◎金沢の町家再生 平成の「寺子屋」にしたい
北陸各地に残る町家の保存、再生に本腰を入れる動きが活発になってきた。金沢市が「
金澤町家活性化基本計画」を策定し、モデル町家の整備や空き家の流通促進事業に乗り出すことも、そうした取り組みの一つである。単なる建築物としての保存ではなく、使ってこそ町家の価値も高まるという発想で、多目的利用を図ってほしい。
金沢市は、伝統的建造物群保存地区や、こまちなみ保存地区と合わせ、「金澤町家地区
」を指定する方向という。一九五〇(昭和二十五)年以前に建築された歴史的建築物を対象とする広い範囲となるだけに、整備される三カ所のモデル町家を再生の拠点と位置づけ、たとえば親しみやすい平成の「寺子屋」のような学びの場としても活用しながら、町家の保存再生を「点」から「面」に広げていきたい。
町家の拠点化については、学識者でつくる金澤町家研究会のように、市の支援を受けて
既に実践している例もある。市内中心部の三軒を借り受けて、寺町の町家が市民の憩いの場、尾張町二丁目の町家は土蔵ホテルとして活用し、東山二丁目の町家は、町家についての相談も受ける事務局を設けた。
寺町の町家では、これまで茶会や能楽発表会も開かれ、尾張町と東山には町家に関する
資料を集めた「町家文庫」を開設した。最近では、民間でも「町家ビジネス」に注目し、ギャラリーや宿泊施設として活用する動きもみられる中で、行政としても、町家という歴史的住空間で、さまざまな人たちの集いの場となるような利用方法を探っていきたい。
基本計画に盛り込まれた施策では、モデル町家の改修費を市が助成し、店舗や宿泊施設
としての再生を後押しするというが、既成概念にとらわれない発想も、どんどん取り入れてもらいたい。
「金沢検定」に広範な世代の人が挑戦しているように、ふるさと教育の浸透によって、
郷土の歴史や文化に対する関心が高まっている折でもある。寺子屋という切り口で、子供だけでなく高齢者も含め、幅広い年代層が、城下町の市井の生活を伝える「器」で学べる機会を提供してもいいのではないか。
◎貸金業法の改正 景気減速に棹さす恐れ
一年で最も資金需要が高まる年の瀬に、消費者ローンなどの規制を強化する貸金業法が
施行された影響が気になる。民間調査会社によると、今年一―十一月の倒産件数は既に昨年の年間合計を上回った。景気がおおむね回復基調にあったこの一年、倒産全体の六割以上を零細企業が占めた理由の一つには、貸金業法を改正した影響もあったのではないか。
法改正によって、過剰貸し付けなどが規制されたことで、多重債務者を減らす一定の効
果はあった。ただ、半面で事業資金などの貸し渋りが一層きつくなったのも事実である。中小零細企業の業況が厳しいなか、融資審査の厳格化が続けば、自己破産や零細企業の倒産がさらに増え、最近の景気減速に棹(さお)さす恐れも否定できない。
灰色(グレーゾーン)金利の撤廃へ向け、消費者金融大手や一部の事業者金融は、既に
金利の引き下げに動いている。借り手にとっては、良いことのようでも、貸し手は引き下げと同時に、貸し倒れリスクを考慮して、融資先を絞っている。このため、顧客の融資を断るケースが増えており、消費者金融大手によっては、新規成約率が40%以下に落ち込んだところもあるという。
融資の縮小は、景気の面から見ると、明らかなマイナス要因である。乗り越えていかね
ばならない試練なのだろうが、問題なのは、小売りや飲食業などを営む個人事業者の苦境である。こうした事業者は、一週間程度の短期資金を必要とする場合があり、そのときに資金繰りがつかないと倒産に追い込まれてしまうことがある。
事業を続けていくだけの力を持ちながら、短期資金の手当てができずに退場を迫られる
事業主がいるとしたら、もったいない話である。ヤミ金融業者らがつけ込むスキは、こんなところにもあるのではないか。法改正の功罪を総点検し、必要ならば、一度は立ち消えになった特例金利の設定を再検討してはどうか。
サブプライムローン問題や円高、原油高などの影響で、景気の先行きは予断を許さない
。政府・日銀は、過度の信用収縮を起こさぬよう、市場の動きに目を凝らし、早め早めに手を打ってもらいたい。