◇回復喜び合うために
ピッ、ピッ、ピッ--。モニター上を走る赤や緑のラインが小さな音を発して命のリズムを刻む集中治療室(ICU)。規則的な電子音が「自分はまだ生きている」と訴える。ベッドに備え付けられたモニターの間を、医師と看護師が幾度も行き来する。
川口市立医療センターの「救急救命センター」は、意識不明や心肺停止など命にかかわる急性の重症患者を受け入れている。救急搬送は1日平均3件。処療室とICUの10床、症状が安定した患者が移る病棟の約40床を受け持ち、夜は医師2人と看護師6人で守る。24時間態勢の命の砦(とりで)だ。
午後11時、風呂場で意識を失った女性(77)が運ばれてきた。CTスキャン(コンピューター断層撮影)にかけ、注射や点滴など次々と処置を施すが倒れた理由は不明。「聞こえる?」。手を握って声をかけても反応はなかった。
「助ける、という言葉は好きじゃないです」。医師の一林亮さん(31)は、2日連続の当直勤務で腫れた目を伏せた。「良くなったらいいな、という感じ。8割方亡くなりそうでも、患者さんが苦しくなく、家族にありがとうって言ってもらえるような治療をしたい」。患者名の横の赤い日付。ここでは死は日常だ。それだけに「患者さんが歩いて帰る時は本当にうれしい」。
一林さんは回復した患者をセンターに連れてくることがある。「良くなった姿を看護師に見せたいのと、おれの自己満足と……」。照れるように笑った。意識のない患者と一番苦しい時にずっとそばにいた看護師が回復を喜び合う。そうした光景に出合うためにも休み返上で治療にあたる。
モニターの白い光が反射するICUの窓。横たわった患者を見つめる看護師たち。午前2時前、一林さんが2度目のCT検査から戻ってきた。張りつめていた緊張感が解けている。「さっきのおばあちゃん、脳梗塞(のうこうそく)みたい。意識が戻って話せるようになってきました」【稲田佳代】=つづく
毎日新聞 2008年1月5日