暴力的な性犯罪者の再犯防止のため、居場所を確認できる電子腕輪を強制着用する法律が今春、韓国で成立。来年10月施行に向け、このほど腕輪が公開された。日本では、幼児を狙った暴力的性犯罪の前歴者情報を法務省が警察庁に伝える制度が一昨年始まったが、韓国ではそれを進め、米、フランス、スイスなどの電子監視システムにならった。人権侵害との批判もあるが、「子供を守れ」という世論が勝っている。 (ソウル・小出浩樹)

■常習犯に強制着用 再犯率36% 人権批判高まらず

 ソウル市中部の龍山区。惨劇は、しんしんと冷える2006年2月に起きた。小学4年の女児が近所の自営業者(52)に「熱いもちをあげるよ」と自宅に呼び込まれ、強姦(ごうかん)に抵抗して殺害され、遺体は焼かれた。

 韓国でも、幼児に対する性犯罪は繰り返されてきた。

 中でも社会を震撼(しんかん)させる事件に発展したのは、1970年夏、南部・全羅北道で起きた小学女児強姦事件。女児は21年のときを経た91年1月の白昼、加害者である隣家の主人(56)を用意したナイフで絶命させる。「私が殺したのは人間でなく野獣です」。女性犯が法廷でこう述べた事件は、「レイプ報復殺人事件」と呼ばれた。

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 「電子腕輪制度を導入した背景には、一連の事件が国民に大きな不安を与えたことが大きい」。法務省性犯罪予防政策課の金秉培(キムピョンペ)事務官が指摘した。

 韓国では90年代初めまで、性暴力に関しては刑法の強姦罪があったが、本人しか告訴できず告訴期間も短いなど問題が多かった。「レイプ報復殺人事件」をきっかけに被害者保護を目的とした「性暴力犯罪・被害者保護法」が93年に、子供の保護を目指す「青少年性保護法」が2000年にそれぞれ成立した。

 後者は、米国で96年に成立したメーガン法を手本にした法律で、性犯罪常習者の氏名や住所をインターネット上で公開。「電子腕輪法」はそれを上回る厳しい法律だ。

 政府統計によると、2000年が606件だった青少年性保護法違反事件の申告件数は、05年には3倍の1843件に上った。金事務官は、性暴力犯の再犯性の高さを指摘。再犯率は36%に上るという。

 ソウル・龍山区での少女殺害事件の容疑者も、別の性犯罪で執行猶予判決を受けていた。

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 「電子腕輪」導入に、韓国弁護士協会は容疑者の人権を守る立場から反対を表明。崔太馨(チェテヒョン)弁護士は「判決で受けた刑以外にさらに電子装置を強制するのは、憲法の過剰刑罰禁止の原則に反する」と批判する。

 しかし、これまでのところ、悲惨な性暴力が後を絶たないことから、メディアも含め反対論は大きな声になっていない。

 有力紙・中央日報は特集で、「腕輪は性暴力者に心理的圧迫を与え、先進国では犯罪減が報告されている」「犯罪者が電子腕輪を壊せば何の意味もない。彼らの社会復帰を阻害する」など学識者の賛否両論を掲載し、読者に判断を委ねた。

 「レイプ報復殺人事件」の女性犯らを擁護している全州性暴力予防治療センターの黄知映(ファンチヨン)所長は「性暴力者の再犯性を考えれば電子腕輪のような措置は必要だが、完全な解決法ではない。性暴力を悪とも思わない犯罪者の教育・治療が重要だ」と話す。

■電子腕輪制度
 韓国では「特定性暴力犯罪者に対する位置追跡装置着用に関する法」により導入。欧米同様、衛星利用測位システム(GPS)を使って、装着者の位置を割り出す。対象者は(1)13歳未満に性暴力を行った(2)性暴力による複数の懲役刑を受けた者が5年以内に再犯した‐などのうち再犯の危険性が認められる者。

=2007/12/31付 西日本新聞朝刊=