◇研修医集めにプラス
■医療
04年に始まった医師臨床研修制度。各病院で募集定員の差はあるものの、県内の12研修病院のうち八戸市立市民病院が唯一、毎年2けたの採用者数を保っている。
人気の一因は“新幹線”。同病院は「一番大切なのは診療環境だが、募集要項で新幹線が止まる点もPRしている」と言う。県医療薬務課も「新幹線は県外の研修医を呼び込む上で絶対にプラス」と認める。青森延伸によって、津軽地方にも研修医が集まることが期待される。
医療体制にプラス効果を与えるのは、道路も同様だ。整備が進む下北半島縦貫道路の起点・野辺地町では12月22日、青森市(青森自動車道)に続いて2カ所目の救急車退出路ができた。これで公立野辺地病院への救急患者の搬送時間は5~8分短縮する。北部上北広域事務組合消防本部は「5分の差は命にかかわる。自動車専用道路は起伏やカーブが少なく、安定した状態で患者を搬送できる」と道路整備の意義を語る。
◇「日帰りも」…企業進出加速
■ビジネス
東京から大阪まで2時間半、青森と比べて40分早いだけだ。「大阪と同じだと思えば青森も近い。日帰りも可能だ」と東京都の企業の役員は語った。
役員によると「東京から3時間」というラインは首都圏の企業にとって、地方進出の可否を判断するうえでの重要な指標になるという。青森地域社会研究所は「企業にとって問題が起きた時に本社からすぐ人を派遣できる安心感があり、精神的な距離が縮まる時間だ」と分析する。
これまで企業誘致の際に青森が売り込みのポイントにしていたのは「広く安い土地」と、雇用環境が厳しいゆえの「豊富な人材」だった。これからは「東京から近い」が加わる。県工業振興課は「誘致企業を支えるだけの県内企業の技術の研鑽(けんさん)も必要」と気を引き締めている。
◇旬の食材で集客
■観光
「おいしい!」。奈良市の男性観光客(32)は平内町のホタテをほおばり驚いた。「こんな新鮮なホタテ、関西では食べられない」
観光の売りとして、産学官で構成する「県新幹線開業対策推進本部・観光推進専門委員会」は食に注目する。各地の旬の食材をPRし、観光客を地域へ呼び込もうというのだ。山菜採りや地引き網などの体験ツアーを組み、おいしい食事と美しい自然、地元の人とのふれあいを楽しんでもらえれば、リピーターが増えるはずだと踏んでいる。
県新幹線交流推進課は「観光振興は業者だけでは無理。地元の力が必要だ」と指摘する。同課は地元の協力を掘り起こすため、県職員を各地に派遣し、地域観光の目玉の発掘や、新商売につながる事業企画を探している。観光効果は即効性があるだけに、開業までに態勢を整えたい。
◇「青森らしさ」失わずに--吉幾三さんに聞く
「東京との間を行ったり来たりする人間としては(新幹線は)便利ですよ」。金木町(現五所川原市)出身で歌手の吉幾三さん(55)も新幹線延伸を喜んでいる。
国内移動では飛行機よりも新幹線に乗ることが多いという吉さん。「新幹線は曲を書くこともできる。物を考えるのには、もってこいの空間ですよ」と話す。
吉さんのヒット曲「雪國」(86年リリース)に出てくるような、夜行列車の風景などは徐々に消えつつある。「それは残念だよね。でも、JRも企業でやっているわけだからね。しょうがないよね」としみじみと語る。
吉さんが心配するのは、新幹線が来ることで「青森らしさ」が失われることだ。「『駅ビルとホテル』みたいのはやめてもらいたいな。ヒバとか青森にふさわしいものでね。お金かけなくてもしっかりしたものを造れるんじゃないかね」と新青森駅駅舎と周辺の景観について提案する。
沿線住民に対しては「新幹線が青森に来るからといって、その地域の人たちが他人(JR)のふんどしで相撲をとるようなことを考えちゃいけない」と自発性を求める。「そこから、どうすれば客を自分たちの地区に引っ張れるのか、と考えなければいけない」。そう語る目は厳しい。
「新青森延伸後」について尋ねると、「もうここまででいいんじゃないの、新幹線も道路も」。そう語った直後、おどけたように「やっぱり新幹線は来てほしかったよね、僕のために」と笑った。【後藤豪】
毎日新聞 2008年1月1日