今年はオリンピックイヤーである。八月八日から中国の北京市で五輪が幕を開ける。世界各国のトップ選手が集い、最高の栄誉を求めて熱戦を繰り広げる。北京からどんな感動が生まれるか。早くも開幕が待ち遠しい。
アジアで夏季五輪が開催されるのは東京、ソウルに次いで三番目となる。中国も日本や韓国と同じように、五輪を機に国際的な地位向上を目指している。特に目覚ましい経済発展を続けているだけに、大国としての存在感を広くアピールする絶好の場としてとらえているだろう。
国内では国威発揚や政権の求心力アップにつなげるはずだ。政治的な思惑はいろいろあろうが、大国にふさわしい度量の広さを示し、平和の尊さとスポーツの素晴らしさが純粋に共有できる場になることを望みたい。
熱いドラマ期待
北京五輪は二十八競技三百二種目が行われる。世界の一流選手が鍛え抜いた肉体と精神力の限界に挑む中、日本人選手の活躍も楽しみだ。
「ママでも金メダル」。ほほえましい目標を掲げたのが柔道女子の谷亮子選手である。結婚、出産を経て五輪三連覇に挑戦する。子どもから大人までファンは多く、注目度は高い。ぜひ金メダルを取って、幼い長男の首にかけてもらいたい。
野球の「星野ジャパン」も頂点を狙う。倉敷市出身でプロ野球で活躍した星野仙一監督が日本代表チームを率いる。野球は北京五輪で最後となる見通しだが、星野氏は「一番まぶしいもの(金)を」と米国と決勝で対戦し、野球の面白さを世界に伝えたいという。星野氏の気迫に選手がこたえてくれるはずだ。
水泳、マラソン、体操などでもメダルの期待は高い。最高の舞台で、熱いドラマが生まれるだろう。日本だけでなく世界で目当ての選手を見つければ、楽しさも増そう。
夢を壊すな
華やかな五輪にも暗い影がつきまとう。商業主義の拡大に伴う大会の肥大化や拝金主義といったひずみに加え、ドーピング(薬物使用)違反は後を絶たない。
前回のアテネ五輪では、素直に金メダルを喜べない日本人アスリートがいた。陸上男子ハンマー投げの室伏広治選手である。優勝選手のドーピング違反で順位が繰り上がっての金だったからだ。「勝てば何でもいいという風潮がスポーツ界にある。その中で自分自身を磨く姿を見てもらいたい」と北京五輪でトップを目指し練習に励む。
フェアプレーはスポーツの原点だ。五輪はメディアを通して世界に伝えられる。夢を壊さないよう、国際オリンピック委員会(IOC)は対策強化など不正の根絶に全力を挙げる必要がある。
選手にとっても健康を害するだけではない。世界の人々を失望させ、本人の名誉は失墜する。代償の重さを肝に銘じなければならない。
試される力量
北京五輪では環境問題がクローズアップされている。急速な経済発展により、北京市内の大気や水質の悪化などが海外から批判され、競技への支障さえ指摘される。
政府はイメージダウンを恐れて環境改善に力を入れているようだが、経済成長と環境対策のバランスをどう図るかは中国全体にとって大きな課題である。地球温暖化対策でも、積極的な取り組みが求められている。さらに国際社会が望んでいるのは、五輪開催を機に中国の国際協調をはじめ、国内の格差是正や民主化を進めることだ。
台湾問題では五輪聖火リレーをめぐり、関係がぎくしゃくした。ミャンマーの民主化などについて関係の深い中国の指導力発揮が期待されたが、国際社会が納得できる対応とは言い難い。日中関係は福田内閣になって改善されたが、真の友好国になれるかどうかはこれからである。
自国の利益に偏りがちな現状を変え、国際社会と信頼関係を築き上げることは中国の国益にもつながるはずだ。北京五輪に向け、中国が頼れる大国として広く認知されるかどうか、力量を試される年になろう。