「地球は熱病にかかっている。一致団結して立ち上がらなければならない」。昨年のノーベル平和賞を受賞した米国のアル・ゴア前副大統領は、授賞式で世界に向けてメッセージを発信した。
二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスによる地球温暖化が止まらない。スイス南部アルプスではローヌ氷河が解け、大規模な自然災害が懸念されている。アフリカ南部では干ばつが深刻だ。南太平洋・ツバルは海面上昇で「最初に沈む国」といわれる。
人類が直面する危機に科学者も訴えた。昨年十一月、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した第四次統合報告書である。温暖化が進むと生物の絶滅被害やサンゴの白化、熱波による死者、森林火災増加などの影響が出ると警告を発し、早急な対策がなければ、今世紀末の平均気温が最大で六・四度上昇すると予測した。
新たな枠組み合意
温暖化防止対策は待ったなしの状況にある。昨年六月のハイリゲンダム・サミット(ドイツ)では、日本が提案した「世界の温室効果ガス排出量を二〇五〇年までに半減させる」長期目標が共通認識となった。しかし、そこに至るまでの道のりは遠い。同十二月にはインドネシアのバリ島で気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)が開かれ、一三年以降の「ポスト京都」の国際交渉の道筋を定めた行程表「バリ・ロードマップ」が採択された。
米国などの抵抗で温室効果ガスの削減数値は盛り込まれなかったが、米国、中国などを含む「全員参加」による新しい枠組みづくりが合意された。交渉期限は〇九年末で、これからが正念場だ。
行程表では途上国にも温室効果ガスの削減努力が求められている。途上国支援に必要な省エネ技術と資金力を兼ね備えた日本は主導的役割を果たさねばなるまい。
目標達成が不可欠
一日から京都議定書の約束期間がスタートした。
一九九七年に採択された京都議定書は、今年から二〇一二年までの五年間に、先進国全体で温室効果ガスの排出量を一九九〇年に比べ5%削減することを義務付けた。各国別の目標もあり、日本は6%削減が国際公約となっている。しかし、〇六年度の排出量は逆に九〇年に比べ6・4%増えている。「温暖化防止に向けた小さな一歩」とされるこの目標達成すら危ぶまれる状況だ。
日本が約束を守れなければ国際的信用も失われ、環境問題で世界のリーダーとなることはできまい。目標達成は不可欠だ。七月に開かれる北海道・洞爺湖サミットは「ポスト京都」に向けた重要な外交交渉の場ともなる。議長国である日本が議論をリードする必要があろう。政府は「ポスト京都」の新たな国別削減目標の導入を提案する方針だ。そのためにも、京都議定書を守る特段の努力が必要だ。
鍵握る家庭省エネ
温暖化防止には社会全体の取り組みが欠かせない。政府の試算では、産業部門は省エネ努力の成果が出て一〇年度には排出量が一九九〇年度比8・5%減るという。その一方で排出量を押し上げているのがオフィスや家庭部門だ。国民の意識を改革し、家庭での省エネ対策でどこまで成果を上げられるかが今後の重要な鍵を握る。まず「私から」の気持ちで始めよう。
ゴア氏は著書「不都合な真実」の中で「私にできる10の事」を呼び掛けている。省エネ型の電化製品や電球に交換する、停車中はエンジンを切る、リサイクル製品を積極的に利用する、過剰包装やレジ袋を断りエコ・バッグを使う、エアコンの設定温度を変える―などである。身近なことから見直してみたい。
低炭素社会への移行には相当な決意が必要だ。車を中心とした社会の在り方やエネルギー消費型の生活まで変えていく覚悟が求められよう。
温暖化は人類が抱える最大の脅威だ。今後五年間の成果が、地球環境の将来を占う。かけがえのない地球を守るための人類の取り組みが問われている。一人一人が行動を加速する年にしよう。