現在位置:asahi.com>社説 社説2008年01月06日(日曜日)付 08年の景気―「家計」もエンジンに原油も株も為替も金も、世界の市場は波乱とともに年が明けた。08年は荒々しい年、と予言するかのようだが、さて日本の景気はどうなるのだろうか。 景気は低空飛行ではあるが、いまのところ戦後最長の拡大を更新中だ。今月で丸6年になる。これを7年、8年と延ばしていくうえで、世界の市場の波乱は向かい風になるだろう。 これまで景気を支えていたのは、海外からの追い風だった。海外の経済が好調で輸出が伸び、それに極端な円安が加わって、とくに輸出企業の収益拡大と設備投資が景気を引っ張ってきた。その風が向かい風に方向を変えてきた。 まず昨夏から吹き始めた向かい風が、米国で起きたサブプライムローン(低所得者向け住宅融資)問題だ。融資のこげつきが欧米での金融危機に発展し、金融・為替市場が揺れている。これが米国の経済をどこまで冷やすか、対米輸出の減少で中国、インドなど新興国へも悪影響が及ぶか。不透明感が募る。円高方向へ変わり為替差益も減ってきた。 次に、サブプライム問題で行き場を失った投機資金が原油などの商品市場へ向かい、原油や農産物の相場高騰を加速させた。これが日本国内へも波及して、灯油やガソリン、食料品という生活必需品の値上げが続いている。 11月の消費者物価は1年前より0.4%上昇した。値上げ圧力はさらに高まっていくだろう。消費者は生活防衛へ傾きつつある。物価の上昇が消費をさらに萎縮(いしゅく)させる、という悪循環が心配な状況になってきた。 これまでのように、企業収益頼みの単発エンジン型では景気を支えられなくなったのだ。ここに家計の個人消費を加えて双発エンジン型にできるかどうか。それが問われている。 国内でも、企業収益頼みのひずみが目立つ。目下、景気の足を引っ張っている最大の犯人は、耐震偽装に端を発した建築基準法の規制強化だ。審査を厳格にしたため審査が滞り、住宅着工が大幅に落ち込んでいる。これは行政の不手際による面もあるが、厳しい規制を生んだのは事業者の利益優先、消費者軽視に対する強烈な不信だった。 昨年、相次いで露見した食品の偽装表示も、消費者との信頼関係をむしばみ、消費者心理を慎重にさせている。 家計を元気にするにはどうするか。まずは春闘に期待したい。 今年の春闘に向け、日本経団連は賃上げを容認する姿勢を打ち出した。「企業と家計を両輪とした経済構造を実現していく必要がある」と踏み込んだ。大企業は当然のこと、力のある中小企業にも賃上げのすそ野を広げるときだ。 派遣などの非正社員へも目を配り、待遇改善や正社員化など、長い目でみて会社の陣容を組み直す。設備に偏った投資を「人」へも振り向けて、新たな成長の糧とする自己改革が求められている。 欧州連合―また一歩、統合が進んだ欧州連合(EU)による地域統合がこの年末年始に新たな進展を見せた。 ポーランド、チェコなど9カ国が昨年末、他のEU諸国との国境での旅券審査をやめた。冷戦時代に「鉄のカーテン」で分断されていた国境を、いま人や車が自由に行き交っている。 元日からは地中海に浮かぶ小国キプロスとマルタで、EUの単一通貨ユーロの流通が始まった。6年前に日常生活で使われ始めたユーロは今や、ドルと並ぶ国際通貨に成長した。 これらの国々は4年前にEUに加盟した。それ以来、旅券審査の廃止やユーロ流通への準備作業が進められてきた。休むことなく、実績を積み重ねていく欧州統合の強さを改めて実感する。 統合を前進させるために何を、どう実行していくのか、その具体的な指針を示しているのが、EUの諸条約である。昨年末には、各国首脳の手によって新たにリスボン条約が調印された。 EUは、中東欧など12カ国の参加によって加盟27カ国、人口5億人近い体制となった。これだけの巨大機構になれば、官僚制の肥大化や非効率、民意とのズレといった弊害が強まって当然だ。 リスボン条約は、こうした課題に応えるための新しいルールを定めた。 まずEUの意思決定を迅速化するため、全会一致原則を改め、独自のやり方の多数決制を採り入れた。また、政策の実行力を高めるため、首脳会議の議長を務めるEU大統領や、EU外相(外務・安全保障上級代表)職を設けた。 条約の土台にしたのは、4年前にいったんつくられた「EU憲法」だ。フランスとオランダが国民投票で批准を拒んだため、憲法はお蔵入りになっていた。 条約づくりにあたって各国は、憲法からEU歌、EU旗など、EUを「一つの国」だと連想させる規定を削って抵抗感を薄める一方、改革の骨格を残した。 傷ついた中古品を、目立たないように修理して「新品」に仕上げる。その巧みなやり方には感心するほかない。 批准のための国民投票をする国が少ないため、条約は来年発効する見通しだ。そうなれば国際社会でのEUの存在感は一層強まっているに違いない。 欧州経済は好調を持続している。日本の国内総生産(GDP)が世界経済に占める比率は06年に1割を切ったが、EU各国のGDP合計は米国を追い抜いて、世界の約3割を占めている。 地球温暖化をめぐる論議でも、EUは最も厳しい防止策を掲げて、世界各国を相手に論陣を張っている。 まず域内でルールをつくり、それを国際社会に普及させていく。食の安全や環境基準づくりにも見られるEUの手法を日本は大いに学びとらねばならない。 外交では米国の動向に目が向きがちだが、それだけでは国際社会の行く末はつかみきれない。世界の多極化を引っ張るEUの変化から目が離せない。 PR情報 |
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