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どうなる産科 昭和伊南病院


どうなる産科 昭和伊南病院
(2008/1/1)

 駒ケ根市の昭和伊南総合病院(千葉茂俊院長)の産科診療と分べんは3月いっぱいで休止されることが決定的となっている。市内には開業医もない。まさかと思われていた、産科医師がゼロとなる事態が現実のものとなってしまったのだ。千葉院長はじめ関係者は「診療再開に向け、引き続き最大限の努力をしている」としているが、肝心の産科医師が全国的に不足している現状を考えると、医師の確保に向けた今後の見通しは極めて暗いと言わざるを得ない。

 県の産科・小児科医療対策検討会が、医師は連携強化病院に重点配置する―とする方針を示したのを受け、信州大は昨年、昭和伊南に派遣している産婦人科の常勤医師2人を3月末までに引き揚げることを一方的に通告。引き揚げは信大でも深刻化が進む医師の絶対数不足からやむを得ない措置として決定され、信大に太いパイプを持つ千葉院長がさまざまな機会をとらえて懇願してさえ「交渉の余地はまったくない」(関係者)というほど強硬で、決定が覆る可能性は限りなくゼロに近い。

 信大からの派遣のめどがつかないのであれば、病院が独自に医師を探すしか産科存続の道はない。千葉院長は「あらゆる方面に手段を尽くして医師を探している」というが、現在までのところ応じる医師は現れていない。地元出身の医師に対してもUターンを呼び掛けているが、これも望みは薄いようだ。

 病院を運営する伊南行政組合(組合長・中原正純駒ケ根市長)は窮余の策として、医師を呼び込むための新たな制度を10月に導入した。県外から転入して3年以上勤務しようとする医師に500万円、2年以上勤務しようとする医師に300万円をそれぞれ貸与する―などとする医師研究資金貸与制度がそれだ。対象の診療科は産婦人科のほか、整形外科など。貸与された資金は、それぞれの勤務期間を経過すれば返還の義務は免除されることになっている。県が運用している同様の制度では3年勤務で300万円、2年勤務で200万円が貸与されるが、調整を図るため、適用者にはその差額(3年―200万円、2年―100万円)が貸与される。私立を除く県内の病院では初の導入だが、県外では同様の制度がすでにあり、かなりの数の医師が適用を受けているという。だが、昭和伊南への応募は今のところまだない。

 「医師がいない状態でも出産のプロとして助産師がいるじゃないか」という意見も、市民の間から多く出ている。実際に昭和伊南は医師が確保できない場合の案として助産師が分べんを行う「院内産院」の開設を模索している。だが、現段階では4月の開院は現実的に厳しい状況だ。なぜなら、法律により、助産師が扱うことができるのは正常な分べんに限られていて、容態が急変した場合や帝王切開の必要が生じた時などに対応できる産科医師との契約が条件となっているからだ。開設の見通しについて千葉院長は「医師がいないとリスクに対応できないから、助産師だけでの開設は現実的に無理。伊那中央病院の産科医師に応援を要請するという方法も考えられないことはないが、何か緊急事態が起きた場合、5分、10分を争う時に伊那まで行くのに30分もかかっていては難しい」と話している。開設に向け、引き続き県や信大とともに検討を進めたいとしてはいるものの、院内助産院は県内でいまだ1カ所も開設に至っていない。県衛生部は「院内助産所が増えるよう支援していきたい」とする方針を示してはいるが、具体化するのは一体いつになることやら…。

 そもそも、なぜ産科医師が全国的に不足しているのか―。原因の一つには医師の負担の大きさが挙げられる。出産はいつあるのか分からない。診療を求められれば医師は対応する義務があるから一日24時間、一年365日、まったく気の休まる暇もない。加えて陣痛から出産まで長時間にわたるケースも多いため、昼夜を問わないあまりの激務に耐えかねて退職する医師が後を絶たず、産科を希望する研修医もこの厳しい実態を目の当たりにしてほかの診療科を選択してしまうのだ。二つ目には、医療が聖域ではなくなり、出産に当たって何か問題が起きた場合、医療事故としてすぐに裁判に訴えられるケースが増えたことがある。こうした要因によって医師の産科離れが進んでいるのだ。それでも世のため、人のため―と使命感に燃えて産科を選択してみても、その報酬は激務に見合ったものとはいえないことも多いようだ。くしの歯が欠けるように1人、2人と医師が減っていく結果となり、残った医師の負担はさらに重くなっていくという悪循環が起きている。

 千葉院長は「昭和をどうするというより、上伊那全体の医療のあり方を真剣に検討しなければ地域医療は崩壊してしまう」として、伊那中央病院などに協力、連携を呼び掛けている。中原組合長も異口同音に「今の状態では地域医療は守れない。経営的なことも含め、将来は上伊那広域で、場合によっては飯田との連携も視野に入れながらやっていくべきだ」として、広域連携の必要性を強調している。

 上伊那の出産は年間約1600件で、このうち昭和伊南は約500件、伊那中央は約千件。伊那中央の産科医師は4人だから、1人で約250件を扱っている計算だ。これは全国平均の約130件を大きく上回っている。昭和伊南の産科休止で500件が伊那中央に流れ込むと、ただでさえ重い負担がさらに増すことになる。同病院は約300件といわれる「里帰り出産」を自粛してもらうよう、住民に呼び掛けているが、実家で安心して出産したいのが人情だ。医師の増員が見込めない以上、住民としては当面、助産師の利用を拡大していくしか、できることはないのだろうか―。医療関係者には目先の医師確保だけでなく、数年先を見越した中長期的な視点が求められている。

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