◇大阪の笑い、東京が消費
若手漫才コンビが舞台に上がると、下を向いて売店の弁当を食べている団体客がいる。東京・新宿のお笑い専門劇場「ルミネtheよしもと」の雰囲気はまだ盛り上がっていない。あの芸を見せればきっとうけるだろう。しかし彼らはそれをしない。
松本康太さん(28)と西川晃啓(あきひろ)さん(28)が98年に大阪で結成した「レギュラー」。日常の出来事をネタにして思わず「ある、ある」とうなずいてしまう「あるある探検隊」で超売れっ子になる。漫才とは違う。ブームは2年で去り、今はテレビでめったに見かけない。
この日、2人はかけあいをしながら何とか舞台に引きつけようと客席に話しかける。「そのお弁当、高いでしょ」
全国的には無名だった02年、関西で「あるある」がブレークした。だが、漫才の大御所「オール阪神・巨人」のオール巨人さん(56)の「何年も続かへんし、しっかり漫才やった方がいい」という助言で封印した。
2年後、東京のテレビ番組から出演要請が来る。「あの『あるある』を一回だけでもやってください」。2人は渋ったが「ええか、全国ネットに出られるし」と引き受けた。放映されると、民放の引き合いが相次ぐ。東京でその芸ばかりを繰り返した。漫才の仕事は来ない。05年のNHK上方漫才コンテストで最優秀賞を取っても変わらなかった。
京都生まれの2人は高校を出て入った吉本興業の養成学校「吉本総合芸能学院(NSC)大阪」で知り合う。初めて客の前で漫才をした大阪市中央公会堂。女子高生から「おもしろかったです。ファン第1号にしてください」と手紙をもらった。2人で「この1人のファンを一生大事にしよう」と誓い合った。
「僕ら、あれだけ漫才を大切に思ってきたやないか」
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東京・神保町のNSC東京。06年から授業で見せるネタが3分から2分に短縮された。テレビ番組やオーディションで2分が主流になったからだ。
短時間のインパクトが重宝され、漫才は敬遠される。フジテレビで1分のネタを見せる番組のチーフプロデューサー、神原孝さん(40)は「1分だと視聴者が番組途中でも入りやすく、視聴率もいい」と明かす。
全国放送されるお笑い番組の多くが東京で制作され、東京の嗜好(しこう)とスピードに染まっていく。テレビ出演料も大阪の約5倍だ。
元関西テレビプロデューサーの上沼真平さん(60)は「大阪のスポンサー企業が東京の視聴率を一層意識するようになったため、地元で制作するテレビ局も大阪らしさを抑えている」と言う。
漫才はどこへ行くのか。
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再び新宿。レギュラーの舞台は終盤にさしかかる。畳みかけるしゃべりに客は弁当のはしを止め、オチではどっと笑いが起きた。
腕時計を見ると、持ち時間の8分ちょうどだった。【文・久田宏 写真・竹内幹】=つづく
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毎日新聞 2008年1月4日 東京朝刊