2007年12月30日
更新終了のお知らせ
今年ももうすぐ終わりですね。僕も明日、帰省します。
このブログも頑張って更新した時期もあり、現在のように放ったらかしている時期もあり色々でした。そして色々な意味で、すでに現実が僕の当時の妄想を追い越してしまい、どんどん先に進化していっていると感じています。梅田さんに触発されて「ゲーム業界の次の10年を考える」と大見栄を切っていましたが、何てことはない、現実は余りにも早く変化していって、追い付くのがやっと(と言うか追い付けていない・・・)というのが現状です。
ゲーム業界の片隅から、野次馬的に業界ウォッチをしてきましたが、もうこのブログを更新することはもう無いだろうと思いますので、ケジメとしてこのブログを閉めさせていただこうと思います。
完全匿名ブログとして、妻にしか存在を教えていないブログでしたが(妻も読んではいませんでしたが)、このまま匿名で終わろうと思います。
それでは皆様お元気で!
2007年10月14日
Xbox事業に関するうがった憶測
大変久し振りの更新になります。更新再開という訳ではなく、ピンポイントの復活になりますので、RSSリーダーには登録しないようお願いいたします。
■点から線へ
最初は、1つ1つの情報は、それぞれ別の理由に基づいた個別の現象のように見えました。しかしある情報とある情報に関連性があるのではないかと思えた時、全てがパッと1つに繋がることに気が付く瞬間というものがあります。今回はそんな話です。
以下の情報がその発端でした。
Game*Spark - : 泳ぎ続ける魚のように……あのBungieがMicrosoftから自社組織に独立宣言
Halo〜Halo3という、これ以上は望みようがないヒットシリーズを産みながらの今回の独立は、単体の情報として見るならば、さほど不思議には思わない類のものです。最近ではGod of Warの制作者が独立したりなど、似たような事例はいくらでもあります。
Game*Spark - : 寝ても覚めてもゲーム作り!『God of War』のDavid Jaffe氏がスタジオを設立
しかし、個々の情報としては気にならなくても、似たような情報が2つ続くと、そこに何かしら理由があるのではないか、この2つは関連した出来事なのではないか、と思ってしまうのが人情というものです。
Game*Spark - : 『Project Gotham Racing』シリーズはどうなる?!Bizarre CreationsがActivisionに移動
片方は開発スタジオの資本的な独立、片方は開発スタジオの買収と微妙に現象は異なりますが、いずれもプラットフォームを支えてきたファーストパーティータイトルの開発元の、やや意外な離別です。
PlayStation3がローンチに失敗したのを見届けた後とは言え、まだ競争は終わった訳ではありませんし、手を抜くには早すぎます。そう考えた時に、今まで何気なく見過ごしてきたいくつかの情報が頭をよぎりました。
『ブルードラゴン』がニンテンドーDSに! / ファミ通.com
ITmedia +D Games:すべてはリアルタイムで変化する――Xbox 360「インフィニット アンディスカバリー」スクエニから発売へ
Game*Spark - : クローズドドア…『Shadowrun』の開発会社FASA Studioが閉鎖に
ピーター・ムーア氏、MSを退職へ--EAのスポーツ部門担当プレジデントに:ニュース - CNET Japan
個々の事象がどのように繋がっているのかは、もちろん部外者の私には分かりません。しかし自社から発売される予定だったソフトをスクエニに譲るなど、マイクロソフトが自社でソフトを開発、販売することに、かなり及び腰になってきているように傍からは見えるのも事実です。しかしハードで赤を出している(と言われる)関係上、利益を生み出す唯一の方法であるソフト部門を切り捨てることは、普通に考えたらあり得ません。古いソースになりますが、たとえば以下のような事情があります。
後藤弘茂のWeekly海外ニュース:Xboxの秘密のベールを剥ぐ「Opening the Xbox」
例えば、Xboxを市場投入するかどうかの最終の社内会議の前に、最悪33億ドルの損失の可能性があるという試算が出る。成功するためにはXbox 1台当たり9タイトルが売れて、しかも、そのうち3タイトルがMicrosoft制作タイトルでなければならないという。
最近、企業における持続可能性(サステナビリティ)が良く言われますが、Xbox事業を継続させていくためには、少なくとも収支をある程度はバランスさせる必要があります。そのためには売れるファーストパーティータイトルを増やす必要こそあれ、手放す必然性は全くありません。
そしてXbox部門を引っ張ってきたピーター・ムーア氏の突然の転出。
こうしたことに疑念を募らせると、当然あのニュースが頭をよぎってきます。
MS、Xbox 360ハードウェア問題で保証期間延長--10億ドルの予算計上:ニュース - CNET Japan
これらの事は、基本的にバラバラに報道されたことであり、そして1つ1つの事象はそれほど奇異ではありません。そういう事もあるだろう、と聞き流せる類のことです。しかし、これらの事が全て繋がった事象であると仮定した場合、そこから導き出される推測は非常に重大なものになります。
そう、今回のハードウェア問題で、前世代に引き続き今世代でも赤字事業になることがほぼ確定してしまった家庭用ゲーム機事業から、マイクロソフトは手を引きたがっているのではないか、と推測することが可能なのです。さすがに撤退は無いにしても、事業としての規模を小さくしたがっているのではないか、ということです。
■サービス化の波
今までマイクロソフトは、幾度となく他社がデファクトスタンダードを握ろうとするのを退けてきました。MacやOS/2とのOS戦争しかり、Netscapeとのブラウザ戦争しかりです。そしてソニーが1999年3月2日、次世代プレイステーション(PS2)の概要を発表し、リビングルームでのIT覇権を握ろうとする野心をつまびらかにした時も、マイクロソフトは同じ行動を取りました。
続報:次世代プレステの発表会で出井社長がコメント,「ソニー・グループ全社を挙げて応援する」 - デジタル家電 - Tech-On!
「パソコンの世界におけるIntel社とMicrosoft社に対して根本的なチャレンジになるかも知れない」
今では笑い話になってしまいましたが、家庭用ゲーム機がIT業界を制するようになると本気で信じられていたのが、あのPS2発売前夜、1999年という世紀末の時代だったのです。
しかし、それから8年ほどの時が経ち、マイクロソフトの前に脅威としてそびえ立っていたのは、ソニーではなくGoogleでした。ウェブ関連のニュースを多少なりとも追っかけている人なら、今のマイクロソフトがソフトのサービス化に向けて、思いっきり舵を切っているのはご存じでしょう。そしてその戦いが、かつてないほど分が悪いことも。
なぜなら、今の人々にとってのプラットフォームは、すでにクライアントOSからウェブに移っているからです。だからiPhoneは、OS X搭載ながら、人々がいつも使っているウェブサービスを、概ねウィンドウズを使っている時と同じように使えるのです。
プラットフォームを握ることが生命線のマイクロソフトにとって、「テレビにつながる玩具」以上にはなり得ないということが判明した家庭用ゲーム機は、もはや主戦場ではありません。少なくとも8年前と比べて、家庭用ゲーム機に抱いていたビジョンはかなり減退したはずです。そしてその事業が莫大な人材リソースと、膨大な資金を必要とするならば、それは尚更です。
8年という時間は、実社会においてはそれほど長い時間ではありません。しかしことIT産業においては、それは恐ろしく長い時間です。マイクロソフトを取り巻く状況は、次世代プレイステーションが発表され、Project Midwayが動き出したあの時から、余りにも変わり果ててしまいました・・・。
■最後に
当ブログの遍歴をご存じの方には今更言うまでもありませんが、もちろん、この予想は余りにも穿った見方に基づいた出来の悪い憶測にすぎません。常に斜め上の予測をしてきた当ブログだからこそ吐ける野次馬意見の1つです。念のため・・・。
2007年04月29日
久夛良木さん退任
Sony Computer Entertainment Inc.:役員人事のお知らせ
長いこと更新をさぼっていました。大変申し訳ありません・・・。ただ、今回ばかりは書かずには要られません。何と言っても、開設以来、ずっとウォッチしてきたクタタンが、SCEを離れることになってしまったのですから。何だかんだ言って、くたたんの言動をずっと追いかけてきましたから、一つの時代の終わりを痛感させられました。
■久夛良木さん退任から読み取れること
なぜ、今、このタイミングで辞めることになったのかは、全く分かりません。色々推測はできますが、どれもただの想像以上にはなりません。ただ1つだけ間違いないと言えるのは、今度のSCEはソニー本体からのコントロールが効きやすくなるということです。元々平井さんの社長就任時に、本体からSCEの実態が見えなかったとストリンガーCEOが語っていましたから。以下、asahi.com:beの記事からの転載です(残念ながら元記事は消失していました)。
――ゲーム事業を担うソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、サイロとして成功したのではないですか。
ストリンガー (SCEが設立された93年)当時、独立した環境を与えられたのは、他に誰もゲームのことを 理解していなかったからです。しかし、新型機「プレイステーション3(PS3)」はネットワーク機器です。 コンテンツの配信など様々な用途が出てくるのですから、異なる部門にいるソフト技術者との連携が必要になります。
一方的に「縦割り組織は絶対反対」とは決めつけませんが、コミュニケーションを妨げるなら私は反対します。 サイロは、大きな会社では「今のままでいよう」とし、孤立を好むものです。 それが多過ぎると、本社はそこで何が起きているのか分からなくなります。
――SCEの久多良木(くたらぎ)健社長を会長、平井一夫氏を新社長とする人事には、縦割りを解消する狙いもあったのですか。
ストリンガー そうですね。SCEには(1)他部門とのコミュニケーションの経路を広げる(2)創造的ビジョンを維持する ――の二つが必要でした。久多良木会長は後者を体現しており、将来に目を向けて集中してもらいます。 平井社長には、ソニー本体とアイデアを共有し、理想像について対話できるようにしてほしいのです。
このことは、ソニー本体にとっては非常に喜ばしいことだと思います。つい先日、「ソニーシティー」と呼ばれる新社屋への引越しも完了し、今までバラバラだった各部署が連携して動けるよう体制作りが本格化してきていますが、これもその一環だと思います。
特に久夛良木さんが強烈に推し進めていた半導体製造への投資については、今後は明確にフェードアウトさせるのがソニー本体の意向のようです。
ソニー、聖域にようやくメス (時流超流):NBonline(日経ビジネス オンライン)
そしてソニー本体のこのような意向が、久夛良木さんのモチベーションを急速に奪ってしまったのかもしれません。本田雅一さんが指摘するように、このタイミングでの退任は、PS3にとっては冷や水を浴びせかけるものでしかありませんから。世界中を驚かせるようなCPUを作ることに情熱を傾けてきた久夛良木さんにとって、半導体事業のフェードアウトは耐え難い屈辱のはずです。何せ、今まで壮大なビジョンを何度と無く語ってきましたから・・・。
ASCII.jp:【特別企画】SCEI・久夛良木氏、退任までの軌跡
■久夛良木さん退任後のSCE
さて世間ではソニーのゲーム機事業撤退説がささやかれていますが、それは絶対に無いと思います。少なくとも2〜3年という短期的な未来では無いでしょう。理由は3つあります。
- PS3のコストダウンに成功して、かつ固定費を削減すれば、仮にPS3がPS2ほどの成功には到らなくても、利益を出すことは可能。PSPはもちろん、PS2も今後も収益に貢献できる。
- 日本ではXbox360がまったく普及してなく、欧州でもそれほど勢いがある訳ではない。一方、PlayStationは日本、欧州では強い。つまりワールドワイドではPS3とXbox360は良い勝負に持ち込める可能性があり、そうなれば次世代に充分繋げられる。Wiiに関しては、そもそもハードの方向性が全く異なり、将来的には脅威ではない
- ブルーレイディスクの一般ユーザーへの普及に欠かせない。DVDの時よりもPSにかかっている役割が大きい。
上記の推測が当たっているなら、今後のSCEの舵取りは予想しやすくなります。おおよそ以下のような施策が予想されます。
- PS3の急激なコストダウン
- 半導体のFabの売却
- 利益を挙げていない部門のリストラ
- より売れる(利益に貢献できる)内製ソフトの充実
- Xbox360に対して明確なアドバンテージをアピールしていく(ワールドワイドで均等に売れていることなど)
ワールドワイドでXbox360と五分にやり合う、と言うのも充分難しいミッションですが、ある程度の現実味はあります。
■懸念されること
ただ今回の人事で、ソニー本体にとって今後の舵取りがしやすくなるという点ではプラスですが、それは当のSCEにとっては、必ずしもプラスの側面ばかりでは無いだろうと思っています。もちろんプラスの部分もあると思いますが、やはりゲームソフトに愛を持っていない人たちが舵取りをしても、それはユーザーに響かないと思うのです。それが一番懸念されることです。
特に直接の競合相手となるマイクロソフトですが、巨大なキャッシュフローに目が行きがちですが(もちろん初代Xboxではそれが無ければ既に撤退済みだと思いますが)、それ以上にキーマンにゲームの理解者が多いことが競争力の源泉になっているのではないかと思います。そうでなければ、Xbox Live!をここまで育てることはできなかったと思います。そもそもDirectXというミドルウェアを練り上げてきたバックグラウンドがありますから、当然と言えば当然なのですが。
久夛良木さんも、ハード寄りではあったものの、ゲームという文化そのものに対して理解があったのが、実はSCEの大きな強みだったと思います。もちろんそういう意味では平井さんにも期待できるのですが、平井さんではソニー本体のコントロールを受けやすくなるでしょう。まあ本社、子会社という関係なので当たり前と言えば当たり前ですが・・・。
現在のSCEは大変な苦境に陥っているように見えます。しかし、もし本当にソニーがゲームプラットフォーム事業から撤退する日が来るとしたら、それはPS3の躓きが原因ではなく、それに端を発して、ソニー内でゲームに対する共感、理解を失った時だと思います。まだSCEは本当の意味では躓いていません。もし躓くとしたら、むしろこれからです。
2007年03月25日
ゲームはサービス化へ
■早速出た第2の仮想空間サービス
[splume] スプリューム :: スプリュームの世界へようこそ スプリューム、オープンエンドなWeb上の3D仮想空間「splume」β版を開設 : VentureNow(ベンチャー・ナウ)NEWS
前回の記事で、これから参入しても遅くないと書きましたが、その直後に仮想空間サービスのオープンβ開始が発表されました。もちろん開発は相当前から行われていたそうです(研究開発は2000年から、事業家に向けて株式会社を設立したのが2005年10月)。
去年が動画投稿元年だったとするなら(世間一般で注目を集めたという意味で)、今年は仮想空間元年ということになりそうですね。
先の記事で、セカンドライフが最適解ではないと書きましたが、スプリュームは最適解により近いサービスだと感じました。セカンドライブよりも仮想空間内で可能なインタラクティブな仕掛けが弱いという弱点はありますが、それはプロプライエタリなソフトウェアよりもHTMLの方がインタラクティブ面で弱かったことと同じで、いずれ差は埋まっていきます。であるならば、よりオープンなスプリュームの方向性の方が将来性があります。
思うに、くたたんが考えていた「ネットとAVとゲームが溶けた世界」というのも、このような方向性が最もコンセプトが近かったのではないか、と思います。
もうリンデン・ラボを買収するのには天文学的な資金を必要とするようになってしまいましたが、スプリュームはまだこれからのサービス。どこぞの大手ゲーム会社が買収したとしても、僕は驚きません。そして第3、第4の新しい仮想空間サービスが登場することも、もはや疑う余地はありません。
ゲーム会社が3Dやインタラクティブ技術を活かせる格好の分野ですから、今すぐにでも舵を切るべきです。まだ最適解は見つかっていないのですから、今からでも絶対に遅くないはずです。
■ゲーム産業はサービス化へ
PS3の「Home」とセカンドライフはなぜ違うか・GDC07報告 デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS 北米で敗色濃厚なPS3とゲーム産業の死・GDC報告(2) デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS
今年もGDCが開催されました。一般ウェブメディアでも様々な記事でその内容が紹介され、すっかりメジャーイベントになった感があります。そんな中でも今年は、新氏のコラムがなかなか面白いです。
はっきりと指摘できるのは、新たなサービスが次々展開されていくことで、ゲーム産業全体のビジネスチャンスの幅が大きく広がっていこうとしているという事実だ。閉塞感が高まっていたこれまでのパッケージビジネスよりも、収益面で高いポテンシャルを持つことを誰もが気づき始めている。今後、売り上げだけを見れば産業規模が一度縮小するとしても、利益面でははっきりと改善する可能性が高い。ゲーム産業の価値観が新しい地平に向けて、大きくスライドを始めようとしている。
これは本当にそうだと思います。僕もこれからのゲームは情報サービスの方向に進化するとは思っていましたが、こんなに急速に「場の気分」のようなものが、サービス化への方向にシフトするとは予想していませんでした。何と言っても、パッケージビジネスはいぜんとして巨大ですから。しかし多くの開発者が肌感覚で感じている通り、もはやパッケージソフトを作るのは時代遅れだ・・・、という「気分」が立ち上ってきています。もちろん、これは目新しさも含めた、一時の流行的な側面もあります。しかし個々の事例の失敗はあると思いますが、トータルで見ると、ゲーム会社はサービス化の方向へとベットすべきだと思います。今ならまだ、先行者利益を得られる段階です。ゲームポータルのように、最適解が見つかってからでは、参入コストが跳ね上がってしまうからです。
またサービス化に舵を切るもう1つの消極的な理由として、パッケージビジネスが難しくなってきたという側面もあります(もっともこれは大作系のゲームにのみ言えることですが)。これについて新氏は、グレッグ・コスティキャン氏のことを紹介しています。ボードゲームのゲームデザインや「グレッグ・コスティキャンのゲーム論」で有名な方です。
GDC期間中に表彰式が行われる「Game Developers Choice Awards」という賞がある。そのなかで新しいビジネスジャンルを切り開いた人物に与えられる「マーベリック賞」を今年受賞したのは、古株の開発者、グレッグ・コスティキャンという人物だ。彼は2005年8月に、米Escapist誌で「Death to the Game Industry(ゲーム産業に死を)」というショッキングなタイトルの記事を発表した。これまでのパッケージ中心のビジネスモデルの崩壊を予言したのだ。それが今、現実になろうとしている。
パッケージビジネスが崩壊、まあ崩壊までいかなくても市場規模がガクッと減る事態になったとして、問題はそれを「アンハッピー」と捉えるか「ラッキー」と捉えるか、ですね。
僕は、これはラッキーだと捉えるべきだと思います。サービス化という新しい波に乗るために背中を押してくれているのだと考えれば良いのです。良いは悪い、悪いは良い、です。MMORPGやゲームポータルサービスなどの新潮流に対し、日本はいつも乗り遅れてきました。そろそろ勉強を活かしても良い頃です。
2007年03月11日
Game3.0
西川善司の3Dゲームファンのための「ソニー“Game3.0”」講座 GDC 2007特別編 フィル・ハリソン氏基調講演によって明らかにされた「Game3.0」の世界
いや〜、またしてもVAIOが壊れていました・・・。前2回は子供に液晶を割られてしまったのですが、今回は電源が入らなくなるという故障でした。ギリギリ3年保障の範囲内だったので、今回は修理費がかからなかったのが幸いです。ちなみに原因はマザーボードの故障だったそうです。ソニーのカスタマーサービスの対応はとても良かったですよ。
さて、最近は、ネットではGDCの話題で盛り上がっていますね。一番話題になっているのはPS3の「home」でしょうか。何かサプライズがあるとは予告されてきましたが、そう来たか、という感じの発表でした。最近、ネット上の話題がWeb2.0、Ajaxから離れて、Second Lifeに偏りつつありましたから、タイミング的にも丁度良かった感じですね。そして、打ち出したコンセプトが「Game 3.0」。なるほど、Ver.3ときましたか。またhomeほどのインパクトはありませんでしたが「Little Big Planet」という、ユーザーによるクリエイティブを活かすタイプの実例も併せて紹介されました。ゲームにおけるWeb2.0は、主にUGC(ユーザー・クリエイテッド・コンテンツ)という側面が打ち出されるというのは、マイクロソフトによるXNA Game Studio Expressと同じですね。
個人的には、ゲーム業界全体がこっちの方向の進化を目指すことには、とても賛同しています。ユーザーのクリエイティビティを活かすというのは、決して簡単なことではないと思うのですが、それだけに業界全体で100のチャレンジをすれば、その内の3つか4つは成功するかもしれない、そしてのその内の1つは大成功するかもしれない、という風に思うからです。下手な鉄砲も何とやらですが、まさにシリコンバレーはそういった論理で動いているみたいですし。
そして個人的には、Second Lifeはイノベーターだと思いますが、最適解ではないと思っています。ドラクエが登場する前のウルティマのような存在に近いのではないでしょうか。ですから今から参入しても、遅くないと思うのです。少なくとも、今からゲームポータル事業を始めるよりは、ずっと見込みがある。そういう意味でも、日本のゲーム関係の方々には是非目指して欲しい方向性です。特に日本には2ちゃんねらーという、草の根のボランティア創作に熱意を燃やす人材が溢れているのですから、UGCが花開く可能性は他の国よりも高いと思うのです。
2007年02月03日
ゲーム開発者の二者択一
先の次世代ゲームの3要素のコメント欄が、当ブログ開設以来の盛り上がりになっています。世間的には荒れているとも表現される状態ですが、日本と欧米のゲーム開発について、恐らくどこのゲーム会社でもあるであろう議論の、一通りの対立点が浮き彫りになっていると思います。僕の記事よりもずっと面白い内容になっていますので(はてブのコメントでも、コメント欄が面白いと書かれることが多いのが当ブログなのですが(笑))、是非ご一読のほどを。
さて、僕が先の記事を書いた、そもそもの動機は何だったのだろうと自問してみました。未来の可能性は様々で、僕の記事はその極端な方向性を一方的に支持するものです。色々思い返してみると、自分自身の今後の方向性に原因があったことに気が付きました。
■従来型ゲームの成長
まずコメント欄でもありましたが、去年、北米のゲーム市場が急拡大したことが挙げられます。もちろんDS liteがヒットし、またDSのゲームが日本のように息長く売れたこともそれに貢献はしているのですが、日本のゲーム市場拡大とは異なり、従来型の大作ゲームも非常に良く売れているのが、日本とは異なります。
そしてGears of Warがバカ売れというのももちろんニュースとして大きかったのですが、カプコンのデッドライジング、ロストプラネットがワールドワイドの出荷(恐らく主に北米)で共に100万本を突破したというのが、日本のゲーム業界にとってはもっとも大きなニュースだったと思います。北米で成功したというだけでなく、両方とも完全新作だったからです。
そして従来、開発効率が悪いと言われていた日本のゲーム会社ですが、CEDECで自製のゲームエンジンの存在を公にし、その技術力もアピールしました。このことが他社に与えたインパクトは相当な物があったと思います。
西川善司の3Dゲームファンのための「ロスト プラネット」グラフィックス講座
技術力を誇示し、海外で支持を得るという点では、従来はメタルギアソリッドを擁するコナミや、グランツーリスモのSCEの独壇場でした。しかしコナミやSCEが、開発ノウハウの共有を怠ったのとは対照的です。もちろん、何でもかんでも共有できる訳では無いのですが、開発ノウハウの共有については、今後多くの会社が体制の見直しに迫られると思います。こういうことについては、新進の開発会社の方が過去のしがらみが無い分、むしろ進んでいると思います。
もちろん、ロストプラネットのような大作を作り、そして新規タイトルの認知を図るには、それ相応の開発費、広告費が必要になります。ロストプラネットのそれは、計4000万ドルだったそうです。実際には共通ゲームエンジンの開発費も含まれているでしょうし、マイクロソフトからの支援もあったと思いますので、実際の費用はもっと少ないとは思いますが。
Game*Spark - : 『ロストプラネット エクストリームコンディション』総制作費は広告合わせて48億円! by Taka
■非従来型ゲーム(娯楽)の成長
全てのゲーム会社がカプコンの真似をできる訳ではありませんが、それでもカプコンの北米市場での成功は、多くのゲーム会社に影響を与えるだろうと思います。
しかしこういうニュースの一方で、非従来型のゲーム、もっと大きな括りで言うと「娯楽」にも、様々な成長が見られています。特に印象的なのが、モバゲータウンの急速な成功だと思います。
プレスリリース 株式会社ディー・エヌ・エー:ケータイゲーム&SNSサイト 「モバゲータウン」 会員数が300万人を突破
また、土地を購入しなければ無料で参加できるようになってからのSecond Lifeの急成長もめざましいです。近い内に日本版のリリースが予定されていますが、2ちゃんねらーがSecond Lifeの世界で何をやらかすかを想像するだけで、ネットゲームの世界で大変なことが起こると予想するのは、極めて容易です。
2ちゃんねると言えば、ひろゆき氏がプロデュースした「ニコニコ動画」も、非常に話題になっています。常日頃愛読させていただいている野安さんの日記でも、以下のように取り上げられています。
これからのテレビゲームは、こういうエンタテインメントと戦うことになる。ユーザーの時間を奪い取る戦いだ。がんばってください>開発者のみなさま。いつまでも「昔ながらのゲーム」しか作らないでいると、確実に負けますな。
そしてゲームとは直接競合はしませんが、大きな流れとしてはiPhoneの登場や、アクトビラのサービススタートなど、家電の情報化がじわじわと進んできているのも、将来を考えるとゲーム業界とは無縁の動きではありません。
僕が思うのは、このような「従来型ゲームの技術、ゲームデザインの進化」と「異分野からの娯楽分野への参入」のどちらを脅威と感じるかで、思い描く将来像が大きく変わってくる、ということです。
僕は、端的に言えば、後者の方がずっと脅威と感じますし、もっと言えば自分も後者の波に乗りたい!と思います。純粋に遊ぶ側からとしても、僕は後者の方が面白いと思いますし、現実問題として作る側に回ったとしても、後者の方が仕事に興奮できると思います。この部分は理屈でどちらが正しいと白黒を付けることができる物ではなく、単純に気質というか、好みに依存する部分なのでしょう。
特にニコニコ動画は、先の記事でも書いた、非同期コミュニケーションの素晴らしい一例だと思います。テレビで派手なテロップが蔓延していますし、それを苦々しく感じている人も少なくないと思いますが、ニコニコ動画を見て、改めてテロップの強さを痛感します。ゲームも、内容のクオリティを上げるよりも、テロップで突っ込みを入れるシステムを作った方が、はるかに面白さがアップするんじゃないか・・・、などと思います。
■ゲーム関係者の分岐点
ゲーム会社としては、充分に規模が大きければ、上記の問題は2択ではなく、両方ともやればいいじゃんということになります。先に挙げたカプコンも、大作路線と平行してDSでの新機軸ゲームに取り組んでいますし、EAやUBIなどの海外大手パブリッシャーもそうです。DSで非ゲーム路線を推進した任天堂だって、ゼルダやメトロイドのような大作路線を継続させています。また最近では、デッドオアアライブのような大作路線を継続させつつ、SeedCと組んで「LieVo」というオンラインゲームプラットフォーム事業に乗り出したテクモのような先鋭的な例もあります。
テクモ/SeedC、「『LieVo』カンファレンス 2007 WINTER」を開催
しかし、ゲーム開発者1人1人は、身体は1つしか無いのですし、また開発者として世に送り出せるゲームの数には限りがあるのですから、自分はどちらの路線に進むのか、二者択一で選択する必要があります。これはゲーム開発者全員が選択しなければならない、踏み絵のような物だと思います。
そして、従来型ゲームに限界を感じ、オンラインゲームの世界で頑張っている人もいる訳です。ゲームポットの植田社長もその一人です。
編: 元々コンシューマをやっていたメーカーの出身ですから実はコンシューマ展開は宿願なのかなと思っていました。
植田氏: そんなことないない(笑)。一旦僕はゲーム業界を離れたのですよ。ビジネスそのものに対してすごく疑問を感じていたところがあったので。その後ITの業界に入りそしてオンラインゲーム業界に戻ってきました。良いところも悪いところも理解しているつもりです。
そのような選択を、自分も迫られました。正直に言うと、従来型のゲームへの未練が無いと言ったら嘘になります。しかし目の前に道が2択になっていて、自分は片方を選択しました。将来への自分なりの読みもありましたし、そちらへの興味の方が強かった。それだけのことです。そういう気分が記事に出たのだろうなあ・・・、というのが自分なりの分析です。
珍しく自分語りになってしまいました(笑)。まあ、自分の未来を選択して、従来型ゲームに近い将来は関わることは無くなったであろう自分の未練が記事に出ているのだと思っていただけたらと思います。
ゲーム内オークション
ITmedia +D Games:「メイプルストーリー」、ユーザー間アイテム交換システムに「オークションシステム」を実装
ヤフオクのゲーム的な面白さは良く知られているところですが、そうなると当然、ゲーム内でオークションという発想がでてきます。メイプルストーリーに実装されたオークションシステムは、かなり本格的な物のようです。ウルティマオンラインでもお店を開くことができましたが、このような遊びはオンラインゲームとは非常に相性が良いですね。
個人的には、このような非同期な通信によるオンラインプレイが、今後のゲームでは非常に重要になってくると思っています。単に同期を取るのが大変だから、という意味ではなくて、遊ぶ側にとって自分のペースで進めることができて、かつ次にプレイするのが非常に楽しみになるからです。
たとえばメール、掲示板、SNSなんかは、非同期コミュニケーションの典型例です。逆に同期を取るコミュニケーションは電話、インスタントメッセージ、チャットですね。大きなイベントがある時は、みなで時間を共有したくなります。あけおめ電話で携帯の回線がパンクするのは毎年恒例です。いわゆる「祭」ですね。逆に言えば普段の日常では、そこまでして時間を共有しなくても良い訳です。コミュニケーションは非同期で良い。
もちろん単なる非同期通信だと、同期通信のような相手の存在の生々しさや、瞬間的な駆け引きの連続というような、濃いゲームプレイを実現することはできません。そこはトレードオフになります。
2007年01月28日
次世代のゲームの3要素
さて、久し振りに次世代のゲームについて考えてみたいと思います。
昨年は家庭用ゲーム機市場が急拡大し、またこちらの統計には含まれないPCゲームやオンラインゲーム、携帯電話ゲームを含めれば、ゲーム市場自体は大変な規模に達していると思います。にも関わらず、いまだ家庭用ゲーム業界に光明が見えた感はありません。むしろ従来型のゲームが行き詰ってきて、ではどのような方向に進むべきなのか、ということについて明確な答えが見えていないからだと思います。
■今後の方向性の選択肢
家庭用ゲーム業界が、ここ数年の混迷期に選択した方向性には、主に以下のような選択肢が存在していたと思います。
- 欧米市場
欧米市場は、未だ従来型のゲームが元気です。ただ従来型と言っても「アクション性」「箱庭的に何でも出来てしまう自由度」「主に火薬によるバイオレンス」など、日本市場での従来型とは性質は全く異なります。しかしこれらのゲームは、日本の一般層には受けなくても、特にゲーム開発者のような高度なゲームに憧れるタイプには、特に「箱庭的な自由度」が評価される土壌というのは、非常に魅力的に映ります。そうしたこともあり、多くのゲーム会社が北米重視のゲームタイトルを開発してきました。その中でカプコンやテクモは成功していると言えます。今後も、技術力に自身のある企業にとっては、魅力的な戦略となると思います。
- インターネット
ディアブロの大成功から、日本のゲーム会社のいくつかは将来はオンラインゲームが主流になると考え、ウルティマオンラインの登場がそれを更に促しました。しかしアーケードや家庭用ゲーム機のゲーム会社の多くはオンラインゲームに次の可能性があることには気付いていたのですが、その市場で成功したのはPCゲーム系の新規企業でした。もちろんスクウェアエニックスのクロスゲートやFF11は成功例なのですが、市場全体を見ると、MMORPGも、ゲームポータルサービスも、メインプレイヤーは新規企業です(特に韓国の)。しかし今後は現在主流のゲーム機全てがネット接続機能を持つため、ここを軸に今後巻き返してくるという期待感はあります。
- 携帯電話
携帯電話については、登場時はスペックが低かったことやパケット代の問題から、各社ともサイドビジネスの域を抜け切れていませんでしたが、しかし潜在的可能性に対する期待感は非常に大きく、どの企業も将来の成長分野と考えていたと思います。しかし単純なコンテンツ販売では、期待ほどには収益が家庭用ゲーム機の規模ほどには伸びず、その一方でインデックスのようなモバイルコンテンツに強い会社の登場や、モバゲータウンのようなゲームポータルサービスなど、新規企業による成功例が生まれました。
- 生活浸透型
「生活浸透型」とは、DSのタッチジェネレーションシリーズに代表される、没入型ではない、生活の中でゲームを楽しむという新しいスタイルを提案するゲームにより、従来のゲームユーザー以外の層を取り込んでいこうとする取り組みです。この試みは当初の予想を裏切り、大変な成功を収めました。ただ新しい試みだということは、逆に年月の重みに耐えた実績は無い訳で、今後もこの方向が有効であり続けるのかという点については、意見が分かれています。
もちろんこれらの選択肢は排他的ではなく、複数選択も可能です。たとえば「欧米市場」「インターネット」重視、「インターネット」「携帯電話」重視、「携帯電話」「生活浸透型」重視、なんていう組み合わせです。
この他にも、たとえばバンダイナムコやコナミに代表される、メディアミックス重視という方向性もあるのですが、これはゲーム黎明期からありましたし、そして今後、それが無くなるということは考えにくいため、ここではあえて触れることはしません。
■今後のゲームデバイスの予想
さて、家庭用ゲーム業界側から見た、将来への対応策を見てきましたが、そもそも将来のゲームデバイスは、どのように変化していくのでしょうか?これについて予想してみます。
まずインターネット、携帯電話がさらに発展していくのは明白です。そしてその発展の影響をゲーム業界以上に受けてきたのが、新聞や雑誌、そして最近ではテレビなど広告に利益の多くを依存しているマスメディアです。この分野で起きている変化は、むしろインターネットによって新しい面白さを開拓できるゲームとは違い、非常に破壊的です。たとえば僕は新聞の購読を、随分前にやめてしまいました。それで大きく困ったことはありません。その代わりにIEのポータルサイトを新聞社のページにすることで補っています。
しかし新聞が無くなるのかと言えば、たしかに部数は減少傾向にはありますが、意外に残っているとも言えます。従来の購読者がそのまま続いているだけで、長期的にも減少傾向は続くと予想するのが普通なのだと思いますが、無くなるということは無さそうだとも思います。梅田氏の下記の言葉が非常に分かりやすいです。
例えば新聞をとりながら、ネットでも情報を集めたりしてもよけいにお金がかかるわけじゃない。両方併用しても損になるようなことはありません。そう考える人たちがいなくなる未来は考えにくい。
実は僕も、たとえば車雑誌などは、やっぱり買ってしまうのですね。ネットでも車情報を入手することは充分可能なのですが。ネット以前の雑誌に情報を依存していた頃とは、雑誌のステイタスは随分と違うと思いますが、利便性は残っています。実は新聞の購読をやめたのも、新聞が要らないからではなく、単に古新聞を溜めて整理するのが面倒だというのが主な理由で、その手間が無いなら購読を再開したいとも思っています。だから新聞配達の人が、古新聞を持って帰ってくれるサービスを始めてくれると非常に嬉しいのですが。
話は反れましたが(笑)、しかしこのマスメディアで起きている変化は、今後のゲームに起こる変化を先取りする物だと思います。
インターネット、携帯電話という、消費者に直接コンテンツを届けることができ、更には消費者の側からもコンテンツが生成され、配信される(CGM)ことが可能になったことで、消費者の側が、その生活スタイルや生活時間により、コンテンツを楽しむ方法を能動的に選択できる時代になったと言えます。
その時重要になるのは、いかに消費者にとって「快適に」ゲームを遊ぶことができるか、というある種の「利便性」だと思われます。パソコンなら、インターネットに常時接続されていること、携帯電話なら、常時接続にプラス、移動時間などいわゆるすきま時間に遊べることが利便性になります。それに対してたとえばDSなら、すきま時間に遊べ、かつ高速起動やタッチパネルによる快適操作が挙げられます。据置機は大画面テレビで遊べることや、パソコンよりも取り扱いがはるかに楽なことが利便性として考えられます。
現状では、ハイエンドPCや据置機が、ゲームのコンテンツのクオリティ、豪華さでは抜きん出ていますし、そういうゲームを求める層にとっては、将来的にも状況はそう大きくは変わらないと思います。
しかしイノベーションのジレンマにもある通り、新しい利便性を持った破壊的イノベーションは、現時点ではローエンドでも、将来的には必要充分なクオリティを獲得します。だとすれば、今現在実現できるクオリティよりも、消費者にとっての利便性こそが将来の需要を大きく左右すると考えるべきだと思います。
そう考えると、取り扱いが容易な「ゲーム専用機」は、取り扱いが容易であり続けるのなら、将来は有望だということになります。ワープロがPCに取り込まれたのと同じと考えない方が良いと思います。僕の経験では、PCのOSがGUIになってからは、ワープロ専用機よりもPCの方が、取り扱いははるかに容易になったと記憶しています。唯一の弱点はPCや携帯電話のように全数がネットに繋がっている訳では無いことだと思います。
そして利便性という点から考えると、将来的には携帯機が据置機よりも有利な立場に立ってくると予測することもできます。これは持ち運べるというよりもむしろ、オールインワンなので電源を入れるだけですぐに遊べるという気軽さ、利便性のためです。
同じような理由で、PCでも、フラッシュに代表されるブラウザゲームや、ウィジェットのようなウェブベースのクライアントアプリは非常に有望だと思います。Vistaでは従来型のPCゲームの取り扱いを容易にする工夫が成されていますが、消費者に利便性をもたらすには、まず「インストール」という作業そのものの敷居を下げる必要があると思うからです。
そして携帯電話ゲームも、UIの悪さ(画面が小さい、レスポンス、ボタン配置など)はあるものの、いつでも持ち歩いていること、常時ネット接続されていることなどによる圧倒的な利便性があるため、独自の発展をしていくと思います。
■次世代のゲームの姿
僕が提示したデバイスの未来については、多くの人が予想している物と同じようなビジョンだと思います。
だとするならば、最初に挙げた4つの方向性に対して、答えは自ずと明らかになります。
簡単に言えば
-
「欧米市場」重視は間違い
-
「インターネット」「携帯電話」「生活浸透型」が未来の方向性
ということになります。
現在達成できる最高のクオリティを重視するよりも、将来伸びる方向に注力した方が、最後には後者が競争優位を確立します。それは「インターネット」「携帯電話」の選択肢でも書いた通り、両分野で成功したのは既存企業ではなく、インターネット、携帯電話に専業してきた新規企業だったからです。このような、クオリティは劣るが新しい利便性を持つイノベーションは、従来の秩序を破壊する破壊的イノベーションで、それに対抗するには、より高いクオリティを達成することではなく、自らが破壊的イノベーションを起こす側に回らないといけないのです。
そして、前項で挙げた「利便性」という考えに照らすなら、「携帯電話」は、むしろ「携帯性」と表記し直すべきだと言う事になります。こうすることで昨今の携帯ゲーム機の急速な普及を説明できるからです。
- インターネット
- 携帯性
- 生活浸透型
「インターネット」「携帯性」が今後のゲームの方向性だと言うことには異論が少ないとしても、「生活浸透型」については異論があるでしょう。先にも書いた通り、一過性のブームである可能性があるためです。そして僕も、部分的には現在のブームは一過性であろうと考えています。
それでも「生活浸透型」という看板を下げないのは、生活に浸透していけるゲームの方が、そうでないゲームよりもユーザーにとっての利便性、遊ぶための敷居が低いからです。生活に浸透できるのですから当たり前なのですが、そういう根本的なところを支持しているからです。
たとえばレシピソフトが、本当に雑誌や料理本、テレビの料理番組よりも本当にユーザーにとって利便性が高い物なら、現在の新規性、物珍しさが無くなっても、ジャンルとして残っていくと思います。もちろん僕は、物珍しさで売れている部分も多分にあると思います。様々なダイエット法がブームになり、そして消えていくのと同じです。しかしきちんとダイエット効果があるものは、その後も残ります。それと同じことなのではないかと思うのです。
娯楽の場合は、そもそもが飽きられる宿命にあるものなので、ゲーム内容のトレンドは変化していくと思います。しかし大きな流れとして、消費者にとってよりゲームが遊びやすくなる、利便性が高まるというのは、今後も進行していくと予想します。なぜなら消費者にとっては、その方が都合が良いからです。
2007年01月22日
iPhoneについて
iPhoneの発表は、久しぶりにIT関連機器で大きな話題になりましたね。個人的には、OSがOS Xだというところに衝撃を受けました。UMPCのようにフルセットのPC用OSが乗っている訳では無さそうですので、よく考えるとそれほど大きなニュースではないのですが、それでもコンピューティングのある部分がPCから携帯に移っていく未来が垣間見えたような気がしました。また、推測によるとCPUはARMだそうですね。この辺り、隠された部分は意外と現実的で、夢を見させる部分を表に出したという感もあります。
現実的に考えると、ゲーム開発という観点からは、iPhoneはOS X上で動くプロプライエタリなプラットフォームになりそうなので、マルチタッチインターフェースを活かしたゲームは色々考えられそうですが、携帯電話用ゲームとしては特殊なジャンルになりそうです。
アップルがゲーム開発者をリクルートしているという噂もありましたから、iPhoneがゲームプラットフォームの1つとして立ち上げてくる可能性も無くは無いですが、現状ではサブ的なコンテンツに留まるでしょう。ただ初期のマックの頃のような、お洒落で実験的なゲームが集まるようになると、面白い存在になりそうです。もし僕が開発するのだったら、あえてウィジェットという形で、観察系のゲームや暇つぶしゲームを提供する方が面白そうだと思います(話は脱線しますが、AdobeのApolloも含めた、ウェブベースのクライアントアプリという方向性は、これからのオンラインゲームの標準的な形式になりそうな気がしています)。
むしろiPhoneの登場で、携帯キャリアが支配力を有するのは音声通話のみで、ネットサービスは、携帯キャリアを通さない、オープンインターネット上にサービスが移っていくという方向性が、より強化された印象を受けました。mixiのような、画面のレイアウトは小さい画面用に特化するけれど、サービス内容はPCも携帯も変わらない、という方向性ですね。ついに携帯キャリアのSIMロック解除の検討も始まるそうで、市場のルールは徐々に変わりつつあるようです。
携帯の“カギ”解除 市場活性化へ検討 総務省|IT|経済|Sankei WEB
そのようなことも含めて、携帯電話用のゲーム開発者も、長い目で見た時のプラットフォーム像を再考していく時期に入ってきたように感じます。Docomoのメガゲームも、根本的な突破口にはなり得ていないところを見ると、性能向上とは別の軸のブレイクスルーが必要な気がしています。モバゲータウンのような「サービスとしてのゲーム郡」というスタイルでももちろん良いのですが、やはり作り手としては1つのコンテンツで世の中をアッと言わせたいという欲求を持っていますから、そのような可能性を考えていきたいです。
2007年01月03日
ゲーム会社の存在意義
新年あけましておめでとうございます。
さて、前回の記事で2006年を振り返りつつ、今後の展望を書いてみましたが、あの記事は基本的にゲーム開発者に向けて書いたつもりです。
今回は新年早々の記事ということで、再度、今後の展望を書いてみたいと思いますが、今回は趣向を変えて、現場の開発者寄りではなく、開発のマネージャ寄りの方々に向けて記事を書いてみたいと思います。
既存のゲーム会社に向けた文章なので、これからのネット時代を考えると古臭いと思われる向きもあるかと思いますが、そう感じる方は「自分に向けられた文章では無いのだ」と判断してもらえたらと思います。
■ゲーム会社の存在意義
まず、そもそもゲーム業界、ゲーム会社というのは、何のために存在しているのでしょうか?
第一の理由として、娯楽の1つとしてゲームが求められているという、需要、市場の存在が挙げられます。この需要は、娯楽の常として、世の中の流れや技術の進歩に応じて、拡大したり、縮小したります。時には需要がほぼ消滅してしまうこともあります。
第二の理由として、生活のためにお金を稼ぐ必要がある労働者の存在も挙げられます。こちらは供給側ですね。こちらは、人間が生きている限りは無くなることはありませんから、世の中に市場がある限り、それを満たす程度の労働力は常に確保できると考えられます。
しかし働く側の視点から考えてみると、ゲーム会社への就職がお金を稼ぐための手段でしかないのなら、それは何もゲーム開発でなくても良い訳です。明日から外食産業に転職したってかまいません。現在はお金を稼ぐ手段は様々です。そういう中であえてゲームという将来が不安定な会社に就職する人は、そもそもゲームという対象そのものに興味があることが多いと考えられます。
ですので、ディベロッパーも含めればゲーム会社がこれだけ世の中に多くある現在では、ゲームに携わりたいと考えている人は、働く環境を自主的に選択します。つまり「より自分が興味を持っているゲームを作っている会社に入社する」もしくは「自分で会社を興して、自分が興味を持てるゲームを作る」です。もちろん選択基準には多くの場合「安定した生活」も含まれるのですが、それは条件の1つでしかありません。
つまり構造としては、「市場の存在」という会社が存在するための絶対条件が満たされた上で、「ゲーム」というメディアに興味を持つ開発者たちによって成り立っているのが「ゲーム会社」「ゲーム業界」ということになります。
このことから、つまりゲーム会社は2つの需要を満たす必要があることが分かります。そしてこの2つが、ゲーム会社が存在している意義だと定義付けることができます。
- 市場、消費者に望まれるゲームを出し続けること。
- 開発者にとって魅力的な職場を提供すること、つまりある程度の生活水準と、魅力的なゲームを開発できること。
■市場と開発者の間のギャップ
僕は日本のゲーム業界は、少なくともPS1までは、消費者から望まれるゲームと、開発者が作りたいゲームは、ほとんど一致していたと思います。厳密にはPS1の頃から取りこぼしてきたユーザー層はあったはずですが、市場としては拡大していたので、許容範囲と言えました。
しかしPS2以降は、明らかに市場が求めるゲームと開発者が作りたがるゲームに、ギャップが目立つようになってきました。たとえば開発者の多くは、続編ではなく新作を作りたがります。これは続編ばかりが目立つ現状からすると信じがたいことなのですが、実際にはそうです。しかしPS1では意欲的な新作がブレイクすることが少なくなかったのですが、PS2からはそうした成功例がめっきり減りました。もちろん成功例はありましたので、市場が保守的になったという意味ではありません。しかし少なくとも、開発者が考える「作りたかった新作」と、市場が求める「遊びたい新作」の間に何かしらのギャップが存在した、とは間違いなく言えると思います。少なくとも、PS1の頃よりもそのギャップは拡大しました。
今になって見れば、そのカラクリは実に簡単な仕掛けでした。市場は「よし楽しく、より簡単なゲーム」を望み、開発者は「より面白く、より高度なゲーム」を望んでいた、というギャップです。DSという性能が著しく制限される代わりに、直感的なインターフェースを備えていたゲーム機によって、そのギャップがつまびらかにされました。
以前にも書いた通り、ゲームの難易度は下がり続けていますから、そういう意味では開発者は市場の需要に応え続けていたと思います。しかし難易度は下げても、ゲームの内容やシステムまで簡素化することには抵抗感がありました。それは単に開発者の欲求だけでなく、それがゲームをやり込んだコアユーザーの欲求でもあったからです。
今の時代、ゲームの開発者は22〜32歳ぐらいがもっとも開発者の層が厚いと思いますが、この世代は年少の頃からゲームに親しんできたコアユーザーが多いです。ですので開発者とコアユーザーの間には、意識のギャップは余り無いのですね。一方で、ゲームはあくまで一時の余暇と割り切っているような層とは、年々意識のギャップが拡がっています。
こうした状況は、特に自身がコアユーザーである開発者にとっては、直視しづらい物となります。その代表的な物の1つが、まさにコアユーザー向けの1ジャンルとして栄華が終わりつつあった頃のシューティングゲーム「レイディアント・シルバーガン」サターン版に収録された、ディレクターによる隠しメッセージです。
シルバーガンにおいては「シューティングゲーム」という、ゲームの1ジャンルの栄枯盛衰のみに限定された問題でした。しかし今日においては、いわゆる「より高度なゲーム」全体が地盤沈下を起こしかけているという点で、問題の範囲は非常に大きくなっています。そのため開発者による反発も、より大きいものがあります。
しかも北米というより大きい市場においては、より高度なゲームが歓迎されるという土壌ががあります。このことが問題をより一層根深くしています。実際、カプコンのように次世代機らしいゲームで海外で多くを売り上げ、成功している例がありますから。
■経営不振の真因
つまり現在は、先に挙げた
- 市場、消費者に望まれるゲームを出し続けること。
- 開発者にとって魅力的な職場を提供すること、つまりある程度の生活水準と、魅力的なゲームを開発できること。
というゲーム会社が存在している意義における「ゲーム」は、PS1の時代までは同じ物を指していたのですが、PS2以降は違う物を指すようになった、という状況にあります。つまり存在意義が矛盾している訳です。ここに現在のゲーム会社の多くが経営不振に陥っている、真の原因があります。
たとえば仮に、トップダウンの力によって、開発者自身は望まないが消費者からは望まれるゲームを開発して、一時的に大きな利益を挙げたとしても、それでは存在意義(2)を満たせないので、その会社は求心力を失い、有能な開発者は会社を離れてしまうでしょう。そうすると長期的にはその会社は衰退してしまうことになります。そのような例を、私たちはすでに多く見てきているはずです。
■開発者マネジメント
ゲーム開発者の多くはコアゲーマー寄りであるという前提に立った場合、もはや開発者にゲームを自由に作らせればうまくいく、という時代は終わったということになります。しかし嫌々「売れるゲーム」を作らせてばかりいては、その会社は長期的には衰退します。この矛盾を解決しないと、ゲーム会社という組織は自己矛盾に陥り、存在することができなくなります。
それを解決するには、開発者の意識を変える必要があります。それも強制的な手法ではなく、むしろ開発者が自発的に市場に合ったソフトを開発するような雰囲気、考え方を根付かせるということが必要になります。それは簡単に言えば人材教育ということになりますし、少し独自の言い回しをさせてもらうなら、開発者マネジメントがより重要になる、という表現になります。開発者1人1人に自発的な変革を促すということは、人材教育という言葉だけでは括れない、包括的なマネジメント作業となるからです。
これからは、それに成功した会社が成長していき、失敗した会社が衰退していくという流れがより加速していくと思います。最新技術のキャッチアップなどとは違い、目に見えにくく、また効果がいつ出るかも分からないという点で、非常に難しい改革になると思います。しかし持続的な成長を目指すためには、避けては通れない道だと思います。
この問題をさらに推し進めると、そもそもどこまで開発者を正社員として抱え込むべきなのかという問題や、パブリッシャー、ディベロッパーの関係の再構築、最近増えてきた独立系のエース級開発者との協働などまで話題が拡がるのですが、それについてはすでに多くの方々の関心事だと思いますので、特に触れません。
繰り返しになりますが、ゲーム会社は、市場の欲求(需要)を満たすことと、開発者の欲求(生活の糧、仕事を通じての自己実現)を満たすことが存在意義です。そして今、その両者のギャップが開いてきているのが、今日の様々な問題の真の原因であり、会社が成長していくためには、そこを解決しないと本当の解決にはならない、ということなのです。