◎延伸あってもまず金沢開業を 新幹線見直しに注文
今年は北陸新幹線金沢―敦賀の着工にゴーサインが出るかもしれない。これから本格化
する政府・与党の整備新幹線建設計画見直し論議を、期待感を持って見守りたい。と同時に、あらためて念を押しておきたいことがある。仮に延伸が決まっても、金沢開業は既定方針の通り、遅くとも二〇一四年度でなくてはならない。
既着工区間を早く開業させることは延伸の「追い風」になる。延伸を阻む壁となってい
る安定的な財源を確保するための道が開けるからだ。
財源として最も期待できるのは、新幹線の貸付料である。整備新幹線が開通すると、設
備がJRに貸し出される。JRは、開業によって大きな利益を得る見返りに、国(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に整備新幹線の使用料を払うことになっている。JR側から見た使用料が、すなわち国に入る貸付料である。
現在、国が受け取っている貸付料は、北陸新幹線高崎―長野、東北新幹線盛岡―八戸、
九州新幹線新八代―鹿児島中央の三路線分で、合わせて年間二百七十五億円に上る。貸付料は全額、高崎―長野の建設費に充てた借入金の返済に回されているが、二〇一〇年度末に東北、九州新幹線が全線開業し、さらに北陸新幹線長野―金沢や北海道新幹線新青森―新函館が順次開業してくると、与党関係者の試算では、貸付料は総額一千三百億円前後に膨らむ。これをすべて借入金返済に充てる必要はなく、金沢―敦賀などの延伸の財源に充てるというのが、見直し案の柱になるとみられる。
さらにもう一つ、「根元(ねもと)受益」と呼ばれる新たな財源も検討されている。た
とえば北陸新幹線長野―金沢が開業すれば、JR西日本ばかりでなく、JR東日本の利益も増える。枝(路線)が伸びれば根元が潤うという理屈であり、金沢開業によってJR東日本から根元受益が得られる可能性も出てくる。貸付料と根元受益を延伸実現の「切り札」に使うためにも、既着工区間の予定通りの開業は必須条件なのである。
むしろ開業を一年でも二年でも早め、貸付料をできるだけ前倒しで取得できるようにす
るのが望ましい。
公共事業は供用しなければ効果が表れない。公共事業費の削減が続くなか、全体に手厚
く予算を配分するというぜいたくは許されない環境になっており、あちらもこちらも横並びでちまちまと工事を進め、結果的に全区間の開業を遅らせるのは、非効率的な予算の使い方と言わざるを得ない。
特に、構想上は東海道新幹線とともに一つの輪を形成することになっている北陸新幹線
の場合、その両端に位置する金沢と東京の間の時間短縮効果が最も大きく、富山の六十分、福井の五十分に対し、金沢は八十一分と試算されている。経済効果もそれだけ大きいとみてよい。こうした観点からも、金沢開業を急ぐ意義は十分にあると言えよう。
延伸の財源確保について、もう一つ付け加えるなら、貸付料などのほかに、もっと当た
り前の発想もあっていい。無駄遣いを見直し、浮いた予算を地方浮揚効果が大きい整備新幹線建設費に使うのである。新年度の政府予算編成では、「埋蔵金」とも呼ばれる特別会計の準備金など約十一兆七千億円を取り崩して国債返済や一般会計への繰り入れに充てることになったが、金沢―敦賀の建設費は約八千五百億円と見込まれている。費用対効果の高さを勘案すれば、「埋蔵金」を延伸の財源に充てる選択肢もある。
沿線自治体にも、既着工区間の早期開業と延伸を「両立」させるための努力が求められ
る。富山県は、年平均二百億円前後と見込まれる新幹線建設費の県負担分を抱え、既に苦しいやり繰りが続いている。石川県でも、富山県境―金沢こそゴールが見えているとはいえ、金沢―白山総合車両基地の工事が本格化するのはこれからであり、福井県境までの分が追加されれば、軽くない負担となる。行財政改革を着実に進め、未来のための投資に備えてほしい。
また、敦賀までの着工が認められれば当然、その先のルートを決める必要性も出てくる
。本来の計画では若狭を経由して大阪とつなぐことになっているが、膨大な建設費と時間が必要になると見込まれるため、現実的な米原ルートを選ぶべきという意見が強まってくることも予想される。福井県だけではなく、石川、富山両県にとっても重要な意味を持つ選択であり、踏み込んだ議論に加わる覚悟を求めておきたい。