コンテンツ知的財産論 (大阪工業大学・知的財産学部)
講義ノート 第8講: コンテンツの複製・変換
実際にコンテンツを複製・変換する手順を知り,そこに存する法的問題について検討する。
概要
- [1] 市販の DVD ソフトを複製する
- ①市販の DVD
- ▽一般的な DVD のパッケージには,いくつかの技術的事項に関する記述がある(右画像の右下赤枠部分)。それを拡大したのが下の画像で,上段中程やや右寄りに
「複製不能」
の文字がある(赤の下線)。これは当該 DVD ソフトにコピー・ガードが施されていることを示している。
- ※なお,ここで取り上げた DVD ソフトは関堂の所有に係るもので,Van Halen の “Live: Right Here, Right Now.”(ワーナーミュージック・ジャパン,WPBR-95009)である。
- ②一般的なソフトを用いて複製を試みる
- ⑴一般に市販されている動画編集・DVD 作成・複製ソフトを用いて,上記 DVD を複製してみる。ここでは,コンピュータにプリインストールされていた Roxio DigitalMedia を使う。
- ⑵
「ディスク コピー」
を実行すると……
- ディスクが
「コピー プロテクションされてい」
てコピーできない旨表示され,コピーが実行できず,ここから先へ進めない(「キャンセル」
のボタンが表示されており,これを選択するよりほかにない。)。
- ③別のソフトウェアを用いる
- ⑴上記とは別の,DVD 読み取り・書き込み用ソフトウェアを使う。とはいっても別に特殊なソフトウェアではない。インターネット上で無償でダウンロードでき,また雑誌等の附録 CD-ROM に収録されていることもある,いわゆるフリーソフトである。いくつか同種のソフトがあるが,ここでは DVD Decrypter を用いた。なお右の画像(メイン画面表示の一部)の下線部分にあるように,上記 DVD においては,CSS(Content Scrambling System)と CPPM(Content Protection for Prerecorded Media)という,技術的保護手段(著2条1項20号)ないし技術的制限手段(不正競争2条7項)が施されていることがわかる。
- ⑵DVD Decrypter では,特に難しい設定をせずとも,CSS,CPPMおよびマクロヴィジョン(Macrovision)等の技術的保護手段・技術的制限手段を解除して,DVD の内容(データ)をコンピュータのハードディスクにコピーすることができるようになる。下の画像はコピー実行中のログ画面。赤の下線部分には,
“Remove Macrovision Protection: Yes”
との表示が見られる。
- ④データ複製の完了
- ⑴DVD からのデータの取り込み(リッピング)が終わると,コンピュータのハードディスクにデータのファイル(ISO 形式,VOB 形式等)が生成される。右上の画像でのファイルは ISO ファイルで,これは 「イメージ・ファイル」 とも言い,これをそのまま DVD-R に書き込む(焼く)ことで当該 DVD のコピー・ディスクを作ることができる。
- ⑵上記のデータ・ファイルは,次のように利用することができる。
- ⒜前述のように,DVD-R にコピーすることでもう一枚 DVD を作ることができる。もっとも,片面二層の DVD ソフトを複製する場合は,これに対応する DVD-R DL 等のメディアが高価であるため,片面一層(DVD-R)に収まるようにさらに圧縮をするのが一般的であるようだ。
- ⒝影像データの形式を変換することで,データの容量を少なくしたり,コンピュータやポータブル・プレイヤー等で気軽にコンテンツを視聴できるようにすることができる(次項参照)。
- ⒞「Winny」「Share(仮称)」 等のいわゆるファイル共有ソフト(P2P アプリケーション)を用いて,ファイルのデータをインターネット経由で送受信することもできる(右下の画像は 「Share(仮称)」 の画面)。
- [2] DVD の影像データを変換する
- ①ファイル形式の変換
- 動画を再生できる携帯プレーヤー(私の場合は Sony PSP)の環境に合わせて,DVD のコンテンツ・データを(この場合は VOB ファイルを MP4 ファイルに)変換する。ここで用いたソフト 携帯動画変換君 もインターネット上で無償で配布されており,特に難しい設定を要さない。
- ②変換したファイルの視聴
- PSP の記憶媒体(メモリースティック Duo)に変換したファイル転送し,実際に視聴してみる。下の写真のうち,左は PSP のメニュー画面で動画ファイルの一覧を表示したところで,右は当該ファイルを実際に再生しているところ(映りこんでいてわかりづらいが)。
ポイント
- 従来アナログの時代においては,コンテンツは形式や媒体(メディア)と一体であり,またそれに支配されていた。すなわち,ユーザがアナログ・レコードに記録されたコンテンツを複製しようと思うと,カセットテープ等の既存の形式・媒体に依らざるを得なかった。
- デジタルの時代になり,また一連の情報技術が発達したことによって,コンテンツはデジタル・データとして,形式・媒体の支配を離れることができるようになった。要するに,ユーザ自身において,オリジナルと同一の形式・媒体で複製することも,また,高速なネットワークを通じて送信することも可能になった。
- 知的財産権は,法という人為的取決めの上に成り立っており,ゆえにそれに関する救済・制裁は法に則ってなされてきた。しかしながら現今は,一方の当事者が自己の知的財産に関する権利・利益を(法によるのではなく)技術的に保護することができ,そして法がこれを認めている。
演習
- これら一連の行為は法的にはどのように位置づけられるのか,それぞれの具体的行為を抽象化しつつ考えてみよう。
- 上記に関連して,違法だとしたらどの点が違法とされるのか,またその法的根拠はどこにあるか。
- ユーザが変換を行いそれを愉しむことは非難されるべきことか,一方のみの視点からではなくさまざまな角度から,また法的な観点のみならず倫理等の面からも検討してみよう。
- 上記の点を踏まえて,現行法制の問題点はないか,あるとしたらどのように変えたらよいのか,考察しよう。
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