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ふるさとはどこですか:/6 東京へ引き抜かれる地方の看護師

 ◇残りたい、残れない

 診療科の数は20。年間の外来患者は43万人に上る。女性看護師(26)は東京都心のターミナル駅に近い大病院で働く。

 10カ月前まで宮崎県小林市の病院にいた。人手不足で、病気でも休めなかった。今は病院の借り上げマンションで暮らし、完全週休2日。「こんなに楽していいのかなあ」。うしろめたささえ感じる。

 07年3月、インターネットで知った「上京ナース応援パック」を利用した。看護師専門の人材紹介業者が東京の病院の面接を受けるための交通費や宿泊費を負担してくれる。登録者は1万7000人。転職が成立すれば、本人の年収の20%が手数料として業者に入る。「いくらでも報酬をはずむから連れてきてくれ」。病院からそんな依頼もある。

 国は06年「患者7人に看護師1人」の手厚い看護配置をした病院に最高の診療点数をつけるようになった。入院初期に集中的な看護を施し、在院日数を縮めて医療費削減を図る狙いだ。収入を増やしたい東京の大病院は、資金力にものを言わせ地方の看護師集めに走る。女性が上京したのは、悪性リンパ腫で母を亡くしたのがきっかけだった。看護師なのに末期に適切なケアができなかった。役立つ研修を受けたことがない。東京なら学べたと思うと悔しかった。

 今の病院で母と同じ病気の患者に接することがある。「つらいときはとことん、落ち込んでいいんですよ」。そう声をかけると顔が和らぐ。あの時は、分からなかった。同じ環境があったなら、ふるさとにいたかった。

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 小林市にある市民病院はこの2年で13人の看護師が辞めた。医師不足とも相まって産婦人科と小児科が一時、休止に追い込まれた。

 池田梨沙さん(27)は県立看護大を出て6年目。手術室担当は非番でも待機がかかり、土日も呼び出される。30分で病院に戻れる場所にいる決まりだ。結婚している看護師は、出産時期を同僚と調整している。同じ時期に2人も産休は取れない。

 地元の県立看護大や宮崎大看護学科の卒業生で過去3年、県内に就職したのは4割だけだ。医師会立養成校(6校)は8割が地元に残るが、国や自治体の補助金が減り経営は厳しい。廃校になれば地域医療が崩壊する。

 池田さんは2年前、同期の1人が東京の大学病院に転職する時「行くなら今しかないよ」と背中を押した。自分もネットで募集を見て心が動いた。でもいつも名前で呼んでくれる患者の顔が浮かび、思いとどまった。

 農繁期になると来院が減る。具合が悪くても無理をして稲刈りしたり、牛に餌をやる。病気がひどくなって初めて来る。聞くと「ほかにやる人がおらんけん」と言う。だから早めに健康相談に乗って病気の芽を摘み取りたい。

 郵便局のロビーで市と郵便局が運営する「まちかど健康相談室」がその場所だ。【文・千代崎聖史、松本光央/写真・竹内幹】=つづく

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 あなたのふるさとへの思いを募集します。連載へのご意見、ご感想もお寄せください。〒100-8051(住所不要)毎日新聞社会部「ふるさとはどこですか」係 ファクス03・3212・0635 メールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp

毎日新聞 2008年1月6日 東京朝刊

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