リレーコラム アナザーストーリー

交通規制に“逆走” 通勤はパトカーが先導

7月8日、マンハッタンでの出来事だ。ヤンキース・松井秀喜外野手(33)の住むマンションの前には、警備に目を光らすNYPD(ニューヨーク市警)の警官の姿があった。

玄関からゴジラが出てくると大喜び。マンションの警備はどこへやら(?)、パトカーに乗り込むと「きょうも頑張ってくれよ。よし、おれについてこい」とエンジンをふかし、なぜかサイレンまでまわした。

困惑する松井秀だったが、後について出発。するとパトカーはマンハッタンを南北に貫く主要道路の「2番街」のど真ん中に止まり、ゴジラのためだけに交通規制を開始した。

ノンストップでニューヨークの街を走り抜けるゴジラ。粋な計らいに手を挙げると、警官はパチッとウインク。突然、止められた車や周囲の通行人は「何事か」と一瞬、色めき立ったが、理由を知ると怒るどころか笑顔。思わぬVIP待遇に気をよくしたゴジラは、エンゼルス戦で11号本塁打を放った。

ある日のナイター終了後にはこんなこともあった。試合終了直後、球場周辺は大渋滞で車が動かない。ところが、ゴジラに気付いた警官が先導。空いていた反対車線を“逆走”させて、すぐに帰宅できた。イライラしているはずの他のドライバーからは、なぜか口笛と拍手がわき起こった。

いずれも、現場の一警官の独断。目撃者はたくさんいたが、問題にはならなかった。同じようなことを警視庁の警官が巨人の選手にやったら、おそらく日本では大問題に発展するだろう。

「ヤンキースはニューヨークの象徴であり、ニューヨーカーの誇り」という言葉を表す、松井秀とNYPDの「ただならぬ関係」。5年間、温かく見守ってくれたニューヨークの警官や市民は、今回のトレード騒動をどう思っているのだろうか。

(MLB担当・阿見俊輔)