かつては正月に映画を見に行くのが楽しみだった。子どものころは、「ゴジラ」の迫力ある画面に夢中になった。大人になってからは、「男はつらいよ」で寅さんの失恋話に一喜一憂した。
映画館はにぎわいを取り戻しつつあるが、最近はこれといった正月映画の定番がなくなった。残念だが、岡山の美術ファンにとって定番は健在だ。院展である。今年も岡山市の天満屋岡山店で二日から始まった。
昨年秋の東京を皮切りに京都、大阪などを巡回し、ちょうど正月に岡山で開かれるのは幸運と言える。初売りで活気づく売り場を抜けると、院展独特の凛(りん)とした品格が会場を支配する。
後藤純男さんの「初桜遊行俯瞰(ふかん)図」と高橋秀年さんの「春の音」は、それぞれ咲き誇る桜をモチーフにしている。浮き立つようなあでやかさが、外の寒さを忘れさせる。
勇気がいっただろうな、と思わせる作品も目を引く。下田義寛さんの「暁光」は、過去に横山大観らの名品がある富士山を重厚に描いている。清水由朗さんの「下弦の橋」は、ゴッホの作品で有名な南仏アルルの跳ね橋を全く違うイメージで表現した。
平山郁夫さんの「古代ローマ遺跡 エフェソス・トルコ」は、安定した筆致で壮大な歴史の残像を伝える。会場には日本画の粋を集めた六十八点の大作が展示され、すがすがしい気持ちになる。新春ならではだろう。