クリスマスを和風に彩って


<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、振替休日という事もあり、本当に様々なパーティーが開かれるようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。

 最も華やぐ日。
 最も喜ぶ日。
 最も……悲しむ日。
 世の人類は皆、お祭りというものが好きなのである。
 という訳で……。

「……扇様、私正直申し上げますと……戦いとかあまり好きではありませんの」
「はい、つまりバトロワはどうでもいいと言うんだね」
 ローザ扇は、きっぱりはっきりとそう言い合った。
 彼女の性格的に、バトルとか予想とかどうでもいいであろう事は予想出来る。あまり面白くないものを観戦しても、とても良いクリスマスを過ごせるとは思えないのである。
 それならばいっそ、実家で過ごした方がいくらかマシというもの。
「あの、扇様が提案された和風のお座敷、もう一つ作っていただけません?」
「いいよ、それじゃあそっちはローザがやってくれるんだね」
「もちろんですわ! あの、時々顔を見せていただければ嬉しいですの」
 ちょっと顔を赤くして、ローザはおねだりした。やはり一人では不安らしい。
 そういう経緯があり、ローザは和風のクリスマス会を行う事にしたのであった。
 和風のツリーと和風のお菓子、おみくじクッキーのようなものも作りたい!
 それから、カードも交換しなくっちゃ。
 ローザは、さっそくウキウキと張り紙を作り始めるのだった。

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参加者:環・ローザ(白燐蟲使い・bn0126)(NPC) 



<リプレイ>

●クリスマスは賑やかに
 触るとひんやり冷たい竹が、教室の片隅に和の庭を造り出していた。
 今日だけ畳敷きの貸し切り部屋は、渋い色合いの机と座布団が置かれてすっかり落ち着いた雰囲気に包まれている。
 和風のツリーには、和風の小物が一番似合う。
 すうっと小さな手毬をリーンがかざすと、反対側から同じように未都が手毬を竹に下げた。
 竹の葉ごしに二人の視線が合い、くすりと未都が先に笑い出す。
「赤と白の手毬……一杯持ってきたんだよ。他にも、靴下とか星形の飾りとか……」
 ぺたりと畳に座り込み、未都は持ち物をひっくり返す。
 千歳もその様子を覗き込み、ゆっくりとツリーを見上げた。和風の小物もいいけど、可愛らしくリボンで飾ってみたい。
 持ってきた花柄のリボンを取りだし、千歳は飾り付けを思案しだした。
 一方リーンは広げられた中から一番大きな星を、じいっと見つめて拾い上げる。
「これ……一番上に飾る。ローザ、手伝ってくれるか?」
「やっぱり星を飾らなければ、クリスマスっぽくありませんものね」
 ローザはにこりと笑って、竹に手を伸ばした。掲げる星は、長い丈の一番てっぺん。手が届かず足場を探すローザにかわり、頼人が星を竹に提げてやった。
 見つめた竹のツリーの飾り付けは着々とすすみ、頼人の目の前にいつもと違うクリスマスツリーができあがっていく。
 こんな雰囲気に合ったBGM、少し探して来るかなと頼人は考え込んだ。
 手毬に加えて、雪智は提燈を提げる。雪智の提燈にはサンタやトナカイ、可愛らしい絵が描かれていた。
 中に火を灯すことは出来ないが、ライトを入れれば鮮やかに輝くだろう。

 いつものような、ハイテン昭和は控えよう。
 静かな口調で、定義が皆に言った。作務衣姿で鎮座する彼の目の前には、15号サイズのチーズケーキがデンと置かれている。
 25日は、雪ノ介の誕生日なのである。
「ハッピーバースキリー!」
 定義はそう雪ノ介に言いながら、ケーキにきな粉棒を17本突き立てた。
「霧殿の聖夜及び一年が、素晴らしきものとなる様」
 続いて鮮やかな赤い袴をはいた夜守が、羊羹を刺した。……うん? 羊羹を刺すとな。
「羊羹って刺さるモンなんだな」
 冷製にぽつりと樹は言うと、そっとマーブルチョコを鏤めた。
 豪快にチョコ入りマシュマロを貼り付けていくのは、暁虎である。おまけにデコペンで昭和の文字を書き入れたりする。
 暁虎は、満足げにケーキを見つめた。
 この辺りから、ケーキがカオス化している気がする。
 最後に、同じタイミングでリッタとミツルが手を伸ばした。二人が持っていたものは、金平糖である。
 一瞬二人の間に、言い表せない微妙な雰囲気が漂った。
 ……被った。被ってしまった……。
 すると何事もなかったかのように、リッタは金平糖を飾り付けた。ミツルもまた、同じように金平糖をのせる。
「ハッピーバースデーユッキー! あーんどメリィクリスマス!」
 樹が声をあげると、皆は一斉に祝辞を述べた。
 雪ノ介の目の前に置かれたケーキは、仲間達一人一人の手によって彩られていた。そうっとミツルが、雪ノ介に銘菓ひよ彦の箱を差し出す。
 そっと目を伏せ、雪ノ介は頭を下げた。
 ……ありがとう、皆。

 後ろに飾られた竹ツリーの一つ、セラフィナと梢、弼が楽しげに飾り付けを行っていた。
 まだまだ幼いセラフィナを手伝ってやる梢、弼はそんな二人を後ろからほほえましく思いつつ見まもる。
 頑張って着物姿で来たセラフィナは、きらきら光る電飾を竹に掛けていく。
「折り紙の鶴と紙風船に、豆電球を入れるんですの」
 電飾にきらきら彩られた折り鶴は、とっても綺麗だ。
 梢はツリーに飾った花のコサージュをじっと見ていたが、巾着から何かを取りだして二人に差し出した。
 それは、梢がつけていた簪とお揃いのもの……。
「お花と梢ちゃんの櫛と……お揃いなのね」
 弼がにっこり笑って聞くと、梢はこくりと頷いた。

 きらきら輝くライトが、仄かに提灯を染める。
 いつもと違う、落ち着いた雰囲気を醸し出す竹のツリーを椿は眺めていた。すうっと練りきりが差し出され、椿が視線を上げる。
「ありがとう御座います……あの、座ってください」
「ああ、そう思っているんだけどどうも落ち着かなくてね」
 青人は笑って答え、ようやく腰を下ろした。微笑を浮かべて亨夜は椿の視線の先を見やる。
「竹のツリーなんて、一風かわってていいじゃない。こんなの、めったにない機会だワ」
「そうだね。……周りも、着物を着ている人が多いみたいだ」
 蝗が部屋を見まわして見ると、カップルも仲間同士も着物を着ている人が多い。かく言う蝗も、赤地に黒揚羽の着物を着て座っている。
 ぽつり、と蝗が口を開いて口ずさむ。
 それは聖夜に響く賛美歌であった。しっとりとした和の空間に、聖歌が馴染んで溶けてゆく……。

 微かに流れるBGMの中、鼓の音色がゆっくりと響き渡った。
 西欧風の顔立ちをしたマラカイトの手に抱えられた鼓は、優しい音色を奏でていた。仲間や周囲の人たちの視線が集まり、マラカイトは少し顔を赤らめる。
 タートルネックに丸襟のセーターを着込んでお洒落をした唯も、じいっと聞き入っている佐も、畳にごろりと転がった焔もこっちを見つめ返していた。
「何だか……緊張するね。指が攣りそうになっちゃったよ」
「ううん、素敵だったよマールくん!」
 唯はパチパチと両手を叩いて、マールを迎えた。
 マールの違う一面……佐は神秘的な雰囲気に見とれていたが、はっと笑顔をとりもどして羊羹を取った。
「ねえ、羊羹食べてみようヨ」
「おっ、せやな! 何が出るかなぁ」
 焔はワクワクしながら羊羹を手に取った。
 果たして結果は、マール、佐、唯、焔がそれぞれ大吉、小吉、小吉、吉。来年は楽しい一年になるだろうか?

 自作の茶器は、クリスマスらしく黒地に銀粉を撒いたもので合わせよう。茶器も持参し、皆に茶を振る舞う。
 せっかく念入りに準備して来た尚人の茶も、アスカは豪快にがぶ飲みしたあげく、苦いなどと言いお代わりを催促した。深柑は何も言わずに飲んでくれているが、茶器の事は気にしていない様子。
「まあ、気張らずにいただくのが良い」
「そうか? じゃ、羊羹も食べてみよう」
 アスカが羊羹に手を伸ばすと、深柑も羊羹を口に運んだ。
「……本当に出るんだな、大凶なんて」
「まあこんなもんね。この私が来年一人だなんて、ありえないもの」
 お二人の運勢は、天と地ほども違ったようです。

 ちょいと唄うてもええ?
 棘はそう言うと、ひょいと三味線でクリスマスソングを唄いはじめた。
「あんまり演奏は自信ないんやけど」
 と棘はそう言っていたが、芝にはそう思えない。テーブルに肘をついて、そっと芝は目を閉じた。
 芝の瞼には、棘の歌声と三味線の音だけが何時までも響いている。そんな芝の笑顔を、棘は優しい表情で見つめるのであった。

●おみくじで運試し
 団体さんに続いて、手を引いて席に向かう恋人達……。
 騒がせぬよう落ち着いた動きで、かつ機敏に友環は料理を運んでゆく。通り過ぎたリュクサーリヒトはどこかおっかなびっくりで、友環はとっさに手を伸ばしてしまった。
「あっ……と、すまない」
 いつも助けられてばかり……そう言いかけたリュクサーリヒトの鼻を友環がひょいとつまみ、笑い声をあげる。
 いつの間にか、緊張の色もとけていた。
 その頃、キッチンでは将威とテオドールが料理に奮闘していた。
 そろそろ欲しいケーキは、将威が抹茶スポンジでブッシュドノエルを。波跡をつけた上からパウダーシュガーの雪を降らせ、枯山水をケーキの上に作り上げていく。
 そして雪兎のケーキはローザに、将威は頭をくしゃりと撫でる。
「もちろんターキーもなきゃね。味は照り焼き風味にしようかな」
「とっても楽しみですわ、やっぱりケーキと七面鳥がなければクリスマスという気がしませんもの」
 嬉しそうにローザが笑うと、もちろんだとテオドールが答えた。
 料理を運んでいるのは美咲と龍麻。先ほど作ったケーキを、次々運び入れる。この後バトロワにも出る龍麻は、ちょっとした体慣らしだ。
「美味しそうなケーキだね。……俺も後でもらおうかな」
 ローザのもらったケーキを見て、龍麻がくすっと笑った。美咲は、おみくじ羊羹が気になって仕方ない。
「……もう凶しか残ってないかもです」
 ちゃんと美咲様の分まで取っておきますわ、とローザに言われて俄然張り切る美咲であった。

 会場も和風ならば、来場している人も和風の服装。むろん扇も着物姿だったし、ローザもレースのついた可愛らしい着物を着ていた。
「扇さんは……和が好きなんですか?」
 見た目的で何ですが、とブルースは断りつつ聞いた。扇が和風好きなのは、実家が日舞をやっているという関係もある。
「少なくとも完全洋風のローザよりは、和に慣れているかもねぇ」
「畳の部屋がおうちに無いんですもの」
 ローザは首をかしげて答えた。
 氷魚はいつも和装である為、むしろ扇の気持ちはよく分かる。楚々と座し羊羹を手に取ると、中身のおみくじを興味深げに広げた。
「おみくじ入りのクッキーのようなものでしょうか……あ、大吉です」
 ふと微笑し、氷魚はおみくじを見つめた。
 交換する予定のクリスマスカードを見ていた美鈴も、羊羹にぱくりと一口。抹茶味の羊羹はほんのりとした甘みを口中に伝えた。
 羊羹はおいしいけれど、おみくじは吉……ちょっと残念そうに、美鈴は眉を寄せる。
 同じようにおみくじをじいっと見つめていた朧は、視線を扇にやって少し乗り出した。扇の手の中にあるのは、どんな運勢だろうか。
「中吉。……まあ無難な所かな。おみくじの中に凶は少ないしねぇ」
 朧は小吉だったけれど、来年もまた気になる人と過ごせればそれでいいと思っている。
「来年こそは素敵な人と過ごせますように!」
 念じつつ響子が開いたおみくじは、中吉であった。運がいいのは嬉しいが、行動しなければ意味がないとしょげる響子。
「私は小吉ですわ。これも良しです」
「良ければ喜び、悪ければ笑って過ごせばいいんですよねぇ! おみくじはそういうものです!」
 響子はローザに笑いかけた。

 和服でという龍一朗の号令で集まった5名は、さて来年の運勢でも占うべしと神籤の入った羊羹をじいっと見下ろしていた。
 味で選ぶか、感で選ぶか……。
 最初に手を伸ばしたのは、大島袖の角帯を合わせた訪問着でやってきた龍一朗である。梅味にしようと一つを選んだのはいいが、現れたのは凶。
「……幸先悪いね」
 ぽつりと歩が言う。これでは次が選びにくい。気まずい中で歩が取ったのは、抹茶味である。
「吉。うん、この微妙加減がいいね。普通が一番だよ」
「では私も……抹茶味をいただきます」
 沙那も続いて、歩と同じ抹茶味を口にする。出てきたのは、中吉であった。吉がつくのはよい事です、ときっぱり言った沙那は、何だか自分に言い聞かせたようで。
 最後に朔が普通の羊羹に手を伸ばした。
「羊羹の味は普通のものが好きなんだ」
 何々……おみくじは小吉と出ている。何も答えず静かに朔はおみくじを仕舞い、周囲を見まわした。
「所で、暁人が居ないようだが……」
「残った羊羹で何か作ってくださるそうですが……」
 沙那が入り口の方を見やった。
 暁人の手によって開かれた最後の羊羹……大吉と書かれていた。
「残り物には福がある……か」

「おみくじ羊羹やりた〜い!」
 元気よく手を挙げて、唯はお皿に並んだ羊羹にきらきらした瞳を向けた。
「おみくじ羊羹……振ったら中からおみくじが出てくるのでしょうか」
「羊羹の中におみくじを閉じこめているんですよ。……俺は抹茶、と」
 志郎は抹茶味を取ると、小首をかしげる露に答えた。次々取られていく羊羹に真剣な眼差しを向け、花弥はぱっと手を伸ばす。
 福よこい!
 そう願いを込めたものの、出たのは凶。
「……皆様はどうで花弥が聞くと、唯がひらひらと中吉を見せつけてきた。どうやら志郎も中吉だった様子。
「何吉でもかまわないんですよ、大吉だったらラッキーくらいに思えばいいんです」
 どきどきしながら羊羹を割った露は、吉である。
「凶が出たのですか? は、早く木に結ばないと……!!」
 ちらりと横を見て肩をすくませ、声をあげた。
 ちょっとだけ騒がしくおみくじを開いている中小学生四人組の横で、朔姫と零壱は羊羹を食していた。
「羊羹にお神籤って……どういう魔法だ?」
「固める時に入れてんだよ。……おっ……うん、やっぱりか。私らしい……」
 凶のお神籤を見て、朔姫はがっくりと肩を落とした。零壱の表情には何の変化も無かったが、相手が凶と知ってちょっと安心した様子。
「少しだろうと、運は大切にしなければな」
 ふと微笑を浮かべて零壱はおみくじを見つめた。

 美咲と小夜の二人は、揃って柚味の羊羹で恋愛運を占う。
「それじゃあ、私も、お姉様と一緒……柚味、ですね」
「うん。……あ、小吉だよ! 小夜ちゃんはどうかな」
 そうっと開いた小夜のお神籤は、大吉であった。どちらかが悪かったらどうしよう、そう美咲は思っていたが、これで一安心。
「……お姉様、この一年間、一緒に過ごせて、よかった、です」
 ぎゅっと主籤を握りしめ、小夜は笑った。

 慣れない和服に体を堅くさせつつ、司は羊羹にナイフを入れる。
 出来れば粒餡でと念入りに注文していた司の様子を見ていた琴古は、ついその事を聞いていた。
「まあ……食えればどっちでもいいんですけどね、どっちかと聞かれれば粒餡を選びます」
 そう話ながら羊羹をひょいと口に運ぶと、何だか違和感が……。
「つかさん、お神籤が……!!」
 慌てて琴古は、口からはみ出した小吉のお神籤を取り出した。

 着慣れない着物姿で出歩くと、どうも緊張していけない。祭波はみかんをむきながら、口を閉ざしたまま。
 じいっと亮二が見ているのに気づき、何だと聞いてみた。
「いや、何でもない」
 何か言いたげだが、亮二は蜜柑を手にとって誤魔化した。そういえば、おみくじ羊羹というものがあるらしい。
 亮二が手に取ったのは抹茶味で中吉、祭波は大吉。
「お前に加えて運もつきゃ、怖いもんなしだ」
 信じる友に、そう笑った。

 どうやら会場は大勢の人で、てんてこまい。せめて急須くらいは自分で探そうと、和が湯飲みを手に立ち上がった。
「おや、和さんもう食べたんですか? ……結果はどうでしたか」
 半分に割った抹茶羊羹と吉のおみくじを手に、用宗が聞いた。
「小豆がとっても美味しかったですよ」
 うっすらと笑いつつ、和が答えた。果てさて、中にあったおみくじはどうなったものやら……。
 お神籤も運勢も、和のお腹の中……らしい。

 せっかくだから、カードは交換しよう。
 クロエと叶はカードをシャッフルの為に箱へ入れると、おみくじ羊羹をさっそく食べてみる事にした。
 わくわくしながらおみくじを開いたクロエのおみくじは、大吉……良い出会いがあると書いてある。
「かなうさんは?」
「良い結果は人に見せると運が逃げる、と言うよ?」
 柚子の羊羹を堪能しつつ、叶は小吉のおみくじを懐へとしまったのだった。

 円が柚子味を選べば聖雪にお裾分け、聖雪が抹茶味を選べば円は食べ比べ。二人で二つの味を味わいながら、胸躍らせておみくじを開いた。
「小吉ですね」
 聖雪が見せると、円は彼女の目の前にぬうっと大吉の手作りお神籤を差し出した。くすりと笑い、聖雪が円の胸元を指した。
「そんな円さんに、サンタさんからのプレゼントが届いていますよ」
 聖雪が渡した簪の香袋……貴女を守りますように、と真珠が一粒入っていた。

●二人だけのクリスマス
 部屋の端に居る生徒の笑い声すら、近くに感じる。
 緊張してぎゅっと膝を掴んだまま、花楓は顔を上げる一動作すらぎくしゃくしていた。肩に乗せられた厳道の羽織は、暖かく花楓を包み込んでいる。
 そっと手に厳道か、何かを乗せる。
 それは彼からのクリスマスカード。
「……花……」
 何かを言おうとした厳道の口を、ふわりと花楓が塞いだ。それが、厳道に対する花楓の答えだから。

 会場の配膳を手伝う傍ら、ツカサは黒蘭の手を引いて片隅に腰を下ろした。
 赤地に花柄の着物を身につけた黒蘭は、しっとりとした雰囲気の会場にとても馴染んでいる。そんな彼女に合わせ、ツカサも和服で来ていた。
「この国では、クリスマスも一種の行事なのだな」
「ふふ……親しい人と共に過ごすという点では同じですよ」
 笑みを浮かべて、黒蘭が答える。お祭り騒ぎも嫌いではないけれど、こうしてゆっくり話せる落ち着いた場が……やはり黒蘭は好きだ。

 飾りつけられたツリーを見ながら、話し込む人達も居る。頑張って着てきたサンタドレスはこの時期にはちょっと寒く、御守の足下に冷たい風を吹き付けていた。
 ちらりと直矢が見ると、彼女の首もとには雪の結晶のネックレスが飾られていた。いつだったか、直矢が贈ったもの……。
「風邪ひくぞ」
 直矢が羽織をそっと掛けてやると、にこりと笑って御守が見上げた。
 これは……お礼。
 御守は、そっと彼に顔を近づけ影を重ねた。

 誠示郎が着ているのは、誕生日に贈った藍染めの履き物と羽織……そして霊夢が着ているのは、誠示郎が贈った色とりどりの花咲き乱れる染め物の着物。
 ちょっと緊張した様子の誠示郎をちらりと見やると、霊夢は笑って頷いた。
「うむ、やはり藍色がよく似合っておる見事な男前じゃぞ、胸を張るがいい誠示郎」
「そ、そうか? 霊夢は相変わらず着物……似合うな」
 照れ隠しにひょいと誠示郎は羊羹を手に取る。

 矢絣の着物を着たルルティアは、目の前にちょこんと座って待っていた。
「ただ食べるだけでは勿体ない!」
 拓也はそう言うと、ルルティアの口をあーんと開けさせた。そっと摘んだ蕨餅を、彼女の口中に優しく乗せる。
 恥ずかしそうに彼女は口を閉じると、両手を赤く染まった頬にやった。
 今度はルルティアが箸を持ち、蕨餅をつまみ上げる。
 こうしてのんびりと、時が流れていく。

 白い着物へぽつん、と兎が跳ねている。渋い風合いの中、どこか可愛らしい着物を見て月夜はくすりと笑った。
 きょとんとして見返す太一郎は、手におみくじ羊羹を持ったまま首をかしげていた。
「何でもないわ」
 月夜も羊羹を取ると、そっと二つに割った。
 小吉、とそこには書かれている。小さいながら幸せが待っているなら、それは良い知らせだ。
 月夜は太一郎のそばに、身を寄せた。

 このまま初詣まで済ませてしまえそう……。糺は優雨の手を引いて席につきながら、そう部屋を見まわした。
 甘いものが苦手だという優雨の為に糺が差し出したのは、梅の羊羹。
 彼女の反応を伺いながら、両手で茶碗を包み込む。ほんのり上がった湯気の向こうで、優雨は笑う。どうやら、彼女の口に合ったようだ。
「メリークリスマス……」
 今年も……隣に居てくれてありがとう。
 糺の言葉は、小さくかき消えた。

 人は多いが、思ったより騒がしくない。
 サイコの服をぎゅっと握ったさそりは、少し安堵しつつ席に向かう。二人で向かい合うと、ようやく落ち着いてきた。
「おみくじの入った羊羹……だそうです」
 サイコが羊羹を差し出すと、迷った末さそりは抹茶を指した。中から出てきたのは、中吉の文字。
 二人で半分ずつ抹茶の羊羹を食べながら、来年を思って表情を和らげた。

 笛の音色が、どこからか聞こえてきた。
 楽しげに語らい合う声と、寄り添う恋人達のささやき。
 ゆっくりと時が流れていく……ここだけは、聖夜の心安らぐ場だから。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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いまいち
参加者:80人
作成日:2007/12/24
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