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【社説】

中部州は独立できる 年のはじめに考える

2008年1月3日

 中部のことは中部の住民が決める。それが地方自治の基本原則です。今年は道州制の導入を含め地方自治のあり方について議論を深める必要があります。

 「こんな筋違いの政治が許されるのか」という事件が昨年末に起きました。政府・与党は地方税である法人事業税を強引に国税に移管し、これを税収の少ない地域に再配分すると決めたのです。

 その結果、東京、愛知、大阪、三重、静岡など七都府県税から合計四千三十三億円が吸い上げられ、他の道府県にばらまかれます。

 地方自治を無視する暴挙

 石原慎太郎都知事は一時「これは強盗だ」と息巻き、愛知県知事や県議会も猛反対しましたが、石原都知事がお得意の政治的駆け引きで豹変(ひょうへん)、愛知、大阪も結局は容認せざるを得ない状況のようです。

 地方議会や住民との論議もしないで、地方税を召し上げるのですから、地方自治の原則を無視した暴挙といえます。

 中部国際空港の二本目滑走路建設は地元が盛んに必要性を訴えている懸案事項です。しかし政府の承諾が得られず実現しません。中央集権政治の窮屈さです。

 地方住民が必要というなら、取りあえず地方の判断に任せたらどうでしょうか。そうすれば、地方の責任で真剣に議論し、たとえばPFI(民間の資金による公共事業の建設と運営)方式などを活用する工夫も可能なはずです。

 昨年実施された全国一斉の小中学生学力テストに、全国の自治体でただ一つ愛知県犬山市が参加しませんでした。これは議論を呼び、全国の注目を集めました。

 あくまで参加を拒否した犬山市教育委員会は文部科学省などから白い目で見られたようです。参加の善悪、テストの功罪、教育への効果などは意見が分かれ、すぐには判断できないところです。しかし地域の教育は地域で考えて責任を持つ、という自立の姿勢は高く評価できます。

 自ら決め、実行し、責任を

 地方自治を貫くために、最も必要なのは基礎自治体である市町村が「自ら決め、自ら実行し、自ら責任を持つ」という確固たる自立の覚悟を持つことです。

 政府の諮問機関である臨時行政改革審議会(行革審)、地方分権推進委員会、地方制度調査会(地制調)などが、地方自治を進化させる手法として県域を越えブロックごとに自治体をつくる道州制の導入が望ましいという見解を打ち出しています。

 二〇〇六年、小泉純一郎首相(当時)は北海道を道州制特区に指定して、先行試験を始めました。北海道なら区域割りはすでに道州になっており、スムーズに運ぶと見たからでしょう。

 ところが当て外れでした。中央官庁は一部の道路建設や二級河川の改修、治山・砂防事業といった重箱の隅をつつくような事業しか、道や市町村に移管しません。

 北海道はこれまで低開発地域として、政府から優遇措置を受けてきました。これら優遇を放棄してまで、すべて自己責任の道州制に移行する心構えは道庁や市町村にできていなかったことも事実のようです。

 政府系機関のほか、自治体、財界、民間団体などから、道州制の姿についてさまざまな提言が出ています。どの提言も大筋では、内政のほとんどを道州に移行、外交、防衛、通貨政策など道州にはできない分野を国が担当するという方向です。

 内政とは、警察、消防、医療、福祉、教育、文化、産業、労働、環境、社会基盤整備、生活などです。行政のほとんどが道州に移管されれば、住民の声が届きやすくなります。

 首相の諮問機関である地制調は全国を九、十一、十三のブロックに区割りする三案を示しています。中部では、愛知、静岡、岐阜、三重、石川、富山の六県を範囲とする中部州、富山、石川を除く東海四県の東海州の二案が提示されています。

 中部州であれ、東海州であれ、この地域は民間経済に活力があり、さらに将来に向かって伸びています。中部州の場合は人口千七百万人、域内総生産(GDP)約七十兆円とオランダやベルギーの規模をはるかに超えています。東海北陸道は年内に全通する見込みです。第二東名・名神、東海環状自動車道も工事が進んでいます。木曽三川を主流として水にも恵まれています。

 空港、港湾、鉄道も含めて社会基盤は一定水準を確保しているうえ、首都移転に応える能力と意欲にもあふれています。憲法九二条に「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は地方自治の本旨に基づく」とあります。

 道州制の論議を深めよう

 本旨とは住民の意思による住民自治のことです。憲法がきっちりと地方自治の原則を明示しているのに、この六十年間、いまだに中央集権に頼りきっているとは残念な話です。

 今年は憲法の精神に目覚め、道州制を含めた地方自治論議を具体的に深めていく年にしたいものです。

 

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