二〇〇七年もさまざまな国際ニュースが駆け巡った。共同通信社と山陽新聞社など加盟社がまとめた「十大ニュース」をもとに一年を振り返った。
第一位は金融不安だった。米国の信用力の低い人向け住宅ローン(サブプライムローン)焦げ付きに象徴される米国での住宅バブル崩壊が、国際金融市場を直撃した。危機は八月、フランスの金融大手BNPパリバが資金繰りに窮した傘下のファンドの運用を停止し表面化した。
世界同時株安、為替の乱高下をきたし欧米で巨額損失を計上する金融機関が続出、経営トップが相次ぎ辞任した。日本の大手金融機関でも損失額が膨らんでいる。米国は利下げ、返済利率の凍結などの対策を打ち出したが市場の混乱は一向に収まらない。複雑化する金融商品の影響が瞬時に世界をかけめぐる恐ろしさをあらためて実感させた。
高まる危機感
同じく今後の経済活動を阻害、日常生活にも直結する新たな暗雲も押し寄せている。十一月、ニューヨークの原油先物相場は一時一バレル=九九ドルを突破。中国やインドなど新興国の強い需要に加え、米サブプライム問題で混乱する金融市場から投機資金が流入、価格を押し上げた。
加えて米国などでバイオ燃料の原料としてトウモロコシの需要が高まり、大豆や小麦も需給がひっ迫。食品価格の高騰を招き、庶民生活を圧迫している。
地球温暖化に対する危機感が急速に高まった年でもあった。環境を守りつつ持続的成長を続けることができるのか。ゴア前米副大統領らがノーベル平和賞を受賞した背景にはこうした未来への不安も隠されている。十二月、国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)は「バリ行程表」に合意した。国際社会はいよいよ待ったなしの対応を迫られている。
相次ぐ信用失墜
アジアに目を移すと九月、六カ国協議で北朝鮮が核施設無能力化に合意し米朝は関係改善に向けて急接近、テロ支援国家指定解除が焦点になった。だが、年末までにといっていた無能力化作業は重油などの提供遅れを理由に越年不可避となり「すべての核計画申告」も来年にずれ込む。姿勢を硬化させた北朝鮮が再び各国を揺さぶる戦術を取る可能性も出ている。
燃料高騰をきっかけにした僧侶、市民らによるミャンマーの民主化要求デモに対し九月、軍が武力を行使、多くの死傷者を出した。このデモを取材中の日本人ジャーナリスト、長井健司さんが兵士に撃たれ死亡した。軍事政権は暴虐、言論弾圧により自ら国際信用を傷つけた。
中国製品の信用失墜も大きかった。米国でペットフードを食べた犬や猫が大量死した。練り歯磨き、玩具からも相次いで毒性物質が検出され欧米で排除の動きも出た。安全・安心を確保、世界の消費者の疑念一掃が欠かせない。
新たな波乱要因
米国は一月以降、イラクに三万人を増派。首都バグダッドを含め一部地域で治安は最悪時より改善したものの宗派対立や反米感情に根差したテロや武装闘争の絶えない泥沼情勢は続いた。これに比較的安定していた北部で波乱要因が出てきた。トルコ側に越境攻撃を繰り返すクルド労働者党(PKK)掃討を理由にトルコが十二月、空爆を仕掛け不透明感が増してきた。
一方、南部でも有数の油田、石油産業地帯を抱える要衝、バスラ州で治安維持を担っていた英軍が十二月、イラク側に権限を移譲した。同州はイスラム教シーア派民兵組織同士の武力衝突が激化しており英軍の規模縮小で「重し」がなくなると治安悪化の可能性がある。混迷するイラクに出口は見えない。
年末も二十七日、パキスタンのブット元首相が首都イスラマバード近郊で開かれた選挙集会の会場付近で暗殺されるという衝撃的な事件が起きた。犯人は自爆した。
ブット氏が米軍の対テロ戦を支持していたことへの反発とみられている。民主化の象徴として国民の人気が高く、支持者らは各地で暴徒化している。パキスタンはイスラム圏唯一の核保有国であり、混乱に懸念は募るばかりだ。国際社会はいつになったらテロのない平和で安全な世界を築くことができるのか。重い課題を抱えたままだ。