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更新:12月25日 11:40インターネット:最新ニュース

未成年携帯フィルタリングという「愚策」

 総務省は今月10日、携帯キャリアに対し、18歳未満の未成年者が契約する際、親権者が不要と申告しない限り有害サイトへのアクセスを制限するフィルタリングサービスを自動的に適用するよう要請した。出会い系などの有害サイトが社会的に深刻な問題となり、何らかの対応が必要であることは事実だが、携帯キャリアに対する行政指導という手法には疑問を感じざるを得ない。コンテンツ産業、ソーシャルメディアという新たなメディア、さらには新たに生まれ始めた「ケータイ文化」という三者の発展を著しく阻害しかねないからである。(岸博幸の「メディア業界」改造計画)

■3つの悪影響

 携帯キャリアが未成年携帯フィルタリングを自動的に適用した場合、何が起きるかを考えてみよう。ざっくりと言えば、未成年者が使う携帯からは、大手キャリアが安全と認定した公式サイトか、フィルタリング技術を手がけるネットスターなどがアクセス制限の対象としていないサイトにしかアクセスできなくなる。

 その結果、確かに未成年者が有害サイトにアクセスすることが困難になるという効果は期待できるが、3つの悪影響が生じる可能性がある。

 まずコンテンツ産業の側に大きな問題が生じるであろう。どんな優良なコンテンツを制作しようと、それを提供するサイトが携帯キャリアの公式サイトに認定されない限り、未成年者の携帯からはアクセスできないことになる。そして、公式サイトを認定する権限が携帯キャリアの側にある以上、コンテンツ制作者は携帯キャリアの胸先三寸によって、中高生というコンテンツにとって最も大事なユーザー層を逃すリスクにさらされることになる。

携帯電話・PHS各社のトップにフィルタリングサービス導入促進を要請する増田総務相(中央)=10日

 同種のコンテンツを制作・提供する2つの会社があるとしよう。1つは、すごく出来が良いコンテンツを作るけど、携帯キャリアからは嫌われている。もう1つは、コンテンツの出来はイマイチだけど携帯キャリアとは仲が良い。この場合、後者のみが公式コンテンツと認定されると、前者よりも後者が広いユーザー層を獲得できるのである(実際、筆者はそれに近い実例を聞いている)。

 次に、ソーシャルメディアという世界的にも重要性が高まっている新たなメディアと、さらには「ケータイ文化」とでも言うべき新たな文化を衰退させる可能性があることを忘れてはならない。ネットスターの基準によると、コミュニティーサイトはアクセス制限の対象となる。従って未成年者は、公式サイトに認定されていないSNSやバーチャルワールドには携帯からアクセスできなくなるのである。

 しかし、SNSやバーチャルワールドは、ソーシャルメディアと総称されるまでに新たなメディアとしての地位を確立しており、世界的にその覇権争いが激化している。そうしたなかでコアユーザーの一角をなす中高生の携帯からそれらのサイトにアクセスできなくさせるということは、日本はソーシャルメディアの覇権争いから撤退すると宣言したに等しい。

 さらに言えば、日本人がケータイ経由でのソーシャルメディアの活用に長けているからこそ、ケータイ小説に代表される世界初の「ケータイ文化」が花開きつつあるのだ。そして、その生成には中高生が大きな役割を果たしている。この新しい文化は今後さらに進化し、世界が評価する日本のポップカルチャーの新たな一翼を担う存在となる可能性があることを考えると、未成年携帯フィルタリングが新たな文化を衰退させてしまうことの損失は大きい。

■有害サイト対策の基本はコンテンツ側の自助努力

 従って私は、総務省の携帯キャリアに対する行政指導という手法には賛成しかねる。携帯自体はコミュニケーションとメディアのプラットフォームに過ぎず、そのプラットフォームがコンテンツを選別することは、世界的なプラットフォームのオープン化の潮流を考えてもおかしい。

 では、誰が有害サイトの選別と撲滅に取り組むべきか。行政が主導することはあり得ない。憲法で保障されている表現の自由の侵害になりかねないからである。すると、消去法で考えると、コンテンツ側の自助努力しかないという結論になる。

 幸い、モバイル・コンテンツ・フォーラムなどのコンテンツ業界による組織もあるのだから、そうした場を活用して携帯キャリアや行政の協力も得ながら、コンテンツ側が率先して有害サイトの撲滅に取り組むべきではないだろうか。

 ちなみに、このように考えると、携帯キャリアの公式サイトという存在がいかに矛盾したものであるかがわかるであろう。世界的にはパソコンでも携帯でもプラットフォームのオープン化が必然の流れである。今回の問題を機に、プラットフォームがコンテンツを選別するという、世界の流れに逆行した携帯上の仕組みを改める動きが進むのではないか。

■なぜ誤った政策が横行するのか

 総務省はこの数年、通信・放送政策に関して正しい対応を連続してきた。その意味では、今回の問題は通信・放送分野での久々の対応ミスと言えよう。ただ、行政指導レベルなのでいくらでも取り返しがつく。これに対し、与野党の一部の国会議員の間で、未成年対象のフィルタリングを携帯とパソコンの双方に強制する立法を検討する動きがあるが、これは最悪である。社会問題への対応のために産業・メディア・文化を犠牲にする立法ほど、視野の狭い愚行はない。

 それにしても、今回の問題に限らず、今年は誤った政策対応が横行した一年であった。消費税論議、道路財源、年金問題、独立行政法人改革など、列挙したらきりがない。政治が混乱するなかで改革機運が後退し、官僚に緩みが生じた結果と言わざるを得ない。政治主導の改革が不可能となったいま、民間の側が誤った政策を厳しく糾弾し、改革の継続を求めるべきではないだろうか。

 来年1月4日、わが師である竹中平蔵・慶応大学教授が主導するシンクタンク「チーム・ポリシーウォッチ」が六本木ヒルズのアカデミーヒルズで「2008年:政治経済の混迷を斬る 〜竹中チーム再結集〜」というイベントを開催し、今年一年の「ダメ政策ランキング」の発表などを行う。入場無料なので、改革の後退を憂う方々は是非参加いただきたい。

-筆者紹介-

岸 博幸(きし ひろゆき)

慶応大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授、エイベックス取締役

略歴

 1962年、東京都生まれ。一橋大学経済卒、コロンビア大学ビジネススクール卒
業(MBA)。86年、通商産業省(現・経済産業省)入省。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)、資源エネルギー庁、内閣官房IT担当室などを経て、当時の竹中平蔵大臣の秘書官に就任。同大臣の側近として、不良債権処理、郵政民営化など構造改革の立案・実行に携わる。98〜00年に坂本龍一氏らとともに設立したメディアアーティスト協会(MAA)の事務局長を兼職するなど、ボランティアで音楽、アニメ等のコンテンツビジネスのプロデュースに関与。2004年から慶応大学助教授を兼任。06年、小泉内閣の終焉とともに経産省を退職し、慶応大学助教授(デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構)に就任。07年から現職。

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