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社説

2008年01月01日(火曜日)付

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平成20年の意味―歴史に刻む総選挙の年に

 不穏な年明けである。

 と、元旦の社説に書いたのは5年前のことだった。米国がイラク攻撃へひた走り、北朝鮮の拉致と核でも緊迫の度が高まるばかり。世界はどうなるのか、せっぱ詰まった重苦しさがあった。

 今年もまた、穏やかならぬ年明けだ。

 外から押し寄せる脅威よりも前に、中から崩れてはしまわないか。今度はそんな不安にかられる。

 日本防衛の重責を担っていた官僚トップに、あれほどモラルが欠如していようとは。暮らしの安心を保証する年金が、あんなにずさんに扱われていたとは。日々のニュースがこれほど「偽」の字に覆われようとは……。

 ただでさえ、年金制度の将来設計は危ういし、借金づけの財政にも、進む少子高齢化にも、これといった策が打ち出せない。経済のかげりは隠せず、生活苦のワーキングプアも増えた。日本は沈みつつある船ではないのか。

 私たちが昨秋から社説で「希望社会への提言」シリーズを展開しているのも、そんな危機感からである。

 だが最も切実なのは、深刻な課題に取り組むべき政治が混迷の中にあることではないか。「ねじれ国会」でますます迷路をさまようのか、それとも出口を見つけるか。今年は大きな分岐点にある。

■蛇行の末のねじれ

 平成も、はや20年を迎えた。

 昭和から平成に元号が変わったのは89年1月8日。時の竹下登氏から福田康夫氏に至るまで、日本の首相は何と13人を数えた。小泉政権の5年半を除けばあきれるばかりの数であり、政治の非力と蛇行をうかがわせるに十分だ。

 平成元年は激動の入り口だった。

 リクルート事件が山場を迎え、政治改革が課題に。消費税がついに導入され、参院選で自民党が大敗、一時とはいえ初めて与野党が逆転した年だった。

 世界史の上では、東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩れた年である。

 冷戦終幕は「55年体制」からの脱却に向けて日本政治の背中も押した。小沢一郎氏らが自民党を出て「非自民」連立の細川政権をつくったのは93年。これが政界再編の第1章であり、政治改革の目玉として衆院に小選挙区制導入の改革が行われた。政権交代を当たり前とする「二大政党」時代への条件整備だった。

 再編第2章は、いまの民主党が結成された98年。これで二大政党の準備はできたが、小選挙区制の果実は自民党が先に味わった。05年に小泉首相が郵政総選挙で大勝し、与党が議席の3分の2を獲得したのだ。だが、小泉後のしっぺ返しも強烈。昨年の参院選で民主党が圧勝し、衆参「ねじれ時代」に突入した。

 正月休みが終われば越年国会が再開され、「給油新法」の対決にけりがつく。参院で野党が、衆院では与党がそれぞれ数にものを言わせ、最後は衆院で「3分の2」ルールが使われるという。この半世紀、なかったことだ。

 しかし、与党はこの方式を毎度あてにはできないし、参院の民主党優位は6年は続きそうだ。ねじれ国会をどうするのか。それが切実に問われている。

■沈没を防ぐため

 昨秋、「大連立」の話が降ってわいて大騒ぎになった。あっさり消えたのは当然として、与野党が対決を乗り越えて必要な政策を力強く進めるには、どうすればよいのか。政治が重い宿題を負わされたことは間違いない。

 どんな道があるだろうか。

 与野党が政策をすりあわせて合意を探ればよいのだが、いまは簡単ではない。参院選で勢いづいた野党は「民意はこちらに」と譲らないし、与党も最後は衆院の「3分の2」に頼るからだ。

 ここは衆参の1勝1敗を踏まえて、改めて総選挙に問うしかあるまい。政権選択の、いわば決勝戦である。

 結果をおおざっぱに考えてみよう。

 もし民主党が勝てば、いよいよ政権が交代して衆参のねじれも消える。政権交代の実現は、もともと政治改革のねらいだったはず。それが果たされる。

 一方、与党にとっては、勝ってもねじれは変わらぬうえ、「3分の2」を失うリスクも大きいが、それでも「民意」の旗を取り戻すことができる。もはや野党も「反対」だけを通せまい。

 今度の総選挙はそんな勝負だけに、あらかじめ厳しい節度を求めておきたい。まず、与野党とも受けねらいのバラ色の政策ではなく、政権担当を前提に、可能な限り現実的な公約を競うこと。

 第二に、敗者は潔く勝者に協力することだ。自民党の下野は当然として、もし民主党が負けたら参院の多数を振りかざさず、謙虚に政策調整に応じるのだ。仕組みを工夫して、ねじれ時代のルールを確立する必要がある。

 選挙の勝敗が鮮明でない場合など、政党再編や連立組み替えもありえよう。場合によっては大きなテーマを軸に「大連立」が再燃するかもしれないが、それもこれも総選挙をしてからの話だ。

 世界は待ってはくれない。冷戦後、統一ドイツはしっかり国の基盤を固め、フランスとともに欧州連合(EU)を引っ張ってきた。ソ連に代わって登場したロシアも、経済混迷の時代などいまや昔の物語。中国やインドをはじめ、アジアもダイナミックな伸び盛りだ。

 今秋には米国で大統領選があり、「ブッシュの時代」は終わりを告げる。世界の中の日本も曲がり角にあるが、まずは日本の沈没を防ぐため、政治の体勢を整えるしかあるまい。

 平成20年。政界再編第1章から15年、第2章からは10年――。今年、政治の歴史に大きな節目を刻みたい。

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