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2008年1月1日

◎「企業市民」に期待 モンスター退治につなげたい

 新しい年をふるさとにとって実りあるものにするために、金沢経済同友会が提唱した「 企業市民」活動をこの地に根付かせ、その熱気を地域全体に広げていきたい。企業市民の理念は、私たちの社会が失いかけている「公の精神」を思い出させる契機にもなると思うからである。

 今、日本社会のあらゆる場所にモンスターが徘徊(はいかい)している。学校に常軌を 逸した要求をしてくる親を「モンスターペアレント」と呼ぶが、よく似た非常識な人々は、たとえば議員、行政や他の分野にもいる。企業市民活動を通じて、世にはびこるモンスターを退治し、公を大事にする精神の復興につなげたいと思う。

 企業市民活動は企業、経済人だけのものではなく、芸術・文化の世界なら「文化市民」 、スポーツ界なら「スポーツ市民」があってよい。社会を構成するあらゆる団体、構成員が一市民として、地域貢献を積極的に行う意識を持つことができれば、私たちのふるさとのかたちは随分変わるはずである。

 企業市民活動の理念は、古くは江戸期に活躍した近江商人の「三方よし」の精神にも見 て取れる。他国行商を基本とする近江商人は商魂のたくましさばかりが強調されがちだが、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」は私利私欲に走りがちな商売を戒め、とりわけ「世間よし」は地域奉仕の大切さを説く商人心得とされてきた。

 お国が違えば文化や生活習慣もまったく違った時代である。有力商人はゆかりのない異 郷の地で、橋の架け替えや宿場の常夜灯設置、道路工事に献金するなどして信用を得た。売り手や買い手の満足だけでなく、その土地に役立つことにも考えをめぐらせる。現在の地域貢献にも通じる思想である。

 だが、現代において「世間よし」の実践は、言うは易し、行うは難しの課題だ。北陸以 外から進出してきた支店や工場を見渡しても、本社や親会社にばかり目を向け、地域の行事参加などは「われ関せず」といった印象もぬぐえない。そこに住む人たちの顔が見えにくい大都会と同じような感覚なのだろうか。それとも地方はあくまで利益追求の場と割り切っているのだろうか。地方のバス停一つ動かすにも運輸省の許可が必要だったかつての中央集権的体質は、民間の側にこそ色濃く残っている気がしてならない。

 金沢経済同友会は、企業市民活動を具体化する一歩として賛同企業一千社を目標とし、 今年度内に「企業市民宣言の会」を結成する。一つ一つの企業や事業所は小さな存在でも、大きな塊になれば、社会を変えていく力を持つ。地域貢献の面的展開という点で画期的な試みである。

 社会貢献は本業を通して実践していると言う企業経営者が少なからずいるのは残念なこ とだ。優れた商品やサービスを提供する、法令を守る、税金を納める、というのは企業活動の基本に過ぎない。食品偽装や事故隠しなどの不祥事が続き、「企業の社会的責任」が再び流行語のようにもてはやされているのは、企業側の意識の低さを物語ってもいる。

 「国家の品格」や「女性の品格」などがベストセラーになるのは、「品格」が剥落(は くらく)した社会の実相を映し出しているからだろう。公の精神に乏しい地域には、モンスターがはびこり、増殖する。企業が経済合理性のみに血道を上げる地域もまたモンスターの存在を是認する社会ではないのか。「モンスターペアレント」になぞらえて言えば「モンスターカンパニー」が大手をふってまかり通る社会である。企業は真の意味での社会的責任を果たすために、企業市民の旗を高く掲げ、行動を起こしてほしい。

 北國新聞社は創刊百十五年を迎える今年八月、創刊者である赤羽萬次郎氏の名にちなん だ「北國新聞赤羽ホール」を本社隣接地にオープンさせる。まちなかに音楽や芝居、映画など芸術を鑑賞できる拠点をつくり、地域の文化振興に少しでも役に立ちたいという思いを一つの形にしたものである。企業市民の一員として、地域の皆さんとともに活力あふれるふるさとを築いていきたい。(論説委員長・横山朱門)

●モンスターペアレント 「けんか相手の子どもを転校させろ」「乗馬を習わせたいので 、学校に部をつくってほしい」。学校にこんな無理難題を言って昼夜構わず電話を掛けてきたり、長時間怒鳴ったりする親を指す。手を焼く学校の支援に弁護士や警察OBを加えた対策チームをつくる動きもある。


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