正月が明けると食品や生活用品の値上げラッシュが続く。各家庭の台所への負担は昨年以上にずしりと重くなるのは間違いない。
既に即席ラーメンの大手メーカーは、小麦の高騰のため正月の工場出荷分から値上げしている。二月にはサランラップ、チーズ、同月から六月にかけてはビールが上がる。冷凍食品やしょうゆ、焼酎は三月だ。四月には牛乳が一九七八年以来三十年ぶりに値上げとなる。
昨年来の国際的な原油価格高騰が原因である。ガソリンの代替燃料であるバイオエタノール量産のため、大豆や小麦がトウモロコシなどに転作され、食糧の国際価格を跳ね上げた。正月早々ニューヨークの原油先物相場は一バレル=一〇〇ドルに達した。灯油の高騰は寒冷地の暖房費を直撃するだけに深刻だ。社会的弱者への手厚い支援が欠かせない。
広がる格差
格差の解消も今年の課題だ。正社員と比べ賃金水準が著しく劣る非正規社員は、昨年千七百万人に達し、全労働者の三人に一人の割合になった。働いても働いても貧しい生活から抜け出せない「ワーキングプア」の温床になっている。非正規社員が企業の人件費抑制のための雇用調整弁となっている仕組みは改められねばならない。
住む家もなくネットカフェを泊まり歩くネットカフェ難民が生まれた。昨年の国の調査で全国で推計五千四百人に上り、その半数が日雇い派遣やパートなどの非正規雇用で、四割は失業者などの無業者だった。二十代の若者が27%を占める。社会へ出て間もない若者への格差拡大は憂慮すべき事態だ。
厚生労働省の二〇〇六年の調査でも、正社員を一〇〇とした場合の非正社員の賃金(六月分)水準は男性六四、女性六九で、格差は歴然としている。欧州のように同一労働同一賃金の原則が望まれる。
安心できる暮らし
昨年十二月中旬、福田内閣の支持率が急落した。背景には年金記録問題で、政府が「宙に浮いた」年金の全面解決を事実上断念したことがある。年金記録問題は昨年の参院選での自民党の歴史的惨敗の大きな要因となった。
年金が満額受給できるか否かは老後の生活設計に大きく影響するだけに、国民の反応は敏感だ。全面解決の公約が不可能となった際、福田首相が「大げさなものなのか」と述べたことにも反発が出た。福田首相は陳謝したが、総じて歴代首相は年金問題への認識が甘くはないか。
少子高齢化は年金財政に厳しい現実を突きつける。働き盛りの人口が減り続けているのに、今後も高齢者は増え続け、年金や医療費を国は支えられるのか、誰もが不安に思っている。「百年安心」と政府がPRしたにもかかわらず、年金問題はほころびが出た。国民が信頼できる年金制度について、国会で徹底的に議論が必要だ。
新たな生き方
綱渡りで一本のロープから転落しても無事なように張られているのがセーフティーネット(安全網)である。万が一の時も国民が安心して暮らせる社会保障を指す言葉だ。しかし年金記録、格差の拡大、ワーキングプアなどの問題は、右肩上がりの成長路線を想定していた制度の枠組みでは、十分に機能しなくなってきたことを示している。
人口減少によりこれからの経済が下り坂となるのは避けられない。終身雇用などの日本的経営システムを維持するのも困難となってくる。国民には将来負担が重くのしかかる。しかし少子高齢化は決してマイナスばかりではない。これまでの発想を大きく変える必要がある。優しさや支え合いが大切になる。
重要なのはワークライフバランス(生活と仕事の調和)だ。世界的にも突出して長い日本人の労働時間は改めねばならないだろう。家庭や地域社会にもっと時間を使いたい。育児や介護と両立した働き方にする必要がある。
若者、女性、高齢者、すべての労働者の意欲を支えるセーフティーネットを再構築することで、真の豊かさが実感できる社会としたい。