年末、ブリの回遊が遅れた。かぶらずしの出来が気になる正月だった おせちを食べるときくらい穏やかな気持ちでいたいものだが、はしを伸ばす先の数の子も黒豆も高くなった。今月から値上げラッシュが始まる。三十年ぶりという牛乳をはじめ、十年、二十年間据え置きだった「物価の優等生」たちも、名誉を返上することになる 値上げの引き金の一つとされるのが、バイオエタノールの需要急増である。ついこの間まで、温室効果ガスを排出しない「夢の燃料」と形容された。大いにもてはやされ、原料のトウモロコシを人や家畜から車へと貢いだ結果、穀物価格を押し上げる「値上げドミノ」が起きてしまった。地球に優しく、財布には厳しい「夢の燃料」である 夢を見るのはたやすいが、手に触れた途端に消える夢、迷いの中で浮き沈みする夢もある。アマゾンの原生林を広大なトウモロコシ畑に変えた次世代燃料に、多くの人はもう夢の文字を託さないだろうし、「地球に優しい」とも言わないだろう 夢の実現といった美辞麗句には、心を許さぬ方がいい。高くなった黒豆を口に入れながら、そんなことを思う。
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