこの原則に沿うものです。ノルウェーは、信頼のおける新たな管理手順の開発に積極的に取組み、同時に北東大西洋のミンク鯨の生息数についての総合的な研究を行なってきました。

ミンク捕鯨は、持続可能であることが約束されるように管理されていれば、環境的にも健全な食物生産の手段です。全ての鯨類についてモラトリアムを要求することは、世界が直面する真の環境問題から目をそらすことに他なりません。


ミンク鯨 - 数ある鯨類の一種
全体で、約75~80種鯨類が存在します。その中でミンク鯨はサイズの最も小さなヒゲクジラで、世界中のどの海域でも生息しています。ミンク鯨は、体長10mになるものもあります。年に一回出産し、プランクトンや魚を餌としています。IWCの見積りでは、北極海だけで少なくとも75万頭が生息しています。またノルウェーのミンク捕鯨が行なわれている北大西洋ではその数は豊富です。最新(2004年)の調査では、中央大西洋に7万2千頭、北東大西洋には10万7千頭が生息しています。春には、ミンク鯨は餌を求めてノルウェー沿岸をバレンツ海や北極海に移動し、秋に南下します。ミンク鯨は冬の間ノルウェー沖で確認されます。

 

捕鯨と捕殺手段
ノルウェーでは、射程内までミンク鯨が来るのを停泊させた船で待つか、水面近くまで浮上すると思われる場所に慎重に船を移動させ捕鯨が行なわれます。鯨が逃げると、船でゆっくりとそれを追います。ミンク鯨の吹き上げる潮には特徴がないため、確認するには熟練した観察眼が必要とされます。

ミンク鯨の捕殺方法について批判がありますが、出来るだけ速くクジラが捕殺されるようIWCなどにより捕鯨方法が改善されており、ノルウェーは主導的に改善の努力をしてきました。現在ミンク捕鯨に用いられる手段は、捕殺時間および怪我をさせる確率の低さという点で大変優れており、調査の結果、鯨は瞬時に意識を失うか即死の状態であることがわかっています。
1999年の調査によれば、72%の鯨が瞬時に動きを止めたり沈むなどしています。ただし、動きを止めたことがすなわち死と断定するには根拠が浅いため、確かな基準を設けるために調査が引き続き行なわれています。今までに入手した結果からは、8割が即死状態にあり、残り1割も瞬時に意識を失い痛みを感じることはないことが分っています。しかし、最初の一撃で仕留められず、ライフル銃で頭を撃つなどされる鯨も1割程度いて、この割合を減らすための努力が行なわれています。

即時に殺される鯨が2割に満たなかった従来の銛が使われていた時代から比べると状況は明らかに進歩しています。1984年にグレネード(grenade harpoon)の使用が義務化されて以来改良が重ねられ、2000年から現在の最新機種が使われています。

毎年、捕鯨シーズンに入る前に漁師は捕獲と屠殺の指導を受け、さらに、銛銃とライフル銃のテストに合格することが義務づけられています。捕鯨船には必ず監督官が乗船し、漁業当局に報告書を提出します。

現在ノルウェーで行なわれている捕鯨は、恐らく他のどの猛獣狩りに比べても、最も厳しい監視のもと管理された方法で行なわれているといえます。ノルウェーで行なわれる鯨の捕殺方法は、一般の家畜の屠殺と質的に大差ないと評価されています。

 

ミンク捕鯨のあゆみ
ノルウェー沿岸では何世紀にも渡りミンク捕鯨が行なわれてきました。9世紀の文献にすでに捕鯨についての記述があり、銛を使った捕鯨は1200年代には全国で行なわれていました。1920年代に入り漁船が機械化されて以来、近代的なミンク捕鯨が発展しました。漁船には銛銃と弓が装備され、船上への引き揚げと解体のための装備も開発されていきました。鯨肉と脂は冷凍保存されるようになりました。

1938年に免許制度が導入されたのをはじめ、1950年代に入り漁船一隻当りの捕獲頭数の制限や、捕鯨を行なう船主自身の免許保持義務化など、さらに細かく制限が課せられました。1976年に年間の捕獲頭数割当てが制度化されました。

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