◇刑務所 労役困難、介護もなし/医療刑務所 治療不能、受け入れぬ
福岡刑務所(福岡県宇美町)が、所内で労役に服す「懲役」ができない認知症の高齢受刑者について、精神疾患がある受刑者を収容する北九州医療刑務所(北九州市)に受け入れを打診したところ、拒否されたことが4日分かった。理由は「認知症は治癒の見込みがない」。高齢受刑者は増加傾向にあり、矯正を目的とする現行制度下で、介護機能のない刑務所での認知症受刑者の処遇が問題点として浮上した。【反田昌平】
福岡刑務所によると、認知症の受刑者は2人。70歳代の1人は身寄りがなく06年に窃盗罪で有罪となり入所。出所3日後に再び窃盗容疑で逮捕され、再収監された。この受刑者は窃盗をしたことも覚えておらず、係官との会話も成立しない。医師は認知症と診断し、3畳の独居房で生活している。
刑務所側の負担もあり、北九州医療刑務所に収容を打診したが「(治療可能な)精神疾患を併発していないと受け入れられない。認知症は治癒の見込みがない」として拒否されたという。
福岡刑務所は、懲役8年未満の受刑者を1600人以上収容できる九州最大の刑務所で、窃盗など刑期が短い受刑者が多い。03年に185人だった65歳以上の高齢受刑者は、07年10月1日現在で261人と急増。最も多い罪状は窃盗罪で、再犯率も1人当たり9・5回と全体の4・1回を大きく上回り、出入所を頻繁に繰り返すケースも後を絶たない。
同刑務所の花岡栄次調査官は「社会で行き場を失った高齢者が何度も刑務所に来る。高齢化に伴い認知症の受刑者の増加も予想され、介護機能のない刑務所での対応が課題となる」と話している。
◇法務、厚労省で対策を研究中
法務省は今年、大分、広島、高松の3刑務所でバリアフリー化など戦後初の高齢受刑者対策に乗り出す。一方で、全国の認知症受刑者数を把握していない。ただ、知的障害・認知症対策については厚生労働省と共同研究を進めている。
毎日新聞 2008年1月5日 東京朝刊