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連載「巨大都市の憂鬱」(1)中国のエッフェル塔 模倣タウンに広がる矛盾 (1/2ページ)
世界初の摩天楼が米国のシカゴに誕生してから1世紀余り。人類が経験したことのないスケールとスピードで、中国の都市化が進んでいる。13億という膨大な人口を抱える中国の都市化は、鉄や銅など世界資源の逼迫(ひつぱく)を引き起こす。田園が瞬く間に高層ビル街に一変するなかで、農村と都市の対立などさまざまな矛盾も表面化している。中国で次々と誕生する巨大都市はいったい何を意味するのだろうか。2000万都市・上海と、それをモデルに高層ビル建設を加速させる重慶で、巨大都市の実態を探った。
上海から南西へ170キロ、いわゆる大上海経済圏の縁辺に浙江(せっこう)省杭州市に属する星橋鎮がある。のどかな田園が広がる農村地帯。すると突然、「エッフェル塔」が目の中に飛び込んでくる。実物の3分の1で、高さは103メートル。周囲は寒々とした荒れ地だけに、その巨大さと異様さが見る者を唖然(あぜん)とさせる。
そして赤茶けた鉄の脚部の向こうを見ると、そこには5階建てのアパルトマンが並んでいた。長さ610メートルという大通りは「香樹大街(シャンゼリゼ通り)」と名付けられており、まさにパリを模倣したことを誇示するかのような街造りだ。
「広厦(こうか)天都城(てんとじょう)」として知られるこの郊外都市は5年前、大手不動産会社の浙江広厦グループ傘下の開発会社が杭州市のベッドタウンとして計画したものだ。総敷地面積50万平方メートル、完成すれば将来、12万人が住むことになるという触れ込みだ。
この街のコンセプトについて開発企業の王旭飛(おうきよくひ)副社長は次のように説明した。「国が発展するとき、外国の良いところを導入するものだ。(明治時代の)日本が欧米のアイデアを多く取り入れたのと同じだ。模倣から本物が生まれる。パリの模倣は近代的街造りの一つの方法として考案された」。
模倣タウンというのは実は上海の郊外タウンをモデルしたものだった。例えば上海市松江区に2年前に完成した「テームズタウン」は、教会とれんが造りのタウンハウスが並ぶ、まさにロンドン郊外そのものだった。
「広厦天都城」建設のために畑を手放した農民の一人、高宝鳳(こうほうほう)さん(46)は地元政府によってテームズタウンに連れて行かれたときのことをこう思いだす。「素晴らしい西欧の街に驚きました。こんな街ができるのだと聞かされ、本当に大喜びしました」。
上海ではこのほか、ドイツ風、イタリア風、スペイン風などの模倣タウン造りが8カ所で同時に進められているが、こうした街造りが実は大上海経済圏で一般的になりつつあることが分かる。
問題は異国趣味の街にどういう人たちが住むのかだ。テームズタウンの場合、1戸当たりの価格は1400万元(約2億1000万円)から60万元(約900万円)前後と幅があるが、1600戸すべてが予約で完売した。
だが、完売したにもかかわらず、テームズタウンはいまだに人影のないゴーストタウンのままだ。しかし、それでもなお、物件は2年で3割程度値上がりしている。広厦天都城に至っては1年で3割以上も上がった。
投資対象として建設されたとしか考えられないのである。