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2007年12月30日(日曜日)付

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薬害肝炎法案―悲惨な教訓を再発防止に

 血液製剤を投与されたためにC型肝炎になり、苦しんだ。命を落とした人もいる。血液製剤を認可した国は製薬会社とともに、その責任を認めて謝り、損害賠償をしてほしい。

 こうした原告たちの願いが、ようやくかなえられることになった。

 与党が原告の求めに沿って、製剤の投与時期にかかわらず「全員一律」に給付金を支払うという救済法案をまとめた。給付金は肝がんや肝硬変の場合には4000万円とするなど、症状に応じて決められる。野党も賛成する方向で、来年初めに成立する見通しだ。

 同時に、訴訟の和解に向けての基本合意書もまとまった。これに従って、全国5カ所の裁判所で争われていた訴訟もすべて和解することになりそうだ。

 薬害C型肝炎をめぐる訴訟が最初に起こされてから5年になる。原告たちの苦しい戦いにやっと終止符が打たれることを喜びたい。

 大阪高裁が和解案を示してから半月、国の修正案を原告が拒否し、一時は交渉が行きづまった。しかし、首相が一転、原告の意向をくんだ法案づくりを与党に指示し、解決にこぎつけた。

 だが、これで肝炎問題が一件落着となるわけではない。

 法案では、政府に対し、薬害が起きてその被害の拡大を防げなかったことについて、責任を認めて謝罪するよう求めた。そのうえで、再発防止に最大の努力をすべきだとしている。

 薬害肝炎で政府はどこまで責任を負うべきなのか。五つの地裁の判決では判断が分かれた。だが、法的責任とは別に、国民の健康を守るべき厚生労働省が薬害を防げなかった事実は動かない。

 なぜこんな結果を招いたのか。第三者機関で検証することが基本合意書に盛り込まれた。当然のことだ。厚労省は検証の結果を踏まえ、二度と過ちを繰り返さないようにしなければならない。

 今回の法案は「全員一律救済」をうたうが、実際に給付金の対象になるのは、血液製剤の投与をカルテなどで証明できる患者だけだ。それは同じ製剤でC型肝炎になった可能性がある1万人以上のうち、1000人程度にとどまるという。

 こうした人たちを含めて350万人といわれるC型やB型の肝炎感染者を対象にした対策を急ぐ必要がある。

 肝炎は、放っておくと、肝硬変から肝がんに進む恐れがある。まだ感染に気づいていない人も多い。検査をもっと強く呼びかけ、感染者を早く探すべきだ。

 厚労省は来年度予算案に、高額のインターフェロン治療費を補助する129億円などを計上している。インターフェロンはとりわけC型に有効だ。症状が出ていない人も含め、必要な治療がきちんと受けられるようにしてもらいたい。

 悲惨な薬害の責任を認め、治療と再発防止に生かす。それが厚労省のせめてもの償いである。

力士リンチ―初動捜査のミスが痛い

 大相撲の時津風部屋の新弟子がけいこ中に死亡した事件を覚えておいでだろうか。発生から半年もたつのに、警察の捜査は年を越すことになった。

 愛知県警はいまだに遺体の鑑定を続けている。犬山署が病死として片づけようとしたのが、つまずきの元だった。なぜ、そんなことになったのか。捜査のあり方を改めて考えておきたい。

 救急出動した消防から犬山署への一報は「労働災害の可能性あり。不審死の疑い」だった。心肺停止状態で病院に担ぎ込まれた体には多くの出血やあざ、額には切り傷があった。当然、犯罪の疑いのある変死体と見るべきだった。

 変死体の場合、専門の研修を受けた県警の検視官が犯罪によるものかどうかを調べる。犯罪の疑いが濃ければ、司法解剖に回される。

 ところが、犬山署は事件性なしと決めつけ、検視官の要請をしなかった。

 署員はけがや出血を見ていたのに、当時の時津風親方や兄弟子たちの「激しいぶつかりげいこ中に倒れた」という説明をうのみにしたのだ。親方たちがビール瓶で額を殴ったり、集団で暴行したりしていたことには気づかなかった。

 死因の発表の仕方にも疑問がある。犬山署は「虚血性心疾患」との病名をつけて発表したが、搬送先の医師が書いた死亡診断書は「急性心不全」だった。警察は「口頭で了解を得た」というが、犯罪の疑いはなく病気によるもの、という印象を深める結果になった。

 なぜ犯罪ではないと判断してしまったのか。裸の激しい運動にけがはつきものという予断からか。しかし、ビール瓶による額のけがが、けいこの跡と違うことぐらいはすぐに分かりそうなものだ。

 警察庁長官や愛知県警本部長は「慎重にすべきだった」と反省を表明した。だが、捜査方法を反省するというのなら、なぜ間違えたのか、どこに問題があったのかを調べ、公表してもらいたい。

 この事件を受けて、警察庁は検視官を増やす方針だ。検視官は全国に約150人しかいない。警察が取り扱う死体は年間15万体にのぼるが、そのうち検視官が見るのは11%だけだ。10年前に比べ4ポイント下がっている。

 こうした現状を見れば、検視官を増やすことは必要だろう。しかし、最初に遺体を見る現場の署員が、犯罪ではないと思ってしまえば、検視官の出番はない。第一線の警察官の見分ける能力を高めることこそが求められる。

 愛知県警は新弟子の死と暴行との因果関係を解明するため、遺族の求めによる新潟大での解剖に加え、新たに名古屋大に再鑑定を依頼した。最初から犯罪の疑いを持っていれば、捜査はこれほど難航しなかったのではないか。

 最初から犯人と決めつけて冤罪を生んではいけないが、犯罪をみすみす見逃してしまうのも困る。初動捜査の大切さを改めて痛感させられる。

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