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【社説】

年のはじめに考える あけまして京都議定書

2008年1月3日

 初日の出とともに、京都議定書の約束期間が始まって、地球環境は大きな転機を迎えています。政府はもちろん、企業や市民も、自らを変える転機にしたい年。

 インドネシアのバリ島で先月開かれた国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)。国際NGO(非政府組織)の会合に研究者として参加した名古屋大学大学院教授の竹内恒夫さんは「日本は変わってないな」と、ため息をつきました。

 京都議定書で温室効果ガス削減の基準年とされる一九九〇年、竹内さんは環境庁の職員でした。

 同じ目標、同じ議論

 そのころすでに欧州では、地球温暖化問題が重大視されていて、温暖化対策の「二〇〇〇年目標」をつくるのが、流行になっていました。

 オランダで前年に開かれた温暖化と大気汚染対策の国際会議に出席し、欧州の空気に触れた上司の発案で、その年創設されたばかりの地球環境部が、「日本版二〇〇〇年目標」をつくることになりました。

 資源エネルギー庁に出向した経験のある竹内さんは、主に省エネを進める視点から、そのチームに招かれました。

 竹内さんたちがつくった「地球温暖化防止行動計画」は、二酸化炭素(CO2)の排出が少ない都市構造やエネルギー受給環境、ライフスタイルなどへの転換を図ることにより、二〇〇〇年の温室効果ガス排出量を九〇年と同じレベルにするという目標を掲げています。

 二〇〇〇年から九年目。京都議定書で日本は、CO2の排出量を五年間で6%減らす約束だ。ところが、九〇年比でいまだにゼロにはなっていない。それどころか、6・4%も増えている−。

 「電力会社もガス会社も、私たち一人一人も、いいかげん変わらないかん」と、竹内さんは考えました。

 世界は動き始めています。

 米国は変われるか

 バリ会議では、温室効果ガス削減の数値目標など、具体的な課題はほとんど先送りにされました。

 それでも「バリ」の名は、地球環境史の上に、「キョウト」と並んで深く刻まれることになるはずです。

 “ポスト京都議定書”の交渉に、米国を呼び戻した成果もさることながら、世界の温暖化対策が転換点を迎えた記念すべき場所として。

 「ギアチェンジ。潮目は変わり始めています」

 地球環境戦略研究機関気候政策プロジェクトのシニアエキスパート、水野勇史さんの感想です。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第四次報告書で展開した人類の危機的未来図に、政治が反応し始めたのかもしれません。

 途上国グループはこれまでずっと、「削減義務は一切拒否」の姿勢を崩しませんでした。

 ところがバリでは一部の国が、「途上国も行動する」という意思を初めて表明しています。

 中国も、サイドイベント(関連行事)で政府に近い要人が「二〇三〇年より前に排出量のピークを設定し、そこから減らす」と明言するなど、交渉の表舞台とは裏腹の変化の兆しを見せています。

 温暖化への警鐘を鳴らし続けてノーベル平和賞を受賞した米国のアル・ゴア前副大統領は、議場での特別講演で「国民が正しく判断すれば、米国も変わるチャンスはある」と訴えて、喝采(かっさい)を浴びました。

 米国内では、気候安全保障法案が上院委員会を通過しました。二〇年に〇五年比で19%削減し、政府主導で排出権取引制度を創設するという野心的な内容です。

 州レベルでは、東部のニュージャージー州が、五〇年に〇六年比で80%の削減を義務づけるなど、“削減競争”の様相です。

 ポーランドでCOP14が開催される十二月には、次の大統領が決まっていて、その人は、京都議定書を離脱したブッシュさんではありません。民主党候補が当選すれば、議論の流れも、“ポスト京都議定書”に至る「バリ・ロードマップ(行程表)」の道筋も、一気に変わってしまうでしょう。

 温暖化だけでなく、地球環境問題が転機の年を迎えています。

 変わり始めた政治や政府をさらに動かす“風”になるのが、私たち一人一人の行動です。地域の小さな変革です。私たちも変わらなければなりません。

 「チーム・マイナス80」に

 竹内さんは、脱化石燃料、脱自動車型社会への転換により、名古屋のCO2排出量を60%減らせるという自らの試算に基づいて、昨年六月、学生と「チーム・マイナス60」を結成し、企業、行政、市民への提言を始めたところ。

 バリから帰国後、竹内さんはその看板を「チーム・マイナス80」に書き換えました。

 「それくらいやらんと、いかんでしょう」

 ことしこそすべてが変わり、持続可能な新しい時代がひらけることを願いつつ。

 

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