福山の住まいでは、朝六時になると、近くの寺から鐘の音が聞こえてくる。毎日早起きというわけではないので、たまにしか耳にすることはないが、一日の始まりとして何やらいい気分になる。
二〇〇八年が始まった。除夜の鐘を聞きながら新しい年を迎えた人も多いだろう。大みそかに寺に参るのもよし、テレビで全国各地の有名な寺の鐘の音を聞きながら年を越すのもまたよし。除夜の鐘とともに煩悩を消し去り、清らかな気分で新年を迎える習慣は日本人の身に染みている。
除夜の鐘といえば百八つ。煩悩の数というが、なぜ百八なのだろう。諸説のうちの一つに「四苦八苦」を取り払うという意味で、四×九=三十六と八×九=七十二を足して百八。こじつけ?としても、うまくできているなあと納得してしまう。
「求めない」(小学館刊)という本が人気という。求めない―すると、何かが変わる、と説く。例えば、求めないと―心が広くなる▽恐怖心が消えてゆく▽ひととの調和がおこる…。著者は“信州伊那谷の老子”と呼ばれる加島祥造さん。
執着や欲望など煩悩はいろいろあるが、確かに、「求めない」気持ちになれば、心が落ち着き、寛容になる。何かを求め、期待するからこそ、満たされることは少ないだけに腹が立つ。
昨年は、慢心から私自身けがをして、節目を感じる年だった。もとより悟りを開いたわけでもない凡愚の身。単なるあきらめではない、「求めない」境地に至るのは難しいが、一歩でも近づくことを新年の目標の一つにしよう。
(福山支社・鳥越聖寿)