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2008年01月04日(金曜日)付

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米大統領選―世界を変える論戦を

 初の女性か、アフリカ系(黒人)の若手か、それとも新たな保守革命の旗手が登場するのか。今秋の米大統領選挙に向けて、候補者選びがいよいよ始まる。

 厳寒のアイオワ州で行われる民主、共和両党の党員集会が皮切りだ。2月はじめには20以上の州で一斉に投票があり、ヤマ場を迎える。11月の本選挙まで、1年近くの長丁場だ。

 イラク、アフガニスタンで混迷が続く中で、8年ぶりの指導者交代である。ブッシュ大統領は退き、チェイニー副大統領も立候補しない。まったくの新顔の間での争いは、80年ぶりという。

 01年の9・11テロの時には世界中の同情と共感を集めた米国なのに、今やその指導力はがた落ちだ。パキスタンで昨年末に起きたブット元首相の暗殺で、ブッシュ流の「テロとの戦い」はいっそう先が見えなくなった。北朝鮮による核計画の申告はずれ込み、中東和平会議も停滞したままだ。

 米国がここからどう立ち直り、新しい展望を切り開くのか。これから11カ月間繰り広げられる論戦に注目したい。

 政権奪取をめざす民主党では、クリントン上院議員が「本命」とみられている。いうまでもない、前大統領の妻だ。夫婦がともにホワイトハウスの主人になれば、前代未聞である。

 そのライバルがオバマ上院議員だ。アフリカ系の弁護士出身で、46歳という若さ。数年前までは全国的には無名の存在だった。前回は副大統領候補だったエドワーズ氏も挑戦する。

 混戦の共和党では、ジュリアーニ前ニューヨーク市長が一番手と見られてきたが、支持率は下がり気味だ。序盤のアイオワ州では、モルモン教徒のロムニー前マサチューセッツ州知事と、牧師のハッカビー前アーカンソー州知事が接戦を演じている。「ブッシュ後継」を自負する候補者がいないことが、何よりも保守派の混迷をものがたる。

 振り返ればこの7年間、米社会は深い分裂をあじわってきた。

 テロの恐怖を背景に、宗教心があつく米国の正義と力を信奉する人たちが、ブッシュ氏の支持層の中核だった。一方でネオコン主導の強硬路線に激しく反発する人も多かった。イラク戦争では、世界にも大きな亀裂をもたらした。

 選挙戦では、雇用や医療保険など身近な争点が中心になる。だが、論戦を通じて、こうした分裂や亀裂を乗り越える新たな流れが生まれることを期待したい。

 アル・ゴア氏が前々回の選挙でブッシュ氏に敗れたのは、一つの州でのわずかな票差によるものだった。それが、その後の米国、そして世界のありように大きな違いをもたらした。米国の有権者の一票で、文字通り歴史が変わる。

 核軍縮から地球環境まで、世界が抱える懸案の打開には米国の力が必要だ。私たちも一票がほしいところだが、ここは米国民の選択を見守りたい。

インフルエンザ―敵の正体を知り備えよう

 インフルエンザが猛威をふるっている。年が明け、さらに広がる気配だ。

 今回の流行の中心は「Aソ連型」と呼ばれるウイルスで、冷戦さなかの1977年に現れた種類だ。その名のもとになった国が消えたいまも、しぶとく生き残っている。

 といっても、「生き残った」という表現は、正確ではないかもしれない。

 「私は、ウイルスを生物であるとは定義しない」。40万部を超え、科学書としては異例のベストセラーになっている「生物と無生物のあいだ」で、福岡伸一青山学院大教授はそう書いている。

 「生物ではなく、限りなく物質に近い存在」なのだという。生きていないのだから、殺すことはできない。

 なんだか拍子抜けするような話である。ウイルスとはいったい何か。まず敵の正体を知っておくことが大切だ。

 同じ病原体の仲間である細菌と比べると、その違いがはっきりする。

 細菌は、外から物を取り込んでエネルギーを生みながら生きている。単細胞とはいえ、生命活動を営んでいるから、抗生物質で殺すことができる。

 ウイルスはDNAなどの遺伝物質がたんぱく質の殻をかぶっただけのもので、生命活動は一切ない。細菌は形や大きさがさまざまなのに、ウイルスは同じ種類なら全く同じだ。まさにモノである。

 単なるモノと違うのは増えていくことだ。ただ、細菌と違って自分で増える力がないので、特定の細胞に入り込んで乗っ取り、作らせる。乗っ取られた細胞は機能が損なわれて病気になる。

 では、乗っ取りをどう防ぐか。頼りは、からだに免疫を与えるワクチンだ。ワクチンはいわば、おとりを大量に作り出す。それがウイルスをおびき寄せ、ねらわれた細胞を守る。

 ところが、インフルエンザのウイルスは次々に変化し、ワクチンが仕掛けたわなをかいくぐろうとするから厄介だ。

 そこで大切なのは、人ごみを避け、よく手を洗うなどの基本動作によって、ウイルスを体の中に入れないことだ。ウイルスに入られたら、対抗するには体力をつけることが欠かせない。

 せきが出る人にはマスクをしてもらいたい。これはウイルスを他人にまき散らさないため守るべき作法だ。

 インフルエンザの薬であるタミフルは、細胞で作られたウイルスが外に飛び出すのをじゃまする。異常行動を招く疑いが消えず、10代には使えないことになっているが、10代なら、薬に頼らずに治す体力があるはずだ。

 自然界には、膨大な数のウイルスがいる。薬害が問題になったC型肝炎ウイルスは20年前に見つかった。今も、毎年のように新顔が人間の世界に飛び込んできて、病気を起こしている。

 ウイルスと人類の戦いに、おそらく終わりはない。正体を知ったうえで、インフルエンザにも備えたい。

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