心洗われる除夜の鐘の音に導かれ、二〇〇八年が明けた。昨年は偽装や政治の混迷、殺伐とした事件が相次いだだけに「今年こそ」の願いにも力が入る。
今年は十二支のトップ「子」に戻った。原点に立ち返り、ねずみ算のごとく世の中に福を増やしたい。そのスタートとなる元日の朝、多くの家庭で最初に箸(はし)をつけるのが雑煮である。神に供えたもちや山海の幸のお下がりを食べることが正月の行事食として定着したという。
岡山県内では丸もちの澄まし仕立てで、魚介類や野菜を入れるのが主流だが、全国各地さまざまだ。雑誌「サライ」に珍しい雑煮の数々が載っている。岩手県ではサケの卵や野菜に焼いたワカサギを載せた澄まし仕立てで、甘いクルミだれを付けて食べる。奈良県はみそ仕立てで、もちにきなこを付ける。
島根県ではアズキを甘く煮た中にもちを入れる。朝鮮半島の文化の影響という。香川県ではあんもち入りの白みそ仕立てだ。徳島県など平家落人伝説のある土地には、もちのない雑煮もあるそうだ。
その土地の風土や産物、歴史、人々の生活の知恵などでつくり出された雑煮は、地域や家庭の色を微妙に加えながら受け継がれてきた。さまざまな個性が薄れていく中で地域の味の主張を大切にしたい。
正月は子や孫にふるさとの味を伝える貴重な時である。一家だんらんの雑煮談議も楽しい。