現在位置:asahi.com>社説 社説2008年01月05日(土曜日)付 政治決戦の年―党首はめざす社会を競え正月休みが終わり、激動の予感をはらむ政治決戦の年が動き出した。 総選挙はいつなのか。選挙に向けてどんな戦略を描くのか。2大政党を率いるトップの第一声に注目した人も多かったのではないか。 「この100日、正直言って思った通りに事が運ばなかった」。年頭の記者会見でそう嘆いたのは福田首相である。 安倍前首相の突然の政権放り出しを受けて、首相の座についてから100日になるのに、最重要課題に位置づけた給油新法の審議さえ思うに任せない。実績を示せないなかでは、解散・総選挙もままならない。そんな焦りがつい、口をついたように聞こえた。 「火の玉になって何が何でも総選挙に勝利する」。民主党の小沢代表は元日の新年会で力こぶを入れ直した。 参院選の大勝もつかの間、「大連立」騒ぎで党内はきしみ、防衛省の不祥事や「宙に浮いた年金記録」の「敵失」で何とか息をついだ。ここは早期の総選挙に照準を合わせ、戦線を立て直したい。そう思い定めたということだろう。 週明けから再開する臨時国会では、給油新法の対決にけりがつく。与党が衆院の「3分の2」で再可決に踏み切るからである。だがその結果、与野党の対立がさらに深まるのは間違いない。 息つく間もなく始まる通常国会は、予算関連法案をめぐる激突が必至だ。 税制改正を含む法案が3月末までに成立しないと、ガソリンの値段が急に変わるなどの影響が出る。同じころ、年金記録の問題で、政府が公約した名寄せの期限がやって来る。この機をとらえ、民主党は参院で首相への問責決議案を出そうと手ぐすねを引いているようだ。 2大政党のにらみ合いは、いずれ総選挙で国民に問うしか決着の道はなさそうだ。そのためにも、首相と小沢氏に実行してもらいたいことがある。 首相に求めたいのは、福田政権が何をめざすのか、そのビジョンをはっきり語ることだ。通常国会の施政方針演説がその格好の舞台になるはずだ。 福田内閣の支持率急落は、防衛省や年金記録の問題のせいだけではあるまい。ピンチヒッターとして首相についた福田氏の基本的な政策がいまだにぼんやりしていることも大きな要因ではないか。 小沢氏に求めたいのは、通常国会に出すという独自の予算関連法案で、「民主党政権なら税金をこう使う」という具体策をきちんと示すことだ。それによって、民主党がどんな社会をつくろうとしているのかが明確になる。 両氏ともに物足りないのは、国民の耳に痛い議論から逃げ腰なことだ。たとえば、社会保障費が膨らむなかで消費税を引き上げないですむのか。そうした問題に正面から向き合ってもらいたい。 厳しい競い合いによって、来るべき総選挙のマニフェストを互いに鍛えていく。そんな論戦を求めたい。 原油100ドル―やはり省エネ・新エネだ08年の経済市場は波乱の幕開けとなった。ニューヨーク市場で原油先物が初めて1バレル=100ドルを突破。石油多消費型経済の米国では一時、株やドルが大きく値を下げた。日本でも初取引の株価が昨年来の最安値まで急落した。 原油急騰の直接の引き金は、アフリカ産油国での政情悪化だ。原油の需給そのものがいま逼迫(ひっぱく)しているわけではない。だから「原油価格は再び大きく下がる」という専門家もいる。 ただし長期的にみれば、そう楽観はできないだろう。 第一に、ロシアに代表されるような資源囲い込みに動く資源ナショナリズムの台頭だ。以前からの産油国にも、90年代に増産を競って20ドルを割る水準まで相場が下落した苦い経験があり、大増産への設備投資に拍車がかかりにくい。 需要の方は活発だ。中国やインドのような巨大新興国の急成長が今後も続く可能性が強く、エネルギー需要がかつてないほど大きく膨らむのは間違いない。「超原油高」の時代は今後も続くと見ておいたほうがいいだろう。 為替水準や物価の変動を勘案した実質的な原油輸入価格はいま、過去最高値だった第2次石油危機後の82年秋とほぼ同じ水準まで高まっている。それだけを見れば大変なショックに見舞われそうだが、幸い日本経済が原油高に耐える体力は、当時より格段に増している。 原子力や天然ガスなどへエネルギーの多様化を進めた結果、原油が一次エネルギーに占める比率は石油危機前の8割弱から5割弱まで下がった。06年の原油輸入量は73年より17%も少ない。 とはいえ、原油高で米国や中国の経済が揺らげば、日本経済を支えている輸出産業に大きな影響が出る。そのリスクは小さくない。 世界経済に表れつつある病状は複雑で、各国が的確な処方箋(せん)を描き切れない悩みもある。米国は物価高と景気悪化が同時に進むスタグフレーション、欧州はインフレを心配している。日本では、原油高や穀物の高騰が家計を圧迫し、景気の腰を折るかもしれない。それぞれが経済政策の正念場を迎えている。 原油高騰の裏には、サブプライムショックがある。欧米金融市場での信用不安を嫌い、ここからあふれ出た巨額の投機マネーが原油や穀物の価格を急騰させている。実体経済への悪影響を防ぐため、金融不安を主要国が協調して封じ込めることが最大の対策になる。 さらに長期的な課題にも取り組む必要がある。地球温暖化防止のためにも、持続維持可能なエネルギー市場をつくるためにも、「ポスト京都」の枠組み作りなどを通じ、省エネ・新エネ型経済を世界規模で作り上げなければならない。 省エネで2度の石油危機を乗り切り、90年代の金融危機対策の経験を積み重ねてきた日本には、こうした面で世界に貢献できる点が少なくないはずだ。 PR情報 |
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