Gedolの感想

2007-12-30

[]神になった(つもりの)医師


実際問題、有限である資源の分配には何らかの選択をする必要がある。それは医療も例外ではないだろう。

で、生死の分かれ目で判断を迫られる医者は「神になったつもり」くらいの意識じゃ無いとやってられないのかもしれない。

娘は泣き崩れた。

「お願いです。できるだけのことをしてください!」

95歳、認知症で施設に入っていた患者である。もう寿命とは思えないのだろうか。

できるだけの看護をしてくださいというのなら分かる。しかし、できるだけの治療をしなければならないのだろうか。

不足している医療資源を奪ってまで、95歳の老人の命を数日長引かせることに何の意味があるのだろう。

しかし、その家族は自分の親の命を1日でも長引かせることで頭がいっぱいのようだった。

このご家族が特殊なわけではない。

死を受け入れることができない人が増えている。

天国へのビザ Doctors Blog 医師が発信するブログサイト

エントリ全体を見渡せば、何となく正しいコトを言っている様にも見える。しかし、細かく見るとツッコミどころが満載だ。*1

例えば

95歳、認知症で施設に入っていた患者である。もう寿命とは思えないのだろうか。

基本的に「個体の寿命」は結果論的にしか表現できないので、このセリフは「全知の神」の言葉だ。現時点で生きている人間はまだ寿命に達していないのだから。

平均寿命を超えている」とか「可能性としてもう寿命だろう」とかの判断なら正しいのだが、それは統計的な判断に過ぎないので個体には直接適用できない。

従ってこの医師の行為は「他人の寿命を個人的判断で決定してしまった」というコトになる。


ココらへんがこのエントリの微妙なトコロ。

例えば「これ以上の治療は患者を苦しめるだけだから」ってな理由なら、一応「患者本位」の判断であると言い切れるかも知れない。

例えばAとBの患者がいて、どちらか片方を優先的に治療するコトによって「自分の施術による合計寿命の延伸を図った」・・・ってコトならまだ理解は得られるかもしれない。

ところがこの医師は「仮想上の患者を優先するために眼前の患者の治療を控えた」形になっている。そしてその言い訳として

不足している医療資源を奪ってまで、95歳の老人の命を数日長引かせることに何の意味があるのだろう。

と述べている。ここで彼は「95歳の老人の命を数日長引かせることの意味」を判断する権限を自分に付与してしまっている。つまり彼は「死の意味」ではなく「生の意味」を判断してしまっているのだ。


最初に書いた様に、医師の行動を含めた「医療の資源」は有限なのだから、この様な判断を強いられる場面は多々あるだろう。それは仕方ないと思う。しかし、その言い訳として

死を受け入れることができない人が増えている。

という嘘を主張するのは如何なものだろうか。

古今東西、人々は死に際して可能な限りの延命を画策して来た。だから「不作為による死亡」が受け入れられないだけだ。「人事を尽くした感」が必要・・・と言ってもいいかもしれない。

受け入れらないのは「死」ではなくて「天命以外による寿命の設定」なのだ。

医師は自分に神と同じ様な「寿命の決定権限」があると信じたい(そうじゃなきゃやってられない)のかもしれないが、家族はそれを認めない。それだけの話だ。

*1:ぶっちゃけ、このケースで治療方法の変更を不作為による殺人として告訴された場合、逃げ切れるんだろうか?

NATROMNATROM 2008/01/01 03:37 誤読をしていませんか?元のエントリーでは「生死の分かれ目で判断を迫られらた医師」も「仮想上の患者を優先するために眼前の患者の治療を控えた医師」もいません。血液が不足していて届かなかったからオーダーを取り消しただけですよ。

GedolGedol 2008/01/01 11:30 NATROMさんへ

>息子さんと娘さんは輸血をしてほしいと言い、濃厚赤血球をオーダーした。3日間に分けて行う予定とした。

>1日目は血液が届いたが、2日目は届かなかった。オーダーしたAB型の血液が不足しているという理由だった。

>輸血製剤のオーダーをするとき、患者の年齢や重症度などは報告しない。この老人は95歳だから後回しにされたというわけではない。年齢に関係なく、若者で輸血を必要とする患者のところにも平等に血液が届かないということである。

>95歳で死にゆこうとする老人に輸血を行うことに何の意味があるのだろう。昨日の血液が、未来のある若い患者のもとに行き渡ったら、助かる命があったかもしれない。

>私は輸血製剤のオーダーを取り消した。そして、家族にそれを話した。

・・・語っておりますが?

NATROMNATROM 2008/01/01 22:11 ことり先生は、いつ、「生死の分かれ目で判断を迫られた」のでしょうか?内心で「この輸血を行うことに何の意味があるのだろう」とは考えるかもしれませんが、家族が希望する以上、「輸血をオーダーしない」という選択肢は普通はありません(それこそ訴訟になる可能性がある)。

ことり先生は、いつ、「仮想上の患者を優先するために眼前の患者の治療を控えた」のでしょうか?一度はオーダーした輸血をキャンセルしました。でもそれは、「仮想上の患者を優先するため」ではなく、「血液が不足していて届かなかったから」ですよ。血液が届きさえすれば、内心で「若い患者のもとに行き渡ったら、助かる命があったかもしれない」と考えつつ、ことり先生は輸血を施行したでしょう。

一つ聞きますが、ことり先生が取りうる別の選択肢があったのなら教えてください。輸血をオーダーして不足のため届かなかったら「不作為による殺人」になるような仕事を我々はしているのでしょうか。もしかしたら、「輸血製剤のオーダーを取り消した」というところを問題にしているのでしょうか。これは単に血液が届かなかったための事務上の手続きですよ。オーダーを取り消さなければ、輸血をしなかったのにしたという記録が残るだけです。不正請求になってしまいます。

ゲスト

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Gedol/20071230/1198973967